第2章  スクールカウンセラー研究連絡会 −スクールカウンセラーと不登校
          研究討議要旨



T 小学校部会
            山手小学校・美賀多台小学校(拠点校)スクールカウンセラー 井上 幸子

 出席者10名により、以下のことが検討された。
(1)不登校の事例
(2)改善された事例
(3)何が必要か


(1)不登校の事例


@ 配置校の子どもや親御さんより、周辺校の方が利用されるほうが多い。
  −自分の学校でない方が利用しやすい親・子もいる−
A 学校以外、公園やその他なら、会いたい、行きたいと言う希望を、取り入れている。
B 校長の許可を得て、外部に広がる仕事もしている。しかし時間外になることが多い。
C 学校外(家庭訪問など)は担任の先生・生徒指導の先生に任せている。
D 4時半か5時なら、相談室に来る子がいる。
  −児童・生徒の影が、見えなくなれば、学校の門をくぐれる−
E SCが二人配置は、親担当と子担当とに分けて、又は同時に並行面接できるので、非常に有効だ。


(2)改善された事例


@ [吐きそうになるのを恐れて登校できなかった子]−母親と先生だけの面接で−
 吐きそうになったらどこに居ても(教室に居ても)すぐにトイレか、保健室に行くよ うにアドバイスをしたら、安心感が生まれたようで登校できるようになった。

A [不登校の初期]
 親・先生に会うことで、不必要な不安がなくなり安定化が計られた。又、子どもには、学校に来たり来なかったりの段階(健康な部分をまだたくさん持っている段階)で会えるので、少ない面接回数で、早期解決ができた。

B [一年半の不登校児]
 母親の面接の中で、子どもに適応指導教室を勧めた。子どもが行くようになって、少しずつ状況は動いてきた。

C [低学年の不登校児]
 母子分離の問題も抱えていたので、母親面接だけで良くなった。


(3)必要なもの


@ (1)のABDの事例からも明らかなように、時間が足りない。
−午前中は親の相談が入り、放課後(皆の姿が見えなくなれば)ならば来室できる。 あるいは、少し離れた場所ならば行きたい、など−
A 部屋が欲しい。子どもが秘密と感じている事を、安心して話せる場所が必要である。 物理的空間は大切である。
B 多少の遊具と箱庭療法の道具はぜひ欲しい。
C 他機関と連携する為に、周辺地域と県下で、照会できる機関のリストが欲しい。
  他機関の人との交流もすることで、連携を深めて、より一層の活用ができる。

以上時間一杯、活発に意見交換がされた。



U 中学校A部会(拠点校、巡回校方式)

                    尼崎市スクールカウンセラー 大塚 美和子

 A部会では、拠点、巡回方式を行なっている12名のSCから報告が行なわれました(拠点方式が8名、巡回方式が4名)。その中で、「連携」という言葉が共通して述べられていました。そこで、まず部会で報告された連携の方法、工夫あるいは課題などについての意見、その後拠点校、巡回校方式の利点や課題についての意見を紹介いたします。


1 連携の方法と工夫、課題

(1)学校(教員)との連携

<連携が成功している例>
・担任の先生と考え方がマッチした。例えば、ふれあいルーム(別室)も登校とみなしてくれた。
・生徒指導の先生が熱心に毎月お知らせを配布してくれたため、保護者からの相談が増え、SCの仕事がしやすくなった。
・加配教員や養護教諭との連携ができており、校内の適応指導教室(メンタルルーム)の生徒への関わりもうまくいっている。
・ストレス調査をすることで、不登校になる前の生徒をフォローすることができた。先生にもストレス調査をやってもらい、養護教諭の先生にフォローしてもらうなどを行い効果を上げている。
・ストレス調査を媒介にして、SCと教師との間で生徒についての情報交換を行ない(学年連絡会等で)、SCによるカウンセリングや各クラスでの教育相談につなげるなどシステマティックな援助を試みている。
・職員研修をうまく活用することで理解を深めてもらえている。SCニュースなどで常に情報発信することも重要である。

