V 構成的グループ・エンカウンター「内観」の試み:その2
                        兵庫県立姫路北高等学校 野田暢子

要旨

高校生に対する「心の教育」のLHR時の指導の一つとして、昨年度に引き続き、『構成的グループ・エンカウンター「内観」』の授業に取り組んだ。内観の方法で過去の事実を思い出すことで、ストレスにさらされがちな現代の高校生が、心を落ち着かせ、愛されてきた自分を実感し、人間として成長することを目的とした。本報告は以下の三部より構成されている。
1 構成的グループ・エンカウンター「内観」:その2  
昨年度授業を実施して気づいた箇所を改善し、「内観」:その2として指導案を作成した。5校の高校147人の生徒に対して授業を実施したところ、内観後、生徒の自尊感情が高まり、不安感が減少していることが、統計的に明らかになった。
2 構成的グループ・エンカウンター「継続内観」
「内観」を更に深めるために、授業体験者の中の希望者5人に、「継続内観」を実施した。後の話し合いでは全員が、内観的発想ができそうに思うと述べた。
3 構成的グループ・エンカウンター「内観」の指導
本年度「内観」の授業に取り組んだ指導者7人から、感想や生徒のようすについて聞いた。どの指導者も、慎重におこなえば「内観」の授業は意義深いと実感していた。このプログラムが「心の教育」として有効であると言えるであろう。

はじめに
 高校生に、日々教師として関わりながら、彼らの、希望から絶望へと動く感情の揺れ、安定と不安定の落差に立ちすくむ思いを持つことがある。勉強、部活動、両親や友人とのやりとり、これらのどれをとっても、彼らにとって正念場となる。現代に生きる高校生が感じるストレスは非常に高く、様々な不満を抱えていて、いろいろな人に「していただかなかったこと」はあまりにも多い。そんな中で、「していただいたことは?」「して返したことは?」「迷惑をかけたことは?」と問いかける「内観」の発想は新鮮で強力である。しかも傷つき体験になる可能性が少ない。学校で教師や友人と一体感を持ちながら体験できるLHR時のプログラムの一つとして、日頃忘れがちな自分の過去に「内観」の観点から光を当て、心に思いを巡らす、構成的グループ・エンカウンター「内観」の授業を加えることは意義深いと思われる。
 なお「内観」は、昨年度「その1」で説明しているように、非常に集中的な形態で行われるものであるが、今回は高校での授業に取り入れたため、集団による記録内観として「指導者のいる日常内観」(三木,1976)の形で行うことにした。

1 構成的グループ・エンカウンター「内観」:その2
(1) 改善点

今回は、『構成的グループ・エンカウンター「内観」の試み:その2』であり、前回の『その1』の授業を実施して気づいた箇所を改善した。改善点は、@事前指導、A指導案中の時間配分、B事後指導である。 @ 事前指導 「内観」の授業を実施する前に(できるなら前日が望ましい)、生徒達の意欲を高め、スムーズにおこなえるように、内観と呼吸法の意義を簡単に説明し、呼吸法の実習をする。

ア 内観:簡単な意義の説明 

内観:心の内を観察する 方法:自分と深い関わりがあった人を中心に、かっての自分の行動などを振り返る 体験した高校生の感想:気持ちが落ち着いた、昔を振り返るのも良いものだ、まわりの人にずいぶん助けられていた 等高校生活の中で、勉強や部活、趣味等に打ち込み、友達とのつきあいに心をくだくことは大切だが、時には静かに自分の心の内を見つめてみることも、心の成長にとって意義がある

  イ 呼吸法:簡単な意義の説明と実習

活動内容 留意点
教師:「心を落ち着かせるために呼吸法をしましょう」
生徒:呼吸法(腹式呼吸:10秒呼吸法)  5分
(1)姿勢を整える
(2)静かに眼を閉じる
(3)全部口から息を吐く
(4)123と鼻から息を吸いながらお腹をふくらませる
(5)4で止める 
(6)5678910で口から息を吐き出しながらお腹をへこませる
(7)これらを約5分間繰り返す
(8)消去動作
・ストレスを和らげ、心を落ち着かせるために、呼吸法が役立つことを説明し取り組む意欲を高める
・姿勢:イスの背もたれに軽くもたれ、膝は鈍角にし、両足を床面に着け、全身の力を抜く
・吐くことに重点を置く イライラ・もやもやを一緒に吐き出すようにイメーージする
・消去動作:両手を握り数回屈伸して、大きく背伸びし深呼吸して、静かに目を開く
・換気に注意する


A指導案中の時間配分  
事前指導を実施しているので、呼吸法の実習や内観の説明の時間を短くする。そのかわり、シエアリングの時間を多くとり、お互いの体験や感想を話し合い、自分や他人に対する理解を深める。
B事後指導
・実施後すぐに内観用紙を読み、気になる生徒があれば直ちに話し合う。
・内観授業後、できるだけ早い時期に、生徒の了解を得られた記録(感想の部分)を無記名で印刷し、紹介する。シエアリングの時間を20分程とり、それをもとに話し合うのも良い。

(2)授業の指導案
ア 対象
  A高等学校(全日制普通科)三年生35人 :保護者のみ1時間の実施  
  B高等学校(全日制普通科)二年生29人
  C高等学校(全日制普通科)三年生41人 :保護者・友人を2時間連続して実施
  D高等学校(定時制普通科)一年生27人
  E高等学校(定時制普通科)一年次生15人
イ 時間 LHR、2時間配当
ウ 場所 教室
エ 日時    平成11年9月〜12月
オ ねらい
 保護者と友人に対して、自分がどのように接してきたかを具体的に調べ る。そのことによって、自分が愛され支えられて生きてきたこと、他者 を大切にしてこなかったことに気づき、自己受容と親子理解・友人理解 を深める。
カ 準備物
 内観記録用紙 筆記用具
キ 配慮
・最近保護者を失って、まだ気持ちが落ち着いていない生徒や、保護者に良いイメージを持っていない生徒もいるので、「したくない人は、この課題をしなくてもいいです。ぼんやりと窓の外の景色でもみていてください。」などと言い、内観を強制しない。
・過呼吸やアトピー性皮膚炎、等の生徒がいることがあるので、呼吸法によるリラクセイションは、個々の生徒の健康状態をあらかじめ把握し、無理しないようにさせる。
ク 展開 1時間目 保護者に対する内観

