篠ヶ峰の鬼
のんきな鬼のお手伝い

丹波市(たんばし)と多可郡多可町(たかぐんたかちょう)との境にそびえる篠ヶ峰(ささがみね)。この山には古くから鬼が住みついていました。ある日、このあたりを大きな嵐(あらし)が吹きすさびました。
やがて嵐が収まり、鬼がふと山の下を見ると、山すその牧山(まきやま)の里で人々があわただしく動き回っています。
「おやおや、滝つぼから水があふれて、里は水びたしじゃ。何とかしてやらにゃぁいかんのう。」

鬼は川の水がどんどん落ちていく滝つぼに口をあて、「ぶうーっ。」と息を吹きこみました。すると不思議、滝つぼからあふれかえっていた水は、見る見るうちに地下へ吸いこまれていきました。
これで牧山の里は水難から救われたのですが、地下にもぐった水は行き場を失い、東の船城(ふなき)の里へふき出してしまいました。船城の里は一面の水びたし、沼になってしまったのですが、のんきな鬼はそれを知りません。
「あー、いいことをした。人助けは気持ちがいいなぁ。」
山の上へ帰った鬼は、ニコニコと牧山の里の人たちの楽しそうな姿をながめているのでした。

ところが、うまくいかないものです。こんどは日照りがやってきました。鬼が滝の水を地下に吹きこんでしまい、流れてくる川の水が少なくなっていたので、牧山の里では田畠へ回す水が足りなくなってしまいました。人々は急いで地面を掘り返して水がわいてくるところを探しています。
「しまった、しまった。わしの失敗じゃ。すぐに何とかしないと。」
またまた里へ降り立った鬼は、指で地面を一かき二かき。たくさんの井戸を作って、水が少なくても育つ栗(くり)や桑(くわ)をいっぱい植えていきました。
「こりゃ楽しい。どんどん増やしてやろう。」
つぎつぎと植わっていくようすに気分をよくした鬼は、牧山の里だけではなく、東の小川(おがわ)の里や久下(くげ)の里まで栗や桑を植えてまわりました。

「あー、いい気持ちじゃわい。」
山の上へ帰った鬼は、満足げに下界をながめていました。ところがちょっと東の空へ遊びに行ってみると、船城の里が水びたしになっているのが見えます。人々は山から木を切り出して沼にしずめ、それを足場にしながら泥まみれで深田の稲(いね)を育てています。
「うーん、大変そうだなぁ。よし、こっちも手伝ってやろう。」
鬼は植えたばかりの牧山の里の栗を間引いて、船城の里の沼に放りこみました。じつは張りきりすぎてすこしばかり栗を植えすぎていたのです。ちょうど良く間引かれた牧山の栗は大きな実をみのらせるようになり、船城の里の沼は浅くなって、豊かな水田が開かれていきました。

「さあ、もうこのくらいでいいだろう。」
鬼は天から与えられた二千年の命がつきようとしているのを知っていました。とうとうおむかえが来た日、鬼は名残りおしそうに牧山の里を見わたしながら、白い雲をちぎって里に投げ落としました。雲はふっくらとした蚕(かいこ)になって、きれいなまゆを作りました。里の人たちは、鬼が植えてくれた桑の葉をたっぷりと与え、たくさんの蚕を育てました。
「ついでに、こっちにも何かあげておかないと。」
鬼はへそをちぎって船城の里に投げ落としました。大きな鬼のへそは、田んぼの水の中に入るとくるくる回って、大きなタニシになりました。

こうして牧山の里は栗と蚕、船城の里はタニシの名産地となり、人々は豊かに暮らせるようになったのです。

(『郷土の民話』丹有編、『兵庫の伝説』第一集をもとに作成)