はじめに
                      心の教育総合センター所長・兵庫教育大学 教授 上地 安昭

 「スクールカウンセラー、さらなる活用に向けて」のテーマのもとに、昨年度につづき兵庫県下の小・中・高等学校へ配置されているスクールカウンセラー(69名)を対象に、「平成11年度スクールカウンセラー研究連絡会」を実施した。本年度は、とくに「不登校問題」を中心にテーマを絞り、校種別の部会での討議に基づいて、年々増えつづける不登校への専門家としてのスクールカウンセラーの対応は如何に、を問うことにした。
 スクールカウンセラー制度の学校現場への導入は、いじめや不登校問題への対策が大きな目的であったことは周知のとおりである。この制度は5年前の導入から年毎に事業が拡大され、現在に至っているが、そろそろ本事業の成果が問われる時期がきたのではないかと認識している。
 ところで、学校現場では不登校問題の深刻化に加え、非行や暴力行為等のいわゆる問題行動も多発化と凶悪化の傾向にあり、画期的な対応に迫られている。このような学校への危機意識のもとに、教育改革への提言がくり返しなされてきたが、依然として学校教育の前途は楽観を許さない状況にあると判断せざるをえない。スクールカウンセラー制度の学校現場への試行的導入は、単にいじめや不登校問題の克服のみをねらったものではなく、広く現状の学校教育の見通しと活性化へつながる手がかりを探る一つの方策ではなかったかと筆者等は理解している。つまり、従来管理職の校長・教頭、教師、養護教諭および学校事務職員でもって運営されてきた学校へ、非常勤とは言え学校外の専門家を教職員の中へ組み込んだ背景には、地域に開かれた学校、専門家の支援による教師の資質向上、専門家を通しての学校と家庭および地域社会の連携の強化等、学校教育のシステムや機能を改善する発端になればとの期待が込められていたと推察する。
 実際のところ、学校の危機とも言われるわが国の学校教育のとくに生徒指導を中心にした数々の難題を克服するために、スクールカウンセラーはどこまでその専門家としての力量を発揮することができるのか。果たしてスクールカウンセラーは、国民の期待に応える救世主としての役割を幾分なりとも達成することが可能なのか。これらの問いへ最も正確に応答できるのは、スクールカウンセラー自身であることは言うまでもない。
 このような視点から、本誌では兵庫県下のスクールカウンセラーの率直な意見を漏れなく掲載することに努めた。スクールカウンセラーの多数の者が所属している兵庫県臨床心理士会の意見、本年度のスクールカウンセラー研究連絡会へ出席した、小・中・高等学校の校種別のスクールカウンセラーのそれぞれの部会での個々の発言のまとめの要旨、同研究連絡会の事前に実施した、アンケート調査に寄せられたスクールカウンセラーの意見等を、本誌はできるだけ詳細に紹介することにした。
 なお、スクールカウンセラー制度の担当窓口であり、その運用が委ねられている行政機関の兵庫県教育委員会にとっても、この制度を県として今後どのように方向づけていくのか、国政の動向にそって独自の検討が急がれるところである。「心の教育総合センター」としては、スクールカウンセラー、学校、行政機関および保護者(地域社会)のそれぞれの立場からの意見や要望を集約し調整を計りながら、スクールカウンセラー制度の今後の進展に向けて、さらなる貢献へ寄与する責務があるとの認識を強めている。
            (2000年3月10日)

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