場 面 活動内容 留意点
オーミングアップ

インストラクション


エクササイズ





シェアリング

教師:「しっかりと内観するために、まず呼吸法をして心を落ち着かせましょう」
生徒:呼吸法(腹式呼吸:10秒呼吸法) 3分
教師:内観(集団記録内観)の簡単な説明    2分
「この時間は過去の自分がどうであったかを調べましょう(思い出しましょう)」
「まず保護者について思い出してください。お母さんやお父さん、または保護者でなくてもかまいません。「まず保護者について思い出してください。お母さんやお父さん、または保護者でなくてもかまいません。お世話になった人を一人選んでその人のことを思い出しましょう」
「その人に対して自分はどのように接してきたのかを充分に思い出して調べます」
「していただいたことにはどんなことがありましたか。 して返したことにはどんなことがありましたか。迷惑をかけたことにはどんなことがありましたか。できるだけ実際にあった出来事を相手の立場に立って思い出してください」
教師:あらかじめ内観しておいた、自分の体験を生徒に話す10分
生徒:内観する 10分
(1)誰に対しての自分を調べるのか決める
(2)楽な姿勢をとり、目を閉じる
(3)教師が指示する3つの項目に従って内観する
教師:1項目ごとに静かに目を開けて深呼吸をさせ、気持ちを切り替えられるようにする
生徒:内観記録用紙に記入する         15分
生徒:隣同士で今の感想を話し合う       5分
感想を発表する 5分
・事前指導をしているので、すぐに呼吸法の実習にはいる
・保護者に対する内観記録用紙を配布し内観の意義を説明し、取り組む意欲を高める
・3つの項目:
(1)していただいたこと
(2)して返したこと
(3)迷惑をかけたこと
・教師は、できるならば、母に対して内観し、事実をしっかりと思いだし、感情をこめて話す
・内観の対象は保護者以外でもよい
「保護者以外で世話になった人は?」
・目を閉じて具体的な事実をありありと思い浮かべ、その時感じたことをていねいに振り返る
・この時しっかりとイメージすることが肝心である
・生徒の状態をよくみて、内観の切り替えがスムーズにいくようにする
・内観していても記入しない生徒がいるので書くことを強制しない
・自分以外の人の体験や感想を知り、自己理解の幅を広げる

2時間目 友人に対する内観

場 面 活動内容 留意点
ウオーミングアップ
インストラクション
エクササイズ
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゙まとめ
生徒:呼吸法(腹式呼吸:10秒呼吸法)      3分
教師:2時間目の内観の簡単な説明       10分
「今回は友人に対する自分について調べましょう」
教師:あらかじめ内観しておいた、自分の体験を生徒に話す
生徒:内観(1時間目と同じ手順) 10分
生徒:隣同士で今の感想を話し合う
感想を発表する 
今の感想を内観記録用紙に書く 12分
教師:自分の感想を話す 5分
・内観のイメージを継続させるために、 1時間目と2時間目の期間をなるべく短くする
・内観記録用紙は教師が最後に一言コメントを書いて返却する
・内観から得たものを、自分の体験として話したいものである

(3) 授業効果の分析方法
 「構成的グループ・エンカウンター・内観:その2」の効果を測定するために、内観を体験した生徒147人と体験しなかった生徒88人に対して、2時間の内観授業の前日と終了後に、自尊感情のテストを、また、体験した生徒147人に対して、当日の授業の前後にSTAI@のテストを実施した。授業内容は「集団による記録内観」であり、生徒達は毎時間内観記録用紙に記入した。2時間目の記録用紙の最後に「内観を経験した今、感じていること考えていること」という質問をして、ひとりひとりに内観の感想をたずねた。

(4) 授業の内容
 本年度は7人の先生方が、「内観」の授業を、高等学校5校、中学校、小学校各1校で実践された。みなさんに授業の内容についてお尋ねし、その結果を「3ー(2) 構成的グループ・エンカウンター「内観」を指導した先生の感想」にまとめている。授業の様子についてはそちらをごらんいただきたい。
 ここでは、事後指導として、特別な配慮を必要とした事例をあげたい。今回、内観を体験した147人の生徒の中で、2人の例である。あとの145人は、特別な事後指導の必要はなかった。

@ 「あやしい宗教のような感じ」と感想を書いた生徒
 A君が体験した、「内観」の授業は、学級担任がLHRの時間に実践したものである。指導者は、運動部をやめた頃から沈みがちで、一人でいることが多いA君が気になっていた。時々話しかけるが、心を閉ざしている感じを受けた。授業の当日も反応が気になる生徒のうちの一人だった。内観中の様子は、他の生徒と特に変わりがなかったが、提出した内観記録用紙は白紙で、感想の箇所に『今、自分の心を見つめる気がしない。それになんだかあやしい宗教のような感じがする。』と書いていた。指導者は、心を見つめる気がしない点とあやしい宗教という点を、もうすこし知りたいと思い、その日の放課後A君と話をした。指導者はA君のような反応もあって当然だと肯定した上で、宗教では決してないこと、自分と身近な人との関わりを見つめ直し成長をはかるという、授業のねらいを再び説明し、最近のA君のようすが気になると率直に話した。A君は自分を大切にしてもらっていると感じたようで、部活中におこったトラブルにショックを受けてやる気をなくしたことを話した。指導者は翌日のSHR時に、A君も含む、あらかじめ承諾を得ていた数人の「内観」の感想を、名前を伏せてクラスに紹介した。そして自分を深く見つめることが大切であること、同時に批判的な見方をする冷静さも必要であることを述べた。これをきっかけにして、A君の方から指導者に進路の相談等をするようになり、級友と談笑する姿も見られるようになってきた。これは、「内観」の授業に懐疑的な反応を示した生徒に対応した事例である。