<連携がうまくいかない例>
・先生同士の連携がなく、学校全体がばらばらで、SCへの相談ケースも少ない。
・教師の中に、SCは不登校だけを扱うという意識があり、カウンセリングの必要なケースがつながらない。
・先生が保護者にカウンセリングの必要性をうまく説明できない。例えば、保護者が子供のカウンセリングをやめるように言ってきた場合、そのままSCにカウンセリングの中止を申し出てきた。

2)他機関との連携
<連携がうまくいっている例>
・適応指導教室とSCと学校の三者の連携がうまくいっている。具体的には、SCが適応指導教室の指導員と共通理解をはかり指導員に学校訪問をしてもらったり、学校に対しては受け入れ態勢を整えるように調整し、適応指導教室と学校とが連携できるような態勢づくりを行なった。その結果、不登校の生徒をスムーズに学校復帰させることができた。
・非行や家庭崩壊しているケースについては、児童相談所や家庭裁判所と連携をとっている。
・地域の生徒指導連絡会で講演した後、他の中学(勤務校以外)から相談の依頼がくるようになった。

(3)家庭との連携
<連携がうまくいっている例>
・「お母さんと子育てを語ろう会」を行ない、母親との話し合いの場を設定している。

(4)小学校と中学校の連携
<連携がうまくいっている例>
・学級崩壊などの問題を契機に小・中学校が連携するようになった。例えば、中学校の教師が小学校で授業を行なったり、小学生が中学校のクラブ活動や教室を見学し、中学生とのお話し会をセッテイングするなどの試みが行なわれている。このプログラムは、子供たちにとっては安心感を与え、先生にとっては子供たちの態度を観察しクラス編成を事前に行なえるなどの利点がある。その中で、SCは子供たちに中学進学後の挫折感の予防となるような関わりができた。


2 拠点校、巡回校方式の利点と課題

(拠点校方式)
・拠点校方式は、子供の問題を小学校、中学校と継続して援助できる点が良い。
・中学校を拠点にして小学校からの相談を受ける場合、小学校に出向いて子供の遊んでいる様子を見る方がカウンセリングが効果的だった。
・顔が見えない電話だけの相談はやりとりが難しい。

(巡回校方式)
・勤務時間数が短く効果的な関わりができない。SCが常勤化していける体制作りが必要である。
・一校当たりの時間が短いため、学校の先生や他機関とどのように連携できるかが重要になる。
・カウンセリングが間延びしてうまくいかない。



V 中学校B部会(単独校方式)

                     猪名川中学校スクールカウンセラー 永井 陽子

はじめに
中学校B部会は、14名の参加で行なわれました。「SCの今日的課題−不登校を中心にして−」というテーマで、自己紹介をはじめとして、改善事例、困難な点、「何かあと少しあればさらに良くなること」について話し合われました。ただ、時間の関係上14名の現状の報告のみで、すでに時間がオーバーしてしまいました。討論、援助、助言の可能な有効な研修にするには、時間配分、そして人数の配分も考慮されたらよかったと思います。また、地域別に分かれて地域連携(小学校・中学校・高校など縦の連携や、その他の機関、行政や教育機関、医療機関など)に配慮のある部会分け、また、経験者と初心者との配分などを考慮いただけたらより有効な研修ができたのではないかと思います。
 SCの個々の学校における現状報告をお聞きすると、それぞれの学校により地域性や職員の体質、学校の体制(個性・独自性)、保護者の体質などにかなり違いがあるように感じられました。SCが取り組む方法としては、
(1)それぞれのケースを個として取り組む方法(生徒面接、母親面接、訪問面接、教師面接など)
(2)学校全体にアプローチする方法(校内研修や組織に対するコンサルテーション、教師集団<担任・学年団・教科担任・クラブ担任などグループとして>のコンサルテーション、保健室登校への援助、別室登校への援助、協力、PTAの研修会、不登校の親の会など)
(3)学校以外の組織、施設、援助機関への機能的なリファー方法
などが見られたように思います。

