仏教ってなんだろう。毎日のスマホとの生活の中でキリスト教であれ、イスラム教であれ、お葬
式とかお墓詣りとかで出会う仏教であれ、いわゆる宗教について何の関心もない高校生をしてい
る諸君が、そんな疑問を持つなんて到底想像できない。にもかかわらず、どこかで生きていること
の疑問や不思議、まあ、その次には、つらさや悩みには、諸君なりに出会う。みんなの中にいるの
が辛かったり、生きていることの無意味に出会ったりする。人間は実は二千年以上も昔から死ぬ
ことの不可避性と生きることの不条理性について考え続けてきた。現代社会であろうが、古代社
会であろうが真面目に生きている人間がいる限り普遍的な現象だろう。
著者は仏教哲学の研究者だが、「社会思想はそれが生まれた時代背景と不可分離の関係
にある事か理解するが、普遍的な思想、とくに哲学は、時代を超越するところにその本質があると
考える。ごちごちの歴史主義者は、例えばソクラテスやプラトンの思想は、アテネの奴隷制社会
で生まれたものであるから、その歴史的制約を無視して彼らの思想を論ずることは許されないとい
う。しかし、わたくしは、哲学は、それが生まれた歴史背景から剥離することができるがゆえに哲学
なのだと考える。言葉に実在する指示対象があるかどうかという価値は、プラトンの時代であろうと
現代であろうと不変である。」という態度で、ブッダの思想を論じている。ぼくにしても「ふーん」と
唸る、初めての知見の山だが、展開はスリリングだ。高校生にだって、新しい思考の世界がきっと
開ける。(館長)
宮元啓一【インド哲学・国学院大学教授】
「ブッダが考えたこと」(角川ソフィア文庫)