A 1時間目の授業の後、しんどかったと母親に言って、2日間欠席した生徒
 B子さんが体験した、「保護者に対する内観」の授業は、教科担任が授業中に実践したものである。誠実で控えめなB子さんは、内観の時も落ち着いていた。内観記録用紙に記入されていた内容は「登校拒否だった中学校の3年間、母がずっとカウンセリングに一緒に来てくれた。母には私の行動の理由が分からず困ったと思う。近所の人達の冷たい視線にも耐えてくれたことに感謝している。」であり、指導者は緊急に話す必要を感じなかった。ところが翌日、母親から「内観の授業がしんどかったので学校を休みたいと娘がいう」と学級担任に欠席の連絡があった。担任から連絡を受けた指導者は、折り返し電話して、母親に話を聞いた。B子さんは帰宅後少しだけ内観の授業の話をし、今朝になって「しんどいので休みたい」と言ったという。指導者が昨日の授業の説明をすると、母親は「その内容なら娘はしんどくなると思います。」と、不登校傾向にあったB子が、週一回カウンセリングに通い、送迎は母親がしたこと、対人関係に極端に敏感であることを語った。「高校に入学してから、見違えるように楽しそうに通学しています。人が集まる所は苦手なので、学校行事を休んだり、友人関係で疲れて休むことは時々あるが、自分を抑えすぎていた中学生の頃と違って、今は気持ちを外に出せるようになってきました。今回のこともそ の表れだと思うし2、3日休めば登校するでしょう。すぐに学校から電話をもらって嬉しく思います。」と話した。B子さんは2日休んだ後登校し、授業中、指導者と目を合わせてにっこりした。指導者は再登校を嬉しく思い、B子さんをそっとしていたが、2ヶ月後、内観の時の気持ちを聞く機会があった。「私があまり学校に行かなくて、お母さんに迷惑をかけてしまったと思うと悲しくて、しんどくなった。しかし内観してから、お母さんや家族のみんなに助けてもらって今まで過ごしてきたという気持ちを強く持つようになったので、良かったと思う。」と語った。これは、「内観」の授業によって、過去の体験が生々しく深くよみがえり、疲れてしまった生徒の反応に対応した事例である。

(5) 授業の結果
@ 生徒の感想について

 「内観」の授業を体験した生徒達は、さまざまな感想を内観記録用紙に記入した。そのうち、C高校の生徒達は、保護者に対する内観と友人に対する内観の感想を、各回終了後にそれぞれ提出しているので、それを報告したい。 表1 「内観」の授業の感想 ( )内は複数回答の数

肯定的な感想 否定的な感想






情緒的
・気持ちが落ち着いた(3)
・これから親孝行したい(3)
・小さい頃のことを思い出して良かった(2)
・ふだんの自分のわがままを思い知った(2)
・これから親とのかかわりを深めたい(2)
・すっきりした
・新鮮だった
・がんばるぜ
・自分のためにいろいろしてくれた人を思いだしうれしかった
・あらためて親に感謝する気になった
・親に何をしてもらったのか全然わかっていないと思った
・昔のあの時期を思うと胸が痛む
・今まで何と親不孝なこどもだったかわかって、ショックを受け悲しくなった
・今、親に反抗しているので、昔のように素直になりたい
・僕と父の雪解けが始まった。これからはいい息子、父親、いい友人になれそうだ
・ふだん父をあまり好きではないけど本当はそんなに嫌でないとわかった
・父について表面的なことしか思い出せず残念
・あまり父との特別な思い出がないので驚いた
・あらためて母がすごく大切だとわかった
・大人になったら母のような母親になりたいと心から思う
・もっと祖母のそばにいたかったし、そばにいてあげたかった
知的
・親にしてもらったことが多くてして返したことが少ないとわかった(10)
・ふだん考えないことをあらためて考えた(6)
・いろいろと親に頼り世話をしてもらっていた
・自分のことがはっきりした
・今の私の存在は周りの人達との触れ合いがあってこそだ
・親孝行ってどういうことなのか何を返していくか考えたい
・父と私のつながりを知り、成長できた
・母は一番の理解者だ
情緒的
・無力感




















知的
・自分がよくわからない(3)
・母に感謝はしているが、弟と比較するのが耐えられない







情緒的
・友人はかけがえのない存在だ(6)
・これからも友人を大切にしたい(6)
・友人に恵まれ支えられてきた(4)
・友人がすごくなつかしい(4)
・充実感(2)
・友人に出会って救われた(2)
・なんかほのぼのした
・気持ちが落ち着いた
・書きたい人がたくさんいて、しあわせやなーと実感した
・自分の中で友人が占める割合がどれほど大きいか実感した
・二人でいると喜びは2倍悲しさは半分を実感する
・友人には何でも話せて気をつかわない
知的
・してもらったことはいっぱいあるが、して返したことがあまりないとわかった(6)
・自分を見つめ直して良かった(2)
・友人がいることはいいことだ(2)
・友人のおかげで成長し充実した生活が送れる
・友人は持ちつ持たれつの関係だ
・親よりも友人のほうが考えやすかったが、それは日頃よく考えるか考えないかの違いであると思う
身体的・2時間連続はしんどい
知的
・友達がどう思っているのかわかりにくい(3)
・異性に友人として接することがむつかしかった
・友達について何も考えていない、考えられない自分がいる

A 自尊感情のテストの結果について
 「構成的グループ・エンカウンター・内観」の効果を測定するために、内観を体験した生徒143人と体験しなかった生徒85人に対して、2時間の「内観」授業の前日と終了後に、自尊感情のテストを実施した。その合計得点の平均値と標準偏差を、体験の有無、時期(授業前、後)ごとに整理したのが表2である。

表2 自尊感情の合計得点の平均値の変化値・標準偏差とその変化

    授業前(A) 授業後(B) 変化(A)-(B)
体験群(143) 平均 41.60 44.21 2.61
標準偏差 12.04 12.50  
非体験群(85) 平均 40.93 41.98 1.05
標準偏差 10.24 12.65  


 分散分析の結果、体験の有無と時期の間には、交互作用の傾向があった(F=2.94,p.1)。そこで時期の単純主効果を検定したところ、自尊感情の平均値が、体験群は0.1%水準で有意に上がっており、非体験群は有意ではなかった。体験の有無の単純主効果を検定したところ、授業前、授業後ともに有意な差はなかった。
 自尊感情(Self-Esteem)は「自分が価値のある、尊敬されるべき、すぐれた人間であるという感情」である。自尊感情の平均値については、統計的に、内観を体験した者としなかった者の差を見いだすことはできなかった。しかし、内観を体験した者の自尊感情の平均値は、授業前よりも授業後の方が、統計的に有意に増加していた。一方内観を体験しなかった者には変化がみられなかった。このことから、2時間の保護者と友人に対する内観は、生徒の自尊感情を高めるのに効果があったと考えられる。