(1)個としてかかわるもの

 不登校の生徒と直接かかわり面接するものとして、次のようなケースがありました。

・保護者との面接を続ける中で学校に来られるようになったケース。
・学校以外の場所で生徒と会えるようになったケース。SCが訪問面接し、そのうち定期的に会うことが出来るようになったケースでは、五目並べなど遊べるようになり、自信をつけ元気になってきた。
・閉じこもっていたのが行動範囲が広がってきたり、学校以外の機関や、適応指導教室などに行きだしたケース。中には休みながら通っていたのが、毎日行けるようになったり、そこから学校の別室に来られるようになったケース、教室に行けないまでも、かなりの改善が見られる報告がありました。

 これらは文部省の出席日数の数的処理でも、学校側が見る成果としても評価されていない一面だと思われます。
 また、登校している生徒においても閉所恐怖のように教室には入れなかったり、身体症状を訴えたり、教室内での適応が良くない生徒との個人面接が行なわれ、改善が見られていました。
 保護者の面接では子どもの問題だけでなく、親自身の問題のカウンセリングが展開され、その後、そのSCの期間の後に生徒の面接が始まるケースも報告されました。2年間という短い研究委託期間のみでは、その成果は現しにくいものが多くあるように思われました。 担任や先生個人を支えるための面接、たいへんな地域や学校では職員のメンタルヘルス、辞職などの問題にかかわられたケースもあったようです。

(2)学校全体にアプローチする

 学校を含む地域全体を有機体としてとらえた関わりは、震災や青少年事件のPTSDなどを抱えている兵庫県では大切と思われます。
 不登校生に対して、積極的に関わるかどうかは、担任に任されていたり、本当に不登校生どころではない様々な問題をかかえた学校もありました。学校によってはSCの窓口の担当者も決まっていない学校があったりして、システム的なものがしっかりできている所と、そうでない所がありました。しかし、SCの関わりと共に2年、3年、4年とたって少しずつ変わってきて、上手にSCを活用している学校もありました。
 システム的に恵まれているところでは、各不登校生についての生徒指導委員会があり、月1回は不登校の状況や経過が確認されていたりする。SCは、そこで不登校生の担任と他の先生との軋轢の解消や、繋ぎ役に入ったりする。事例検討会をする中で、パワフルな先生方のかかわりが有効に機能していったりする。SCは、後方で先生方のサポートをしたり、学校内ではケースを持たずに難しいケースを、他の医療機関や教育相談所などにリファーしたりされている。
 勤務している配置校によっては、全然雰囲気が違っていることがある。「もうかかわってもあかんやん」、ややこしかったら「こんでいいんちゃう」のような、諦めた感じの学校でも、初めは空回りしながらも少しずつ体制を変えるよう、なんでも変化を見つけ出して返していくなかで、また、生徒の言動の心理的な意味のようなことを話していく中で自然発生的に事例検討会が組織されたことの報告がありました。また、不登校生を中心に先生方とチームを組んでいくうちに、その学校自体が生徒に関する物の見方が柔らかくなったり、抱え方も柔らかくなってきた報告もありました。
 さらに、学校内の人間関係の歪みにつけ込むようにして学校中を振り回しているケースでは、SCについて理解のないままに孤軍奮闘されている様子も伺われました。また、不登校生の「人権作文・別室指導について」が取り上げられ、先生方が人権教育・道徳教育について相談され、親の会の交流、「やまびこの里」などを利用しながらグループで学校外での交流の場が出来、そのグループでの別室登校が可能になってきた報告もありました。
 学校内のSCの部屋は、昼休みや放課後に自由に生徒が話しに来ることが出来る空間として、学校内や家庭内でのストレス解消や問題解決に有効に活用されていると思います。また、人間関係の狭間に困ったり、軽いいじめや仲間はずれ、対人関係の未熟な生徒、傷を抱え歩む生徒などに、成長の場・癒しの場として活用されているように思われます。職員の中でも人間関係の愚痴をこぼせる安心な場所として活用され、ストレスマネージメントや調整役として機能しているようです。

