小説家夏目漱石と俳句・短歌の革新運動を叫んだ正岡子規が親友であったことはご存じだろ
うか。十二歳で出会い、三十五歳で死に別れた。たくさんの手紙が行き来し、最後はロ
ンドンにいた漱石は親友の死に目に立ち会えなかった。子規の弟子高浜虚子に送った手
紙が最後の便りとなった。最初から一心苦心して最後にたどり着くとこんな俳句が並ん
でいる。
《倫敦にて子規の訃報を聞きて
筒袖や秋の柩にしたがわず
手向くべき線香もなくて暮の秋
霧黄なる市に動くや影法師
きりぎりすの昔を忍び帰るべし
招かざる薄に帰りくる人ぞ
皆蕪雑、句をなさず叱正。十一月一日倫敦、漱石拝》
二人の友情の終焉を涙なしに読み切ることは難しいと、僕は思う。書簡集と直接関係
はないが石原千秋の編集の研究集も手の取ってほしい。(館長)
夏目漱石『漱石・子規往復書簡集』(和田茂樹編)
石原千秋『夏目漱石三四郎をどう読むか』
(河出書房新社)