B STAI@のテストの結果について

ア STAI@のテストの結果:その1  
 保護者と友人に対してそれぞれ1時間ずつ内観した、BDE高校の体験者67人について、当日の授業の前後にSTAI@(状態不安)のテストを実施した。その合計得点の平均値と標準偏差を、内観の対象者、時期(授業前、後)ごとに整理したのが表3である。

表3 状態不安の合計得点の平均値・標準偏差とその変化 内観の対象者 

    授業前(A) 授業後(B) 変化(A)-(B)
保護者(67) 平均 47.40 42.37 -5.03
標準偏差 12.14 11.93  
友人(67) 平均 47.25 43.97 -3.28
標準偏差 12.89 12.08  

分散分析の結果、時期の主効果は、 0.1%水準で有意であったが、内観の対 象者による主効果は有意でなかった。保 護者・友人ともに、授業前から授業後に かけて、状態不安の平均値は減少していたが、交互作用は有意ではなかった。
p141.gif (2946 バイト)
図1 状態不安の平均値の変化(ア)

イ STAI@のテストの結果:その2
 C高校は、保護者と友人に対し、2時間連続して内観している。C高校の体験者41人について、当日3回、保護者の授業前(A)、保護者の授業後(B)、友人の授業後(C)にSTAI@(状態不安)のテストを実施した。その合計得点の平均値と標準偏差を、性、時期(保護者の授業前(A)、保護者の授業後(B)、友人の授業後(C))ごとに整理したのが表4である。

表4 状態不安の合計得点の平均値・標準偏差とその変化

  保護者の授業前(A) 保護者の授業後(B) 友人の授業後(C) (B)-(A) (C)-(B)
男(18) 平均 46.67 44.72 40.61 -1.95 -4.11
標準偏差 12.01 13.17 10.54    
女(23) 平均 4574 42.44 38.74 -3.30 -3.70
標準偏差 10.66 11.76 11.58    

 分散分析の結果、時期の主効果は、0.1%水準で有意であったが、性による主効果は有意でなかった。男子・女子ともに、授業前から授業後にかけて、状態不安の平均値は減少していたが、交互作用は有意ではなかった。    STAIは青年や成人の不安を測定するためのテストで、STAI@(状態不安尺度)は、特に今どう感じているかを尋ねるものである。  「保護者と友人に対する内観」での状態不安の得点結果は、「日本版STAI評価段階 基準」によれば、授業前は平均するとどの高校も「高い」段階にあったが、授業後には平 均値が下がり、統計的にも有意に減少してい た。特に保護者と友人に対し、2時間連続して内観したC高校では、友人の授業後の平均値は「普通」の段階まで下がり、統計的にも、有意に減少していた。この観点から「内観」の授業は生徒の不安を下げる、好ましい効果があったと考えられる。
p142.gif (2923 バイト)図2 状態不安の平均値の変化(イ)

 また、本指導案は、約一週間の間隔をあけて、保護者と友人に対してそれぞれ内観するものであるが、C高校のように、一挙に2時間連続して内観しても、効果があるとわかった。ただし、その場合は、生徒が感想に「2時間連続はしんどい」と書いていたように、生徒の集中力や疲労感に対する配慮が必要である。


2 構成的グループ・エンカウンター「継続内観」


構成的グループ・エンカウンター「内観」の授業を、更に深めるために、構成的グループ・エンカウンター「継続内観」として、授業の体験者全員に(その1)、また、授業の体験者の中の希望者に(その2)、実施する指導案を立てた。そして、「継続内観」(その2)を実施した。なお、構成的グループ・エンカウンター「内観」の実践は、「内観法」の形態のうち「指導者のいる日常内観」であるが、ここでの実践は、内観の授業後高校で取り組んだものであるので、「継続内観」と表現した。

(1) 継続内観:その1
@ 授業の指導案

ア 対象 「内観」の授業の体験者全員
イ 時間 「内観」授業の後、早い時期に、SHRや教科授業の開始時に、短時間、連続して(5回・10・15回等)おこなう
ウ 場所 教室
エ ねらい 「内観」の授業を体験して得たこと(自己受容・自尊感情・親子理解・友人理解等)を更に深め、内観的な発想にふれる。
オ 準備物 内観記録用紙 筆記用具
カ 内観の対象者(5回実施の場合)
a 一〜三回目は、保護者(お世話になった人)
     一回目・自分が小学生だった頃
     二回目・中学生だった頃から高校に入学するまで
     三回目・高校入学後現在まで
b 四回目は、今、苦手な人
c 五回目は、今、親しくしている人
キ 展 開

場 面 活動内容と時間 追加留意点
ウオーミングアップ
エクササイス
゙シェアリング
生徒:呼吸法(腹式呼吸:10秒呼吸法)     1分
生徒:内観する  2分
生徒:内観記録用紙に記入する          2分
生徒:隣同士で今の感想を話し合う      5分
感想を発表する 5分
内観記録用紙はその都度提出させる
通常はここで終了し授業に入る
数回実施後、お互いに話し合う

(2) 継続内観:その2
@ 授業の指導案
ア 対象
 E高等学校(定時制普通科)2年生で、「内観」の授業を体験した生徒の中の、希望者5名(男子3名、女子2名)
イ 時間 放課後、30分程、連続して(5回・10・15回等)おこなう
ウ 場所 特別教室
エ 日時 平成11年11月〜12月
オ ねらい 「内観」の授業を体験して得たこと(自己受容・自尊感情・親子理解・友人理解等)を更に深め、内観的な発想にふれる。参加者同士で、「継続内観」      の感想を話し合い、体験を分かち深め合う。
カ 準備物 内観記録用紙 筆記用具
キ 内観の対象者(5回実施の場合)
a 一〜三回目は、保護者(お世話になった人)
   一回目・自分が小学生だった頃
   二回目・中学生だった頃から高校に入学するまで
    三回目・高校入学後現在まで
b 四回目は、今、苦手な人
c 五回目は、今、親しくしている人

ク 展開

場面 活動内容と時間 追加留意点
ウオーミングアップ
エクササイズ
シェアリング
生徒:呼吸法(腹式呼吸:10秒呼吸法)     3分
生徒:内観する  15分
生徒:内観記録用紙に記入する         15分
生徒:一緒に体験した者同士で今の感想を話し合う20分
内観記録用紙はその都度提出させる
通常はここで終了する
数回実施後、教師も入ってお互いに話しあう