(3)他機関へのリエゾン機能として

 機能的なリファーとして、神戸など都心部では、その子に丁度よい、顔の見える機関(教育相談所、適応指導教室、病院など)があり、SC自身がその機関に籍があり、そこで生徒の面接ができ、SCの期間終了後もかかわっている。また、自治体独自のSCとして継続でき、そこで別の学校の生徒も受け入れている。さらに先生方に関しては、期間が終わってからも相談・助言などで繋がっている。
 地域によっては関係機関の情報がなく、また、機関自体がなかったりする。兵庫県は広いのでブロックごとでも教育相談機関や適応指導教室、児童相談所、施設、思春期外来の受け入れのいい病院などの情報が冊子などであれば、非常に動きやすい。また、保護者や不登校生や教師も助かるのではないか。そのような情報が、口コミだけでなく文字情報で手に入ればと思います。
 また、この連絡会を機会にSCどうしのネットワークなどが出来ればよいと思います。自治体によってはSCだけの会合があったり、勤務時間内に連絡会がもてたり、決まった日(毎月第何曜日)決まったところで話し合える場を設け、SC自身で交流研修を持っているところもあるようです。市教育委員会が学校に繋がっている関係機関を提示するという約束があるところもあるようです。

最後に

 感想としてあるSCが言われた「腹が立って仕方ない。」「親とも喧嘩する。先生とも喧嘩する。非常に疲れる。」という本音がでていました。正面からかかわらずトラブルを避け、生徒を管理する教師もいました。怠けている親、不安な親、依存性の強い親もいました。不登校も一般化し、怠学傾向の登校拒否が増加しています。また、その生徒らに学校を振り回され、学校の雰囲気が悪くなり、不登校生の復帰を喜べなかったりする学校がありました。
 厳しい現状を受け入れながら、怒りを持って、厳しさ、やさしさ、受容、共感、純粋性でかかわり、存在そのものとして影響を及ぼしていく。このことによって、SCも成長、成熟していくように感じました。
 学校での心理臨床は、実践が行なわれる場がかかわりの対象となり、学校は自らの教育機能の向上をSCに求め、SCは学校の持つ健全な援助システムを支援し、同時に臨床的問題に個別に対応することを求められる。心理臨床を行なうものが自ら柔軟に、求められる役割を果たしながら組織に働きかけ、組織の変革を目指していく中で、学校もSCも互いに成長していくように感じました。



W 高等学校部会

              社高校・西脇高校・西脇中学校スクールカウンセラー 今塩屋 登喜子


 高等学校部会への出席者は4名でしたが、活動の現状報告を中心に、事例を織り交ぜながら、活発な意見が出されました。以上に要約させて頂きます。


1 活動の現状


(1)SCの所属について
 保健部、生徒指導部、教育相談委員会というように、所属はさまざまであるが、いずれの場合も養護教諭がよきパートナーとして種々のコーディネイト(生徒や保護者へのカウンセリングの予約、担任や学年主任へのコンサルテーションの橋渡しなど)をして下さっている。

(2)教職員との人間関係を滑らかにするために
 所属部の先生方とのミーティングを密にすることはもちろんであるが、心理テスト(エゴグラム、風景構成法など)の講習会をしてSCの人となりや活動の理解をはかっている。なお、その際には、事務員の方や校務員さんにも参加の声掛けをし、学校全体への働きかけもしている。それが切っ掛けになって、特別授業での生徒への心理テストの実施依頼があったり、職員自身の悩み相談を受けたり、ストレス軽減のためのリラクゼーション講座を実施するというような広がりもみせた。

