V 「いじめを考える全校集会」の取り組みから
                        小野市立小野中学校 田中 誠


要約

本校では、平成9年度より「いじめを考える全校集会」を持ち、いじめをなくす取り組みを行ってきた。いじめを根絶するためには、いじめを生み出す要因となっている、学級の人間関係を体験的に改善する必要があると考えられる。「友達内観」は、過去における「友人に対する自分の姿」を深く見つめさせる手法である。この内観を体験することで、友達への感謝の気持ちが生じ、友達や自分の見方が変化し、さらに、仲間同士の信頼を深め、人間関係をより良くすることができると考えられる。そこで、過去3年間の「いじめを考える全校集会」を整理し、その成果を確認する一方、今年度の集会後、3年生のある学級において実施した「友達の内観」の授業がいじめの根絶のためにどの様な効果をもたらすかを検証した。
 平成11年度の「いじめを考える全校集会」の前後に実施した「いじめられ体験アンケート」の結果を比較すると、その数が著しく減少し、同時に実施した学級生活満足度尺度の結果も大きく向上した。さらに、「友達内観」の授業を体験したクラスの方が、学級生活満足度尺度の向上の度合いが顕著であるという結果を得た。また、「友達内観」の授業を実施したクラスでは、内観の実施前と後に心理テスト(自尊感情、STAI@)をおこなったが、内観の実施後、自尊感情が向上し、不安を感じる度合いが低くなるという結果を得た。授業後、生徒は「友達のありがたさを深く考えさせられた」等の感想を述べ、「友達内観」の授業が、学級における人間関係の改善に大きく寄与することが確認できた。
 全校挙げて取り組んだ「いじめを考える全校集会」の実施は、生徒にとって、学校生活を見直す良い機会となり、いじめについて意識させ、いじめの防止に大きな効果があったといえる。さらに、「友達内観」の授業で、生徒は自分を支えてくれた友達の存在を再認識し、学級における人間関係の絆を深め、人間関係の改善に大きく役立ったといえる。以上のことから、このプログラムが「心の教育」として有効であったと言えるであろう。




1 はじめに
 人と人の結びつきが希薄になり、急速に「デジタル化」をとげていく現代社会に生きる子供達は、急激な社会や生活の変化の負の部分をまともに背負い込んでいると言えよう。現代の子供は、基本的な生活習慣や根気強さ、責任感、自制心、勤労精神などが劣っていると評価され、「心の教育」「生き方の教育」「体験的学習」が緊急の教育テーマとなっている。いじめは、まさに、現代を映し出す社会現象と考えられ、「コミュニケ−ション不足」「人間関係の希薄さ」に起因したものであるといえる。
 本校では、平成9年度より「いじめを考える全校集会」を持ち、いじめをなくす取り組みを、全校挙げておこなってきた。3年間の取り組みで、「いじめはいけないもの」と生徒に理解させることはできたが、いじめの根絶までには至っていない。生徒一人ひとりの心に深く浸透させ、いじめを生み出す要因となっている「学級の人間関係を体験的に改善する」ことが課題となっている。
 「友達内観」は、過去における「友人に対する自分の姿」を深く見つめさせる手法である。@友達にしてもらったこと、A友達にして返したこと、B迷惑をかけたこと、の3点から内観を体験することで、友達への感謝の気持ちが生じ、友達や自分の見方が変化する。さらに、仲間同士の信頼を深め、人間関係をより良くすることができ、ひいては、いじめを生み出す要因となっている、前段の課題を解決するために有効であると考える。
 本研究は、3年目の「いじめを考える全校集会」の成果を確認する一方、集会後、ある学級において実施した「友達の内観」の授業の成果を確認するものである。


2 「いじめを考える全校集会」の取り組み
(1)1997(平成9)年
@ 事前アンケート  
「小野中にいじめがあるか」、「いじめについてどんな考え方をもっているのか」、「いじめを見たときにどんな行動ができるか」という項目で全校生を対象に意識調査。アンケートの結果は、討論会の中で生徒に知らせた。
A 生徒集会
ア ねらい:「いじめは許されないこと」、「いじめは必ずなくせること」、「傍観者がいじめを残し、助長させていること」、の3点に気付かせる。 イ 劇  :生徒会役員が、いじめの本・ビデオを参考にして、日常場面を設定した、いじめの劇のシナリオを作成。無視からスタートしたものがエスカレートし、いじめになっていく内容を生徒会役員が演じた。 ウ 討論会:各クラス代表生徒19名、保護者の代表2名、地域の方1名を加えた計22名によるパネルディスカッション。司会は教師が行ない、適宜、全校生にも問いかける形で行なった。