A 授業効果の分析方法  
 構成的グループ・エンカウンター「継続内観:その2」の効果を測定するために、継続内観を体験した生徒5人に対して、体験の開始前と5回目の終了後に、自尊感情のテストとYG性格検査を実施した。体験内容は「グループによる記録内観」であり、生徒達は毎回、内観記録用紙に記入し、更に、5回目終了時に「継続内観を体験した今、感じていること、考えていることは?」という質問に答えて、感想を書き、お互いに話し合った。
B 授業実践の内容
 昨年、構成的グループ・エンカウンター「内観」の授業を体験した生徒達の中で「また体験したい」と希望する者があったので、それ以外の生徒達にも「昨年に引き続き、今回は継続内観を計画しているので、体験しませんか」と、授業等で呼びかけたところ、5名の希望者があった。3名は希望して、後の2名は希望者に誘われての参加であった。
 実施校は、夜間の定時制高等学校で、放課後の時間は短かいが、午後9時からの5校時の授業がない曜日や土曜日の放課後におこなった。日頃からよく知っている者同士であり、真剣であるが、なごやかな雰囲気の中で体験できた。呼吸法も、全員、腹式呼吸が出来ると思っていて、スムーズにおこなえた。
 四回目は、実施前に、指導者自身が「苦手な人と会うので、嫌だと思っていた時、自然に内観してみようという気持ちが起こって、その人にしていただいたこと、して返したこと、迷惑をかけたことの三点について、目を閉じてゆっくりと思い出したところ、積極的に会いたいという気持ちになれた。会った時は、まず感謝の気持ちから話せて、いい雰囲気の中で話し合いができた。」という体験を話し、参加者の関心を高めた。
C 授業の結果
ア 「継続内観:その2」で、生徒が内観した対象者について
5回の継続内観で、生徒が内観した対象者は表5の通りである。

表5 「継続内観:その2」で、生徒が内観した対象者

対象者生徒 A(男) B(男) C(男) D(女) E(女)
一〜三回目:保護者(お世話になった人) 祖母 先生
四回目:今、苦手な人 自分 先生 職場の上司 知人 職場の上司
五回目:今、親しくしている人 友人 友人 友人 あこがれの人 友人

 四回目の「今、苦手な人」の内観の対象者として、2人が「職場の上司」をあげた。働きながら学ぶ定時制高校生にとって、ストレスを感じる場の一つが職場であり、上司とのトラブルは大きな問題である。2人とも何とか内観できて、少し気持ちが軽くなったと語った。また、「自分」を対象とした生徒も1人いた。内観記録用紙に、「迷惑をかけたこと」として、「次々と大きな不安がおそいかかってきて、自分を痛めつける」と書き、「して返したこと」として、「どうしようもない時は、身体と心が満足するまで、一日中寝続ける。しかし寝られない時もある」と記入していた。後で話を聞くと、「自分を客観的に見られてよかった」と語った。この生徒は、中学時代、不登校であった経験があり、高校に通学している現在も、自分と真っ正面から向き合っているのである。なお、「知人」を対象にした生徒は、内観のどの項目にも「ないです」と答え、「その人とはほとんど会わないし、どうでもよい。関係の改善はありえません」と記入していた。 イ 生徒の感想について  5回目の終了時に書いた、5人の生徒達の感想は、以下のようであった。

表6 5人の生徒の感想

していただいたこと、迷惑をかけたことはよく思い出せたが、して返したことはあまり思い出せなかった。内観すると、物事を主観的にも客観的にも見られるようになる。つまり、内観は物事を全体的に考えさせるキーワードを持っている。内観は、本来はひとりでするものだと思う。
 母のことを小学生の頃、中学生の頃、今と、しっかり思い出すことができてよかった。今まで迷惑をかけてきたことが多かったので、これからはして返す番だと思う。
昔のことは普段は思い出さないが、継続内観で思い出せてうれしい感じがした。自分にとって、昔のことが意味があったと思い、やってよかった。気持ちが落ち着いた。テストなどで緊張する時、10秒呼吸法をすることがある。
 内観をしていると、そんなこともあったなと、しみじみした気持ちになる。自分の心の中や動きを知ることができて、とてもおもしろい。自分でも気づかなかった内面を知ることができた。自分が他人にどう思われているか、分からなくて不安になった時に、内観的発想が役に立つと思う。相手が自分をどう思っていようと、自分が相手を好きならそれでいいじゃないかと思うと、ゆるぎのない、自分次第の、気持ちの落ち着きが得られる。
言葉ではいいにくいが、目をつぶって内観をしていると、ホワーンとした、ポカーンとした、不思議な感じがする。内観は、好きとか、嫌いとかを越えた、日常ではない特別なものだと思う。いつもとは違ってゆったりする。目がクラクラしたり、眠くなる時は困る。

 5回目の最後に指導者も入って、シェアリングした。まず、先程書いたものを元に、お互いの感想を発表し、質問があればした。A君には「むつかしいので説明して欲しい」B君とC君には「同感や」Dさんには「内観的発想がどう役にたつのか、もう少し詳しく言って」Eさんには「Eさんらしいな」という声があった。A君から、今、苦手な人として、「自分」を内観した時に心にわいてきたことが話された。それぞれの体験や感想を話し合い、最後に指導者が「内観的発想はできそうですか?」と尋ねたところ、全員が「できそうだ、ぜひやってみたい」と答えた。 ウ 自尊感情のテストの結果について  「継続内観:その2」を体験した5人の生徒に対して、実施の前後に自尊感情のテストをおこなった。表7はその結果である。

表7 自尊感情のテストの合計得点とその変化

生徒 A(男) B(男) C(男) D(女) E(女) 平均値
実施前
実施後
35
46
57
62
40
52
58
57
37
45
45.4
52.4

 Dさんの合計得点は、継続内観の前より後の方が、下がっている。Dさんは、四回目の継続内観の直前に、生徒会長に立候補し、対立候補に破れているが、その影響があるかもしれない。その他の4人の生徒は合計得点が上がっている。
エ YG性格検査の結果について
 「継続内観:その2」を体験した5人の生徒に対して、実施の前後にYG性格検査をおこなった。図3はその結果である。
p146.gif (7033 バイト)

   「継続内観:その2」の前後でおこなったYG性格検査の平均値で、各項目のプロフィールの変化をみると、「抑うつ性小・客観的・のんき・思考的内向・社会的内向」への変化が目立っている。