(3)担任との連携
 「担任には言わないで」と生徒が希望する場合は、担任につながないで生徒を守る立場に立っているが、「教師集団全体としての守秘義務」という観点からは、担任と一緒に考えるというスタンスをとる場合も多い。具体的な事例をあげると、腹痛や腹鳴といった身体症状を呈し、過敏性大腸症候群と診断された生徒が、教室で過ごすことがしんどくて、頻回にわたって保健室へ回避してきていたが、席を廊下側の一番後ろに替えてもらう配慮を担任にして頂くことで、教室での居心地が改善された。

(4)精神科医との連携
 病理性の重い生徒(例えば、摂食障害、解離性同一性障害、うつ状態が高じている場合など)には、ロールシャッハテストなどの投影法の心理検査を実施して、担任に説明し、家庭と連絡をとった上で速やかに専門医につなげるようにしている。担任には、直接、専門医から説明を受けるようお願いしているが専門医のアドバイスには権威がある分、先生方も納得される。SCとしてもドクターのアドバイスを後楯に、学校サイドに無理なお願いをのんでもらえることもある。

(5)適応指導教室との連携
 中学校時代から不登校で、適応指導教室に通っていた生徒が定時制高校へ入学してくることも多い。双方ともに同じ地域にある場合は、連携がとりやすく、生徒にも高校へ通うことに違和感がなく、新しい環境に馴染みやすく、登校がいつの間にか再習慣化されるようである。 

(6)定時制高校における不登校生について
 150人入学した生徒が2学期には130人ぐらいになってしまうが、中退していく生徒をSCにつなげるような学校システムができていない。また、定時制の場合、さまざまな生活体験が背景にあるので、SCの関わりも柔軟な態度でないと、カウンセリングが継続していかない。小・中学校時代からの不適応傾向をずっと引きずっていて、定時制高校にも適応できないケースもあるが、カウンセリング関係の中で成長が促され、自分なりの目標が見つかり、大学や専門学校へ進学していく生徒もいる。

(7)全日制高校における不登校生について
 小・中学校時代から長期欠席傾向のある生徒の場合は、保護者もカウンセリングや親の会の活動を通じて、子供への向き合い方を勉強してきているので、高校生になって再び休みがちになっても、登校を強要することはなく、単位の関係で進級が危うくなると、通信制への進路変更を希望される。ところが、小・中学校時代は不登校傾向がみられず、高校に入ってから休みがちになった場合は、親としてもなかなか現実が受け入れられず(「中学校までは、ちゃんと学校に行っていたんだから、今さら、うちの子に限って不登校になるなんて、ありえない」)、学校の対応のまずさや友人関係に原因を求めたりする。担任もなまけとか甘えとかときめつけがちなので、SCは校内研修を通じて不登校生の心理機制や対応の仕方などの啓蒙活動をし、個々のケースには担任や学年主任、所属部の先生方と情報交換をしながら、きめ細かく丁寧な対応をしている。担任との関わりを拒否する場合は、SCが家庭訪問もしている。


2 不登校−中退の増加を食い止めるために−

(1)定期的に(週一回でも)SCが常駐すること
 いざという時(心配事が生じた時)に、相談に行ける人がいるという安心感があると、登校への勇気づけになる。集団にあって、孤立感にさいなまれるのが怖くて、学校から足が遠退くのを防ぐために、誰かと「つながっている」という感じがあることは大切である。

(2)保健室以外にも、一時的避難所となる部屋の整備が充実されること
 小・中学校時代にいじめを受けたとか、教師との関係で軋轢をかかえこんでいる生徒は対人不信感が強く、新しい環境に適応するにあたっても対人関係上の葛藤が生じやすい。それが登校しにくさやクラスへのとけこめなさにつながることも多いので、そういう時にクラスに戻るまでの1つのステップとしての避難場所となるような部屋が確保されることが望まれる。病理性の重い生徒が専門医の治療を受けながら登校する場合にも、こういった部屋は有効である。
(3)単位との格闘の緩和がなされること
 高校では、小・中学校と違って、不登校気味になると、単位取得のための時間数不足で進級が困難になってしまう。そこで、@カウンセリングを受けることを公欠扱いにして頂くこと(すでに公欠扱いになっている高校もある。また、授業をさぼるためにと悪用されたこともない)。A現行では、教室で一斉に授業を受けないと時間数としてカウントされないが、各教科の先生方が保健室や相談室で教科指導された場合や担任やSCが家庭訪問して関わった場合も時間数としてカウントして頂けないだろうか。