(2)1998(平成10)年
@ 事前アンケート
 平成9年度と同様のアンケート (アンケートの結果は集会で知らせた。)
A 生徒集会
※計画の詳細については資料1を参照 ア ねらい:「どんなことががいじめになるのか」、「本人に問題があるときにもいじめは許されないこと」、「いじめを防ぐために傍観者にならないこと」、「いじめが起きない生活」、の4点を考えさせる。 イ 劇  :いじめを定義づけるため「あきらかないじめ」、「いじめと判定しにくいもの(いじめにならない)」、「いじめと判定しにくいもの(いじめになる)」、の3種類のシナリオを教師が作成し、それを生徒会役員が演じた。     ウ 討論会:生徒会役員が演じる3つの劇を見た後、それがいじめなのかどうかを判断させて、ねらいについて平成9年度と同様の形式で討論をした。

(3)1999(平成11)年 <11月24日実施>
@ 事前アンケート(全校生対象)
 平成9年度と同様のアンケート (アンケートの結果は集会で知らせた。)  ※3回目の集会を体験する3年生は、「いじめに対してのあなたの考え」の問いに対して、89%の生徒が「絶対になくさなければならない」と答えており、(昨年度より8%上昇)意識の向上が伺える。
A 生徒集会 ア ねらい:劇を通して「いじめは許されないことである」ことを全校で再認識するとともに、討議を通して「何がいじめを生み出してきたのか」を考え、学校生活を見直す機会にする。
 イ 劇  :「大河内君の遺書」をもとに、いじめの劇のシナリオを教師と生徒が作り、生徒会役員が演じた。「真面目に活動せず、お互いが無関心である学級の風景」、「序列がつくグループの人間関係」、「次第にエスカレートするいじめ」「見て見ぬふりをする学級の雰囲気」「遺書の一部の朗読」をハイライトする。  ※シナリオについては、資料2を参照。
ウ 討論会:各学年毎に集会を持ち、劇の感想を出し合うなか、いじめを生み出す背景について考え、心がけねばならないことを話し合った。

(4) 「いじめを考える全校集会」の成果と課題
@ 「いじめられ体験」の事前・事後アンケート(3年生2クラス75名対象)  11月24日の全校集会の実施5日前に、3年生の2クラス75人を対象に下記のような詳細なアンケートを実施し、「今の学年になってからのいじめられた体験」を調査した。全校集会実施後の3週間後にも同様のアンケートを実施し、「全校集会以降のいじめられた体験」について調査した。(気掛かりな生徒に対して、「あなただけの番号」を手がかりに、カウンセリングを実施した。)

いじめられ体験アンケート
氏名(             ) 男 / 女
*名前の箇所は、「あなただけの番号」を渡しています。例のように指定されたアルファベット2字と数字2字を記入しなさい。{例AK37}
 もし、「あなただけの番号」忘れてしまっていたら、先生に聞いて下さい。
※11月24日〜今日まで、あなたは同じ学校のひとから、いじめられたことがありますか。それぞれの「いじめ」について、あてはまる番号に○をつけてください。

(1)「なかまはずれ」にされたり、みんなから無視される。 1.ない 2.あったが今はない 3.今もある
(2)しつこく悪口をいわれる。                1.ない 2.あったが今はない 3.今もある
(3)いやな遊びでからかわれる。               1.ない 2.あったが今はない 3.今もある
(4)自分の物をかくされたり、こわされる。        1.ない 2.あったが今はない 3.今もある
(5)いやなことを、やらされる。              1.ない 2.あったが今はない 3.今もある
(6)なぐられたり、けられたりする。            1.ない 2.あったが今はない 3.今もある
(7)お金やものをとられる。                1.ない 2.あったが今はない 3.今もある
(8)使いばしりをさせられる。               1.ない 2.あったが今はない 3.今もある
(9)いやなうわさをながされる。              1.ない 2.あったが今はない 3.今もある

