村上春樹の文庫、新刊です。『風の歌を聴け』でデビューした作家が、それ以来の、た

とえば
19796月の群像新人賞の挨拶ね、「壁と卵」と題された、エルサレム賞の挨拶

まで載ってる。
「フィッツジェラルドの『他人と違う何かが語りたければ、他人と違った言

葉で語れ』という文句だけが僕の便りだったけれどそんなことが簡単に出来るわけはない。四

十歳になれば少しはましなものが書けるさ、と思いながら書いた。今でもそう思っている」

れが新人賞の時の挨拶の一部ね。

そして、彼は三十八歳で『ノルウェイの森』を書いたんだ。

六十歳を超えたエルサレムではもしここに固い大きな壁があり、そこにぶつかって割れ

る卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます。そう、どれほど壁が正しく、卵が間違っ

ていたとしても、それでもなお私は卵の側に立ちます。
正しい正しくないは、ほかの誰かが決

定することです。もし小説家がいかなる理由があれ、壁の側に立って作品を書いたとしたら、

いったいその作家にどれほどの値打があるでしょう。」

もう一冊の小山さんの本は、村上春樹がどんなふうに卵の側に立ち続けたかを、作品

順に読み解いた批評。(館長)

2015・師走 その1

村上春樹 『雑文集』(新潮社文庫)

小山鉄郎 『村上春樹を読みつくす』
                          (現代新書)