(4)研修会を通じて、SCの活動状況を認識して頂くこと
 首尾よくいったケースに関しては、SCは前面に出ないで、関わってもらった先生方に感想等を述べて頂き、先生方の成果として体験の中に位置づけて頂く。逆に、うまくいかなかったケースについては、反省をこめて、SCが専門の立場で対応する。

(5)保護者へのカウンセリングを継続すること
 生徒が安心して登校できない背景には、家族の問題が深く影響している場合も多い。お母さんの不安定な気持ちをSCが支えたり、お父さんとのカウンセリングを継続するうちに高圧的な言動が影を潜め、それが子供に好影響を及ぼし、再登校に到ったり、進路の目標が明確になったりする。従って、保護者との関わりを継続することは大切であるが、気軽に来室して頂けるような雰囲気作りやSC直通の電話が設置されれば、さらにSCの活用度も高まると思われる。


3 おわりに
 各SCが、相談室に座して待つというのではなく、固有の学校風土の中で、果敢にもさまざまな工夫をしながら、「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」に取り組んでいる様子が生の声にはありましたが、要約する中で、それが十分に表現できず、もどかしい思いをしています。関係者一同の努力がSC制度の定着へと結実することを願っています。



X 全体会
              心の教育総合センター 主任研究員・兵庫教育大学 教授 冨永 良喜


 学校という場は、一方向性のメッセージが多い。授業がそうである。もちろん、授業研究も進んできて、バズセッションなどが取り入れられつつあるが、まだまだ、教師からの一方的なメッセージの伝達が主流である。知識の習得に関しては、一方向性のコミュニケーションでも、有効かもしれないが、こと「感情(気持ち)」の問題となると、双方性のコミュニケーションでないと解決に向かわない。スクールカウンセラーは、子ども・教師・保護者それぞれがコミュニケーションを促進するための触媒である。お互いがプラスのメッセージを伝え合い、解決に向け、感情の交流を促進する。不登校ぎみの子どもをもつある父親は相談室で、子どものことを語るうちに、子どもと落ち着いて対話できてない自分に気づく。次週にもう一度お会いすると、子どもと落ち着いて会話をしたエピソードを語った。そういった意味では、スクールカウンセラーの配置は、不登校対策として、少しは貢献できるのかもしれない。しかし、それはほんのごく一部分であり、もっと抜本的な教育改革と同時並行的にスクールカウンセラーを活用していかなければ、学校嫌いの子どもたちは減らない。抜本的な教育改革とは、学校選択制、授業選択制、?Z20〜30人学級、自分は人の役に立つという実感教育などであろう。長期的な展望にたって教育改革をすすめることは不可欠だが、ここでは、いまできることは何かについて、お互いの感情(気持ち)のキャッチボールの促進の視点から述べたい。

1 教育相談担当の設置を
 全体会の討論で、義務教育課生徒指導係長小田繁雄先生が、校務分掌として、生徒指導担当だけでなく、教育相談担当(ないし不登校担当)の設置が望ましいと提案された。兵庫県義務教育課は、不登校対策等調査を平成11年8月に実施しており、生徒指導担当のみ配置している学校よりも、不登校担当を独立した学校の方が、不登校生徒の増加傾向が著しく低いとの結果を得ている(表1参照)。その調査結果からも、教育相談担当の設置が望ましいことがわかる。


 表1 不登校担当者の独立・兼務と不登校生徒数の増減(兵庫県・中学校)
   学校における不登校対策等調査(H11.8月実施)より

不登校担当者について 中学校数                   不登校生徒数及び増減
平成9年 平成10年   増減 1校当たりの増減
   生徒指導と兼務  222校 2,164人 2,781人 +617人   +2.78人
     独  立   77校 1,281人 1,314人  +33人   +0.43人