3 構成的グループ・エンカウンター「内観」の指導

(1) 高校の先生を対象とした、構成的グループ・エンカウンター「内観」の実習
@ 実習の状況
ア 対象
県立教育研修所のカウンセリング講座を受講された高校の先生18名
イ 時間 2時間(説明30分、実習60分、シエアリング30分)
ウ ねらい 生徒の心の成長を支援する開発的カウンセリングの実習として、構成的グループ・エンカウンター「内観」を体験し、教科・特別活動等の領域での 実践力と指導力の向上をはかる
A 実習の結果
ア 内観を体験された先生方の感想

表8 先生方の感想

肯定的な感想 否定的な感想
情緒的
・親に感謝したい(4)
・心も体もゆっくりした(2)
・悲しくて涙が出た(2)
・不思議
・心の解放を味わえた
・気分が爽快
知的
・今後の付き合いが少し良い方向に変わる予感がする
・今の自分と過去の自分が交錯した
・認識が改められる
・向上的に生きる為のよい方法
・自分の心の観察は、簡単そうでなかなかできないから意義がある
・精神面での「お返し」の量が追いつくのは、いつのことかと感じた。
身体的
・意識が混沌として、眠りかけていた


知的
・「自分自身をみつめる」という事に対してとても抵抗がある
・「保護者」という身近な存在と対象とすると、一つを選ぶのは難しかった
・恒常的な「母の愛」を見つめるのが難しかった
・対象との心理的な距離があまりなくて、書きにくく、考えにくかった

                                                    ( )内は複数回答の数  

先生方は、しっとりと内観された人が多くて、シェアリングの時に、涙ぐんだ方も数人おられた。

イ 内観の授業の実施について  
実習の最後に、「この実習を元に、ご自分が、構成的グループ・エンカウンター「内観」を実施したいという気持ちになられたかどうかを、感想文の最後に書き加えていただければありがたい」と、お願いしたところ、かなりの先生が記入してくださった。

表9 内観の授業を実施することについての思い

1実施したい A先生:今の生徒に実施するのは有意義だし、保護者を対象に実習してみたい気もする
B・C先生:記録内観に興味があるので実施したい
D先生:呼吸法などを、少しずつ取り入れたい
E先生:内観法を取り入れた個人相談を今までしてきたし、集団での取り組みも考えたい
2不安がある F先生:自分だけで支えられない場合もでてくるかもしれない
G先生:やってみたいが、こちらが受け止められる「体力」があるかどうか、心配
3実施できない H先生:生徒に実施するのは私にはむつかしくてためらわれる

  実施したいと書かれた先生に、後日もう少し詳しく尋ねたところ、以下のようであった。

A先生:ぜひ実施したい、継続内観も含めて
B先生:国語の授業と関連させて、高校生活のしめくくりとして、12月に実施したい
C先生:保護者との関係を見つめさせることは意義深いと思うので、実施してみたい
D先生:あがりしょうの生徒がいるので、特に呼吸法を実施したい
E先生(聾学校勤務):生徒の母親(両親)は、耳が聞こえない子どもに何が何でもと厳しい訓練をし、遊ばせることもあまりさせていない。必死に訓練する母親に子どもが反発することも多いので、母と子の仲をとりもち考えさせたい。ただ、言葉で一斉に実施するのはむつかしいので工夫したい

(2) 構成的グループ・エンカウンター「内観」を指導した先生の感想
 本年度は、構成的グループ・エンカウンター「内観」の授業に7人の先生が取り組まれた。県立教育研修所での実習時に、「内観の授業を実施したい」と回答された数人の先生を含む5人の高校の先生と、中学校、小学校各1人の先生である。それらの内観を指導された先生方に、授業実施後、感想や生徒のようすについておたずねした。表10はそれらを整理したものである。

表10 内観時の生徒のようすと指導者の感想

授業前 気になったこと
a 生徒の反応(7) b 時間配分(6) c 呼吸法の箇所(2) d 教師が内観体験を語る箇所(4) e 内観をイメージさせる箇所(3) fシェアリングの箇所(3)
授業中 生徒のようす 指導者の感想
a 呼吸法の時
・落ち着いて静かにおこなった(3)
・興味を持って取り組んでいた
・前に数回やっていたのでしっかりできた
・一部の者は取り組まなかった
・はじめ笑い声があがりやや集中に欠けた

b 指導者の内観体験を聞く時
・しっかりと真剣に聞いていた(5)
・日頃と違う話の内容なので集中して聞いていた
・思い切って告白したので緊張した

c 内観をイメージする時
・静かに取り組んでいた(3)
・すぐに記録する者がいた(4)

d シェアリングの時
・まあまあ隣の者と話し合っていた(2)
・あまり活発ではなかった(2)
・お互いに家族についていろいろ話しあい活気があった

・呼吸法だけで充分効果があると思った
・生徒達はまじめに取り組み、やりやすかった
・日頃の落ち着き方と呼吸法への取り組みに関連がある
・集中させるのにテクニックが必要だ

・自分にとって大切なことを伝えられてよかった(2)
・生徒の反応に強い手応えを感じた
・具体的に語ったのですこし恥ずかしかった
・勇気がいった
・生徒の反応を見ながら語ったので純粋さに欠けた

