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第71回卒業証書授与式校長式辞

 寒さの中にも、日差しに春らしさを感じ始めた今日の佳き日に、同窓会会長 長田憲幸様 、兵庫県立兵庫工業高等学校校長 大川真澄様 をはじめ、多くのご来賓にご臨席を賜り、かくも盛大に第七十一回卒業証書授与式が挙行できますことは、卒業生はもとより、教職員一同にとりましても、この上ない喜びでございます。高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。

 ただいま卒業証書を授与いたしました卒業生の皆さん。卒業おめでとう。昼働き、夜学ぶという定時制高校の生活は、決してたやすいものではありません。仕事の疲れが残ったまま授業に臨んだ日、眠い目をこすりながら実習に取り組んだ日もあったことでしょう。しかし、そんな日々を乗り越えてこられたのは、ともに学び合った友や先生方、職場の皆様、保護者の皆様の支えがあったからです。どうか、自分を支えてくださった方々への感謝の気持ちを忘れずに、これからの歩みを進めてください。

 また、今日までお子様を支え、励ましてこられた保護者の皆様。お子様のご卒業おめでとうございます。お子様方がこうして立派に巣立って行かれますのも、保護者の皆様の並々ならぬご努力と、本校の教育活動に対するご理解とご協力の賜物と深謝いたします。 

 さて、卒業生の皆様に、私から、はなむけの言葉として、三つのお話をいたしたいと思います。一つは「時代」について、二つ目は「未来」について、三つ目は「学び」についてです。

平成という時代が終わりを告げ、新たな時代が始まろうとしています。振り返ると、昭和と平成では大きな変化がありました。わかりやすくいえば、アナログからデジタルへの変化。平成は、特に情報伝達において大きく進化した時代でした。しかし、それは振り返って初めてわかることで、今を生きる我々は恐らく、平成と次の時代に大きな変化を感じないでしょう。ただ、確実にいえることは物事が移り変わるスピードは加速度的に早まっていくということです。

ソサエティ5.0という言葉があります。1.0は狩猟社会。2.0が農耕社会、そして3.0が工業社会です。昭和の時代はソサエティ3.0の社会でした。その後、4.0の情報社会を経て、来たるべき時代は、デジタル革新やイノベーションにより社会構造が大きく変化するといわれるソサエティ5.0の社会。Iotにより人と物がつながり、蓄積されたビッグデータをAIが解析し、必要なときに必要な分だけ、必要とする人に情報を提供する社会。それがソサエティ5.0の社会です。

一見すると便利で豊かな社会のように思われますが、情報収集を自主的に行わない分だけ、情報に踊らされる可能性が高くなります。言い換えれば、情報の真偽を見極める力が今まで以上に必要とされる時代が訪れようとしているわけです。 

二つ目は「未来」の話です。

「輝かしい未来」、「果てしない未来」とよく表現しますが、「未来」という言葉はその言葉自身「明るさ」や「広がり」というイメージを持っています。しかし、この言葉を漢文的に解説すると、「未」は「いまだ〜ず」と読む再読文字で、「まだ〜なっていない」という意味を表します。つまり、「未来」という言葉は、単に「まだ来ていない」ということしか表していません。それではなぜ「明るさ」「広がり」というイメージが備わったのでしょう。理由は「未来」が常に我々の前にある存在だから。つまり目標であるからです。暗く閉塞した未来を求める人はいません。人は常に高みを目指しているということです。

「フューチャー イズ ナウ」という言葉があります。「未来」は何も決まっていませんが、「未来」を方向付けるのは充実した「今」だということ。先ほどの話にもありましたが、積み重ねた時代の先に「未来」が続いているということです。

先ほど私は、「時代」についてお話しした中で、情報の真偽を見極める力が重要だ、と言いました。また、「未来」について話す中で、「未来」は充実した「今」の積み重ねである、と話しました。そんな未来を豊かに生き抜くために必要なのが、次に話す「学び」であります。 

皆さんの前に確約された未来はありません。あるのは予見される未来だけです。恐らく予想を大きく上回るスピードで社会は変わっていくでしょう。情報の少なかった時代は時間の流れもゆったりと感じられた。しかし、これからはあふれかえるような情報の中で時間にせかされる時代が来ます。

これから、学び舎を巣立っていく皆さんに求められるのは、人から与えられる「学び」ではなく、自らの「学び」です。

最後に「学び」についての私の思いを端的に表している、宮沢賢治の「稲作挿話」という詩の一部分を紹介して、結びにしたいと思います。 

これからの本当の勉強はねえ

テニスをしながら商売の先生から

義理で教はることでないんだ

きみのやうにさ

吹雪やわづかの仕事のひまで

泣きながら

からだに刻んで行く勉強が

まもなくぐんぐん強い芽を噴いて

どこまでのびるかわからない

それがこれからのあたらしい学問のはじまりなんだ

ぢゃさようなら

  ……雲からも風からも

    透明な力が

    そのこどもに

うつれ…… 

                        平成三十一年二月二十七日

兵庫県立神戸工業高等学校 校長

 愛川 弘市