ボーアモデルの新しい電子配置についての提案
兵庫県立姫路東高等学校 高 橋 直 久
1 はじめに
ボーアの電子配置モデルは原子の化学的性質や化学結合を説明するのに,とても重要な概念である。しかし,どの教科書1)を見ても,その説明は一義的になされているだけで,電子配置から共有結合,そして,それに基づく分子の立体構造について体系的な説明がなされていないように思う。
そこで,私が考えている,新しい電子配置モデルを提案し,それに基づく分子の立体構造について述べることにする。
2 新しい電子配置モデルの提案
現在使用されている教科書1)では,電子配置に同心円の電子殻をもつボーアモデルが使われている。そして,その電子配置は原子核に近いK殻から順に,L殻,M殻へと電子が配置される。その配置は,K殻なら2個,L殻とM殻なら8個の電子が均等に分割された軌道上に配列するといった方法で説明がなされている。しかし,電子の配列順序は教科書によって異なり,これといった決まりはない。代表的な電子配置を図1に示す。
| 図1 リチウムLiからネオンNeまでの電子配置 |
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このボーアモデルは周期律に従って軌道に電子が入っていく様子を示すモデルとして,高校生にとって理解しやすいモデルである。
しかし,ボーアのモデルを使って電子配置を教えた後で,電子式の書き方を説明した時に,炭素,窒素,酸素の電子式について、下記のような間違いが見られた。
| 電子式の間違いの例 |
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また,非共有電子対や不対電子がなぜ生じるのかとか,その個数はいくつになるのかが,理解できない生徒がいた。例えば,酸素原子の非共有電子対は2対,不対電子は2個であるのに,上記のように書いたために、非共有電子対が3対で不対電子は0個と答える生徒がいた。
教科書による説明では,非共有電子対や不対電子のでき方やその数といった,結合に重要な概念の説明が不十分であり,生徒にとって解りにくい。 このような間違いが生じたのは,8個の電子を均等に8分割した軌道上に配列するという電子配置の考え方が,生徒に混乱を起こしたことにあると考え,今回新しいボーアのモデルを提案することにした。
量子論的にはPauli の排他原理2)「原子のとりうる量子状態としては,2つの電子が全く同じ1組の量子数を持つような状態はありえない」や Hund の規則2)「多重度の大きい配置はエネルギー的に安定であり,電子はできるだけ対をつくらない電子配置をとる」が成り立ち,これらの排他原理と規則からすると,次のように電子を配置するのが最も適切であると考えられる。
| 配置のルール |
@各軌道には最大2個の電子が入る。
A各軌道に1個ずつ満たされてから,2個目の電子が入る。 |
この時,L殻には1つのs軌道と3つのp軌道があり,これら4つの軌道は混成し,エネルギー的に等価な4つの軌道sp3混成軌道をつくると考える。2)(図2)
| 図2 sp,sp2,sp3混成軌道 |
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このL殻にあるエネルギー的に等価な4つのsp
3混成軌道をボーアの新しい電子配置モデルを使って図3のように表すことにした。
新しい電子配置モデル
この新しい電子配置は,L殻に2個ずつ電子が入る軌道が4つあることを示している。
このモデルを使って,図1の電子配置を配置のルールに従って書き直すと図4のようになる。
| 図4 LiからNeまでの新しい電子配置 |
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このような配置のルールに従って電子を配列していくと,電子式で表記される非共有電子対や不対電子が形成される過程がよく分かる。(図5)
実際の授業の中でこの新しい電子配置モデルを使って説明すると,L殻やM殻の電子配置がそのままスムーズに電子式の表記法につながり,
先ほど例示したような間違いは全く起こらなかった。また,非共有電子対や不対電子の説明をする時も何ら混乱なく理解ができていた。
このように,新しい電子配置モデルによる説明が電子配置のみならず,非共有電子対や不対電子,及び,電子式を説明するのに効果的であることを授業の中で確認することができた。
また,電子対を共有することによって生じる共有結合の仕組みが体系的に説明され,生徒にとって理解しやすくなる。(図6)
3 分子の立体構造モデルの提案
L殻とM殻にはエネルギー的に等価な4つのsp3混成軌道が存在する。これらの軌道の電子が分布する方向は空間的に反発が最も小さく,エネルギー的に最も安定な立体構造,すなわち正四面体構造をしている。例えば,4つの風船を1カ所でくくった場合にその風船の立体的な構造が正四面体構造をとることからも,正四面体構造は空間的に安定な構造であることが分かる。(写真)
| 写真 正四面体構造のモデル |
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次に,共有結合でできた分子(塩化水素HCl,水H
2O,アンモニアNH
3,メタンCH
4)やこれらの分子と水素イオンとの配位結合でできたイオン(オキソニウムイオンH
3O
+やアンモニウムイオンNH
4+)の立体的構造も正四面体構造のモデルで体系的に説明できる。(図7)
4 おわりに
原子の化学的な性質や化学結合を説明する時に,ボーアモデルの電子配置が重要になる。本稿で述べた新しい電子配置モデルは,ボーアのモデルを否定するのではなく,ボーアのモデルを基本におき発展させたものである。その主な特徴は,電子を配列する順番が量子論に基づいたものであり,電子配置の規則性が理解しやすいという点が,これまでのボーアモデルと異なるところである。
このモデルを使うことで,これまで理解しにくかった電子式,非共有電子対,不対電子といった概念や共有結合による分子の立体構造が体系的に説明され,生徒にとって理解しやすいものになると考えている。3),4)
5 参考文献
1) 三省堂,東京書籍,啓林館,実教出版,第一学習社,数研出版
2) 化学結合論入門 ポーリング著,小泉正夫訳 共立出版株式会社
3) 高橋直久,化学と教育,49,742 (2001)
4) 高橋直久,第3回近畿地区化学教育研究発表会要旨集(2001)