・各項目の切り替えがスムーズにできた(2)
・ここが大事だと思い、ていねいに声かけをした

・個人的なことなので皆の前で発表するところまではいかなかった(2)
・次の時間に生徒の感想を読み上げて紹介した(2)
・時間が足りなかった(2)
e 生徒からの質問
・決められた人以外を内観してはいけないのか? ・こんなことをして何になるのか?
f クラスの雰囲気はどうであったか
・しっとりとおだやかな空気がただよった(2)
・いつもざわついているのに、この時は真剣だった
・おごそかな時間であったように思うし、生徒の心の深いところに響いたと思う
・授業中他のことをせずに、集中度、注目度が高かった
授業後 ・いつもより落ち着いていた(2)
・すがすがしいようすだった
・胸のつかえがとれたようなさわやかな表情が印象的だった
・保護者や友人の良い点を見つけられるようになり、対人関係に変化が起こった
・教科担当者からクラスが落ち着いていて、授業がしやすかったと言われた(2)
・指導者が少し照れる部分もありながら、自己開示したことで、生徒に少し近づけたように思う
・友人のいない生徒や親に見捨てられたような生徒の指導をどうするかが気になった
全体を振り返って a 指導者として力をいれた点
・指導者自身の内観(4) ・呼吸法を身につけてほしい ・内観をイメージさせるところ    ・シエアリングさせるところ・自分を深く見つめ、素直になれることの意義の説明 ・参加しそうにない生徒に気を使った
b 良かった点
・生徒がほっこり感を味わったこと
・生徒の感想に好意的肯定的なものが多くあったこと
・生徒が素直になったし、保護者や友人との絆が深まった
・生徒にとって重要な人との関係を見直す良い体験になった
・一人一人の生徒の心にひびき届いたという実感がもてたこと
・個別でないので、少ない時間で大きい成果をもたらす点
・対処さえ慎重にすれば、生徒の精神状態がわかりやすいこと
c やりにくかった点
・指導者の内観の部分(2)
・時間配分(2)
・効果を測るテストを繰り返した点(2)
・心の深いところなのでシェアリングがむつかしい
・生徒達のようすをみきわめること
d 予想外だった点
・思った以上に、各自の思いをたくさん率直に、記録用紙に書いてくれたので感動した(2)
・日頃態度の良くない生徒が真剣に取り組んでいた(2
・もっと懐疑的な意見がでるかと思っていたのにあまりなかった
e その他
・問題のある反応を示した生徒、家庭背景に重いものを持つ生徒への後の指導が大切である(2)
・呼吸法の時、予備カウント「7.8.9.10」をして、それからはじめると取り組みやすかった
・生徒との間にある程度人間関係ができていたので、やりやすかった。日頃の信頼関係が大切である
・授業後、引き続き内観をしたいという生徒がいたので実施した

       ( )内は複数回答の数

(3) 「内観」を生かして

@保護者会で 
 冨士盛(1995)は、高校で、内観法を使った構成的グループ・エンカウンターによる保護者会を実践している。まず生徒が「保護者と私」というテーマで記録内観し、その感想文集に更に感想を書く。その『「保護者と私」感想文集への感想集』を保護者会で配布して、保護者を対象に構成的グループ・エンカウンターを実施するというものである。

A生徒に対する特別指導として
 荒堀(1985)は、高校で生徒が問題行動をおこした時、その行動を成長と適応への一過程であるととらえて、内観法を用いた指導を実践している。生徒を登校させ、指導部と学年の先生による面接と、内観作文を重ねて、生徒の自己教育力に焦点をあてた、特別指導をおこなっている。