A アンケートの分析
 以下に示す表1は、「いじめを考える生徒集会」の前後におこなったアンケートを集計し、比較したものである。   
表 1 いじめられ体験アンケート集計結果

アンケート項目 集会前(11月29日) 集会後(12月14日)
2学級抽出(38+37)=75人 2学級抽出(38+37)=75人
無い 前あった 今もある 無い 前あった 今もある
1 仲間はずれ・無視 65 6 4 68 6 1
2 しつこい悪口 58 13 4 69 5 1
3 遊びでからかう 69 5 1 73 2 0
4 物を隠す・こわす 68 7 0 72 3 0
5 嫌な事をやらさせれる 66 6 3 72 2 1
6 なぐる・ける 57 14 4 64 8 3
7 お金や物をとられる 75 0 0 74 1 0
8 使いはしり 71 4 0 73 1 1
9 嫌なうわさ 59 12 4 67 8 0
総合計(人) 588 67 20 632 36 7

総合計の結果から分かるように、9項目に渡って「ない」と答えた生徒は588人から632人に上昇し、「あったが今はない」と答えた生徒は67人から36人に減少し、「今もある」と答えた生徒は20人から7人に減少している。

表 2  カイ二乗検定の結果

  評点 ない 以前あった 今もある
集会前 観測値
期待値
残差
588
610.0
-4.059**
67
51.50
3.178**
20
13.50
2.527*
集会後 観測値
期待値
残差
632
610.0
4.059**
36
51.50
-3.178**
7
13.50
-2.527*

  +p <.10  *p< .05 **p< .01
 カイ二乗検定の結果、上の表2の示す様に、これらの変化には統計上の有意性が確認された。したがって、「いじめを考える生徒集会」はいじめの行為の防止及び抑制に大いに効果があったと結論づけられる。生徒会役員が緊迫感を持って演じた「いじめの劇」とその後の討論会により、生徒が意識がした結果だといえる。

B 考察と課題
 「いじめを考える全校集会」の取り組みを通して、生徒は多くのことを学習し、いめについての認識も大きく変わっていった。しかしながら、多人数の集会だけでは、すべてを完全に解決できる内容ではないために、学年・学級における、その後の取り組みが大切であるといえる。
 集会後の取り組みには学年間における意識の差もあり、全体として十分でなかったことは否めない。日常生活の指導と関連させて指導していくには、生徒の心にもっと深く印象づけ、集団生活の母体となる学級における人間関係をプラスのイメージに改善できる体験的活動が必要である。そこでこの課題の解決の糸口を、「友達内観」に求めた。

3 「友達内観」の授業の指導案
(1) 対 象 A中学校3年生37人
(2) 日 時 平成11年12月9日(木) 2校時(9:45〜10:35)1時間配当の学級活動として扱う
(3) 場 所 教室
(4) ねらい 友人に対して、自分がどの様に接してきたかを具体的に調べる。それによって、自分が友人に支えられて生きてきたこと、友人を大切にしてこなかったことに気付き、自己受容と友人理解を深め、仲間への信頼関係の再構築を図る。
(5) 準 備 友人についての内観記録用紙、筆記具

(6) 展 開

場面 活動内容 留意点
ウォーミングアップ










インストラクション






エクササイズ




教師:「まず、呼吸法をして、しっかりと心を落ち着かせます。」
生徒:呼吸法(腹式呼吸:10秒呼吸法)5分
(1)姿勢を整える
(2)静かに目を閉じる
(3)口から全部息を吐く
(4)123と鼻から息を吸いながらお腹をへこませる。
(5)4でとめる
(6)5678910で口から息を吐き出しながらお腹をへこませる。
(7)これらを5分間繰り返す
(8)消去動作

教師の簡単な説明15分:「これから、友人に対する自分について調べます。今日はあなたの友達の中から、お世話になった人を一人選んで、その人のことを思いだして下さい。友人が思い浮かばないときは保護者でもかまいません。」
「その人に対して自分はどのように接してたのかを充分に思い出して調べます。」
「してもらったことはどんなことがありましたか。して返したことはどんなことがありましたか。迷惑をかけたことはどんなことがありましたか。できるだけあった出来事を相手の立場に立って思い出して下さい。」
教師:あらかじめ内観しておいた、自分の体験を生徒に話す。