           ※平成11年度不登校担当教員配置校(60校)を除く


 これは、不登校担当教諭が、不登校生徒や不登校傾向の生徒とその保護者との心の窓口の機能を果たした成果と考えられる。この不登校担当(教育相談担当)の配置は、教育委員会の指導で是非すすめてもらいたい施策である。「温かくて厳しい」「やさしくてしっかりした」教師が望ましいことは言われて久しい。一般に、生徒指導担当は「厳しいけど温かく」、教育相談担当は「温かいけど厳しい」という面をもっている。子どもを厳しく叱責するなら、そのメッセージがどのように子どもの心に響いているかを推量し、その後を温かく見守ることができなくてはならない。厳しさだけのかかわりが良しとするのでは、対人援助の職につく資格はない。一方、子どものしたいことはなんでも受容というのは非指示療法の誤った解釈である。人を傷つける・自分を傷つける行為は、決して許されないと毅然とした態度を示さなければならない。それぞれの役割分担について、反社会的行動(非行など)は生徒指導担当、非社会的行動(不登校など)は教育相談担当とすみ分けしてしまいがちであるが、本当は、いずれの子どもたちにも、温かさと厳しさが求められるのである。だから、スクールカウンセラーは不登校にのみ対処するという図式は、間違いであろう。スクールカウンセラーの活動は、窓口になる教諭がいなくては大変むつかしい。今の中学校の現状をみると、生徒指導担当は、つねに忙しく、スクールカウンセラーと出合う時間を作ることすらむつかしい。その点、生徒指導担当、教育相談担当と二人が窓口になると、さまざまな事例について、検討しやすくなる。校長・教頭の管理のもとに、生徒指導担当・教育相談担当・養護教諭・担任とスクールカウンセラーが連携を取り合い、ひとりひとりの子どもを支援していくシステムをつくることが急務であろう。

2 ケースカンファレンスの活性化を
 もうひとつ、すぐにできることは、スクールカウンセラーを活用した定例のケースカウンファレンス(事例会議)の開催である。学年単位での少人数のケースカンファレンスは、教師へのコンサルテーションのあり方としても、効果的である。教員研修は、多くは全員参加の全体研修という形態が多い。もちろん、そのような研修も必要だが、教師ひとりひとりが自分の意見を出し合うには、少人数のケースカンファレンスがよい。

3 予防教育の活性化を
 予防教育がこれからの課題である。ショックに出合ったとき、人の心と身体はどうなるのだろう、どうやって克服・対処してきたのだろう、対処の有効な方法のひとつであるリラクセーションを体験しよう、といったストレスマネジメント教育を子どもたちが体験的に学ぶことは人生をより豊かにする。それは、震災・事件を体験した兵庫県から全国に発信できる予防教育である。また、コミュニケーションスキルとして、攻撃・非主張・アサーティブ(さわやかな自己主張)を学ぶことも子どもたちの人生を豊かにする。これらの試みは、教師が長期的に取り組んでこそ効果がある。そこで、スクールカウンセラーが、心の授業案を、教師にアドバイスしたり、チームテーチングの形態で教師といっしょに取り組んでもよい。また、保護者には、定例の「子育てを語る会」を実施すると、子育てに苦労しており、時には虐待をしてしまっている人、子育てで格闘してきた人、子育てを楽しんできた人とさまざまな人が集う。お互いがお互いを支え合うグループカウンセリングが自然発生的に起こる。それぞれの人のもつ力はきわめて大きい。
分科会・全体会の研修をふりかえり、スクールカウンセラーは発展期の時代にはいってきたとの印象をもった。全体会での生徒指導担当・教育相談担当についての小田先生と高橋哲さんの白熱した議論に触発され、いまできることを3点述べ、全体会のまとめとしたい。


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