4 考察

 昨年度、構成的グループ・エンカウンター「内観」の授業を実施して、生徒が、自分にとって大切な人との過去の関わりを一生懸命に思い返し、自分に注がれた愛の大きさに気づいて涙ぐむ姿、指導者として思い切って自分自身の内観を語った時、真剣に聞いてくれた生徒の目、授業後すがすがしかった学級の雰囲気、また効果測定のためのテストの結果も参考にして、この授業が「心の教育」として、意義深いものであると感じた。「内観法」の三つの観点の安全性と浄化作用に目をみはる思いもあった。それと同時に指導案の中の改善したい点に気づき、また、内観の授業を深め広げるという課題も生じてきた。  そこで、本年度は、昨年度の実践をもとに、『構成的グループ・エンカウンター「内観」:その2』として、さらに一歩すすんだ取り組みを試みた。考察では、本年度の改善点や課題がどうであったかを検討したい。
1 『構成的グループ・エンカウンター「内観」:その2』について
 改善点として、@事前指導、A指導案中の時間配分、B事後指導の3点をあげた。
 まず、@事前指導での呼吸法の実習がある。「内観」の指導案では、心を落ち着かせ、しみじみと内観できるように、授業の導入として呼吸法を実施している。しかし、呼吸法は有効なリラクセーション訓練の一つであり、呼吸法だけを独立させて、生徒に習得させたいものでもある。「内観」の効果を高めスムーズに導入できるように、またリラクセーション訓練への橋渡しとして、あらかじめ呼吸法を実習する、事前指導をおこなうことにした。今回、2人の指導者は授業前に数回呼吸法の実習をおこなっており、別の指導者の感想(表10)にも、「呼吸法だけで充分効果があると思った」とあった。
 次に、A指導案中の時間配分で、シェアリングの時間を多くとろうとしたことがある。本来は個人的な「内観」を集団で授業としておこなうのは、教師の指導のもとに級友と同じ体験をし、その体験から得たものを話し合って、自己理解や他者理解を深めるためである。国分(1992)は「構成的グループ・エンカウウンターはエクササイズとシェアリングの二本柱から成り立つ」といい、シェアリングの目的を「思考・感情・行動を拡大・修正する」と述べている。吉田(1999)はシェアリングの意義を「同じエクササイズをおこなっても、感じ方や印象は人それぞれである。それらを話し合い、自分とは違う他者の感じ方を知ることで、エクササイズで得られた気づきを深めることができる。また、語ることで自己の気づきや感じ方考え方を受け入れていくことができる」と述べている。今回の指導者の感想(表10)をみると、「お互いに家族についていろいろ話しあい活気があった・まあまあ隣の者と話し合っていた」とうまくシェアリングできた授業もあるが、「個人的なことなので皆の前で発表するところまではいかなかった・あまり活発ではなかった」という授業もある。学級の雰囲気によって、次の時間に生徒の感想を読み上げて紹介するなどの、さまざまな工夫が必要になるであろう。
 またB事後指導の具体例として、「(4)授業の内容」で、特別な配慮を必要とした事例をとりあげた。「内観」の授業に懐疑的な反応を示した生徒と、過去の体験が深くよみがえり、疲れてしまった生徒に対応した事例である。内観を体験した147人の生徒の中で、2人の例であり、あとの生徒には特別な事後指導の必要はなかった。さまざまな個性と背景をもつ生徒を対象におこなう授業は、教科でもLHRでも、慎重な配慮が必要である。今回特に慎重に配慮した2人の生徒は事例に述べたような対応の中で、「内観」の授業をきっかけにして、より人間的に成長をとげたと思われる。構成的グループ・エンカウンターを学校で実践しようとする時、多くの先生が事後指導について危惧する。今回の、高校の先生を対象とした「内観」の実習でも、後で内観の授業の実施について尋ねたところ、不安があると回答した先生の理由は「やってみたいが、こちらが受け止められるかどうか、心配(表9)」というものであった。生徒に慎重に対処することは非常に大切であり、内観の授業を実施する時、今回の実践からの具体例を参考にしていただければと思う。
 それでは、「(5)授業の結果」にある、生徒の感想と自尊感情とSTAI@のテストの結果をみたい。生徒の感想として、今回は、保護者に対する内観と友人に対する内観を別々に書いたものを取り上げた。生徒の感想(表1)をみると、保護者友人ともに、昨年同様肯定的なものが多く、村瀬(1996)が「内観」の効果としてあげる「それほどまでに愛されていた自分、それなのに身勝手で愚かであった自分に気づき、より素直で謙虚な自己に向けて変わり出した自分がそこにいる」ことによると思われる。保護者と友人とを比較してみると(表1)、友人の方に“実感した”という感想が多く、まさに高校生にとっての友人の存在の重要性がわかる。なお、自尊感情とSTAI@のテストの結果も、昨年同様有意に変化していた。村瀬(1996)のいう「根底的な安心感と自己尊重の気持ち」が内観によって生まれてきたのであろう。特に2時間連続して内観したC高校でも、状態不安が有意に減少している。このことから、内観の授業はその学校の状況にあわせて、指導案以外に、1時間のみの実施や2時間連続の実施等、柔軟な指導形態をとっても、生徒にとって意味があるのではないかと思われる。また、昨年2人、今年7人の指導者が「内観」の授業をおこなっている。それらのどの学校においても統計的に有意に、自尊感情の高まり、状態不安の減少があった。これらのことから、慎重に指導すれば、どの先生が「内観」を指導しても効果があるといえるのではないだろうか。
2 構成的グループ・エンカウンター「継続内観」について
 久保川(1997)は、「集中内観によって得られた大きな喜びや知恵が、日常生活に戻り、多忙さや従来のままの人間関係の中で、薄れていき易いという問題点がある」といい、日常生活の中で、一定の時間や場所を定めて内観を継続する必要性を説いている。筆者の勤務校でも昨年「内観」の授業を体験した生徒の中に、「また内観を体験したい」と希望する者がでてきた。貴重な「内観」の体験をその時だけのものにせず、学校内で「継続内観」の機会を作ることは大切であると思い、本年度は継続内観:その2を実践した。実は筆者は昨年の内観の授業後、奈良内観研修所で集中内観をさせていただいた。その数ヶ月後、苦手な人と会う前に自然に内観してみようという気持ちが起こってその人について内観し、会った時は感謝の気持ちから話せたという体験をした。困難な対人関係に直面した時、自然に内観的発想ができて救われたという実感を持った。三木(1976)のいう「@相手に借りはないか・A相手はともかく、自分はどうであったか・B相手の気持ちはどうか」と考える内観的思考様式ではなかったかと思われる。今回の継続内観の指導案でも、内観的発想が少しでも生徒の身についたら、という思いで、五回分の内観の対象者を設定した。まず保護者を三回に分けて内観した後、四回目は、今、苦手な人、五回目は、今、親しくしている人を内観した。5回目の後のシェアリングの時、最後に筆者が「内観的発想はできそうですか?」と尋ねたところ、全員が「できそうだ、ぜひやってみたい」と答えた。内観的発想のてがかりとでもいえそうなものを、少しは得たのではないだろうか。
3 構成的グループ・エンカウンター「内観」の指導について
 「内観」の授業を少しでも深め広げたいと考えていた時、県立教育研修所のカウンセリング講座で、高校の先生を対象とした構成的グループ・エンカウンター「内観」の実習ができたことは、たいへんありがたかった。先生方はしっとりと内観し、内観の授業を実施することについての思い(表8)を質問しても、率直に回答してくださった。実施したいと答えた方のうちの3人の先生から、本研究への協力を得た。  本年度は7人の先生方が、「内観」の授業を、高等学校5校、中学校、小学校各1校で実践された。みなさんに授業の内容について質問し、その結果を、「内観時の生徒のようすと指導者の感想(表10)」としてまとめた。授業の前には生徒の反応等を細かく気づかい、自分の内観体験を「思い切って・勇気を出して・緊張して・恥ずかしさを乗り越えて」語り、生徒の反応に「強い手応えを感じた・よかった」と思う先生方の快い緊張感が伝わってくる。生徒もそんな指導者の熱い思いに「興味を持って・真剣に」応え、「保護者や友人との関係を見直す体験」をし「おだやかな・さわやかな・すなおな」ようすをみせる。構成的グループ・エンカウンターは「内容的にも時間的にも空間的にも枠があるゆえに」カウンセラーでなくても実施できると、國分(1992)は述べる。特に、非常に深くはあるが単純明快なテーマをもつ「内観」は、指導者のカウンセリング経験に左右されにくい。なお、今回は中学生と小学6年生にも「内観」の授業をおこない、成果をあげていることから、高校生以外への実施も充分にできると思われる。


おわりに

 「内観」は人を素直にさせる、不思議な愛の体験である。わずか、二回の内観の授業を通じて、また、わずか五回の継続内観を通じて、生徒と指導者の得たものは大きく深い。「内観」の授業を実践しながら、「内観法」に触れて感動し、さまざまな出会いの機会をいただいたことをありがたく思う。
 最後になりましたが、、「構成的グループ・エンカウンター・内観」の授業を実施していただいた先生方、生徒の皆様に感謝します。

参考引用文献
荒堀浩文 1985 内観法を取り入れた学校教育相談の実際 月刊生徒指導11月号 学事出版社, 27-42
冨士盛公年 1996 内観法を使った構成的グループ・エンカウンターの実践報告 日本学校教育相談学会報告論文集
藤原忠雄 1997 リラクセイション 岡山県学校教育相談研究記録「森」,20, 47-57
飯野哲朗 1997 内観 國分康孝(監修) エンカウンターで学級が変わるPart2中学校編図書文化社 ,58-61
國分康孝 1992 構成的グループ・エンカウンター 誠信書房
久保川操 1997 自立への長い道程ーカウンセリング学習と内観法に導かれてー 兵庫県カウンセリング協会機関誌  「Counseling」No.49 , 2-12
三木善彦 1976 内観療法入門ー日本的自己探究の世界ー 創元社
村瀬孝雄 1996 自己の臨床心理学3ー内観ー 理論と文化関連性 誠信書房
竹元隆洋 1995 アルコール依存症に対する内観療法 内観研究Vol.1,No.1 日本内観学会 , 61-71
吉田隆江 1999 シェアリング 國分康孝(監修) エンカウンターで学級が変わる高等学校編 図書文化社, 32-33

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