生徒:内観する。10分
(1)誰に対して自分を調べるのか決める
(2)楽な姿勢をとり、目を閉じる
(3)教師が指示する3つの項目にしたがって内観する。
教師:1項目ごとに静かに目を開けて深呼吸させ、気持ちを切り替えられるようにする。
生徒:内観記録用紙に記入する。 10分

生徒:隣同士で感想を話し合う。 5分

教師:自分の感想を話す。 5分
・ストレスを和らげ、気持ちを落ち着かせるために、呼吸法が役立つことを説明し、取り組む意欲を高める。
・姿勢:イスの背もたれに軽くもたれ、膝は鈍角にし、両足を床面に着け、全身の力を抜く。
・吐くことに重点を置く:イライラ・もやもやを一緒に吐き出すようにイメージする。
・消去動作:両手を握り数回屈伸して、大きく背伸びし、深呼吸して、静かに目を開く。
・記録用紙を配布し、内観の意義を説明し、取り組む意欲を高める。
・3つの項目:
(1)してもらったこと
(2)して返したこと
(3)迷惑をかけたこと
・教師は、出来るだけ中学時代の友人を内観し、事実をしっかりと思い出し、感情をこめて話す。
・友人に対し、良いイメージのない生徒がいる場合は無理強いせず、「身近でお世話になった人」を考えさせる。
・目を閉じて具体的な事実をありありと思い浮かばせ、その時感じたことをていねいに振り返らせる。
・この時しっかりとイメージさせる。
・用紙に記入しない生徒に対して強要しない。
・実施後すぐに内観記録用紙を読み、気になる生徒があれば、直ちに話をする。
・内観から得たものを、自分の体験として話す。


4 授業効果の分析方法

 「友達内観」の効果を測定するために、以下の3種類の心理テスト及び調査を実施した。

(1) 学級生活満度尺度テスト
 いじめ被害や学級不適応の可能性の発見を目的に、河村茂雄氏(1998)によって作成されたもので、「承認得点」6項目、「被侵害得点」6項目の計12項目からなる。学級の雰囲気を調査するために、3年生の2学級(一方は内観の体験群、もう一方は内観の被体験群)で、いじめのアンケート調査時に実施した。

(2) 自尊感情テスト
 自尊感情(Self-Esteem)は「自分が価値のある、尊敬されるべき、すぐれた人間であるという感情」である。10項目の質問(代表的な質問項目:いろいろなよい素質を持っている)よりなる。この感情の変化を見るため、授業の前後に、内観を体験した生徒(体験群)に実施した。

(3) STAI@(状況不安尺度)テスト
 STAI@は青年や成人の不安を測定するためのテストで、特に今どう感じているかをたずねる20項目(代表的な質問:緊張している)からなる。状況不安の変化を見るため、自尊感情テストと同時に、内観を体験した生徒(体験群)に実施した。

(4) 内観の記録用紙
 授業内容は「集団による記録内観」であり、生徒は内観した内容を用紙に記入した。用紙の最後には、内観の感想をたずねる項目を設けた。
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5 授業の結果と考察
(1) 授業及び各調査の日程
 
「いじめを考える全校集会」の取り組みを境に、各調査や「友達内観」授業を実施したが、具体的な日程は以下の通りである。
・11月19日(金)15:00  「いじめられ体験」のアンケートと 「学級生活満足度尺度」のテスト
・11月24日(水)13:00〜15:00「いじめを考える全校集会」、「学年討論会」
・12月 9日(木) 9:45〜10:35「友達内観」の授業(自尊感情・STAI@の事前/事後テスト)
・12月14日(火)15:00   「いじめられ体験」のアンケートと 「学級生活満足度尺度」のテスト

(2) 学級生活満足度尺度テスト
 学級雰囲気の変容を調査するために、3年生の2学級(一方は内観の体験群、もう一方は内観の被体験群)で、「いじめられ体験」アンケートの実施時に調査した。表3はその合計点数の平均値の結果である。

表3 学級生活満足度尺度の合計点数の平均値とその変化

項目 11月19日(A) 12月14日(B) 変化(A)-(B) t値 p値 両側検定
内観体験群36名 38.28 40.00 +1.72 2.2607 0.030  *
非体験群37名 38.41 39.38 +0.97 1.4159 0.165 n.s.

*は統計的に意味のある変化である( n.s. p<.10、*p<.05、**p<.01) <.10, *p < .05, **p < .01)  学級生活満度尺度の平均得点は、内観体験群は1.72ポイントの向上、一方、非体験群は0.97ポイントの向上となり、両群ともに向上していることが伺えるが、t検定による統計的な処理によって、内観の体験群に変化の有意性が認められる。  前述したように、内観体験群と非体験群はともに、11月24日に「いじめを考える全校集会」およびその後の「学年討議集会」を経験している。「学年討議集会」は、学校生活を見つめ直し、お互いの信頼関係を再認識する内容であった。そのため、この時期は、いじめに対する意識や取り組みが高揚し、両群の学級満足尺度も向上するのが当然である。 しかしながら、以下の図1のグラフからもわかるように、内観の体験群の方が数値の向上が大きいことが伺える。 図 1 体験群と非体験群による平均点の変化の比較(学級満足度尺度)  これは「友達内観」の効果といえる。すなわち、生徒は内観を体験することで、自分を受け入れてくれている友達の存在を再認識し、自分が支えられて来たことを実感できたことにより、学級生活満足度の向上がより顕著になったものと考えられる。 (3) 自尊感情テスト  自尊感情の変化を見るため、内観を体験した生徒(体験群)に授業の前後に実施した。表4はその結果である。   表 4 自尊感情の合計点数の平均値とその変化  ┌──────┬────┬───┬────┬───┬──┬───┬────┐ │ 項目 │ 合計 │ 平均 │ 変化 │ S.D.│d.│ t値 │ p値 │ │ │ │ │ │ │f.│ │ │ ├──────┼────┼───┼────┼───┼──┼───┼────┤ │授業実施前 │ 1583 │42.78 │ │ 10.718│ │ │両側検定│ │授業実施後 │ 1649 │44.57 │ +1.79 │ 10.559│36│ 2.882│ 0.006** │ └──────┴────┴───┴────┴───┴──┴───┴────┘    **は統計的に意味のある変化である( +p < .10, *p < .05, **p < .01 )  内観の授業実施後の方が、自尊感情の平均点がかなり向上している。t検定による 統計的な処理からもその有意性が確認でき、友達に対する内観は生徒の自尊感情を高めるのにも効果があったといえる。生徒は内観を体験することで、自分を支えてくれる友達の存在に気付き、自信を取り戻す一方、「自分もその友達を支えてあげられる」という意識が芽生えたのではないかと考えられる。 (4) STAI@(状況不安尺度)テスト  状況不安の変化を見るため、自尊感情テストと同時に、内観を体験した生徒(体験群)に授業の前後に実施した。以下の表5は、合計点数の平均値の結果である。   表 5 STAI @ (状況不安尺度) 合計点数の平均値とその変化  ┌──────┬────┬───┬────┬───┬──┬───┬────┐ │ 項目 │ 合計 │ 平均 │ 変化 │ S.D. │d.│ t値 │ p値 │ │ │ │ │ │ │f.│ │ │ ├──────┼────┼───┼────┼───┼──┼───┼────┤ │授業実施前 │ 1668 │45.08 │ │10.892│ │ │ 両側  │ │授業実施後 │ 1548 │41.84 │−3.24 │10.451│36│2.797 │0.0082**│ └──────┴────┴───┴────┴───┴──┴───┴────┘    **は統計的に意味のある変化である( +p < .10, *p < .05, **p < .01)  内観の授業実施後、状態不安の平均点が3.24ポイントも減少した。t検定による統計的な処理の結果、この変化は有意な減少であることがわかった。  以上のことから、友達に対する内観は生徒の不安度を下げるのにも効果があったといえる。生徒は内観を体験することで、自分を支えてくれる友達の存在に気付き、学級に所属することへの安堵感を高めたのではないかと考えられる。 (5) 生徒の感想  内観を体験した生徒36名中、4名の生徒が記録用誌を空白で提出した。今回の授業は「友達に対する内観」であったが、「思い当たらない」という生徒もおり、「友達が思い当たらない時は、身近なお世話になった人でよい」と指示した。したがって、1名が自分の親について内観し、31名が友人に対して内観した。記録用誌に記入された生徒の感想を「肯定的な意見」と否定的な意見」に分類し、以下の表6の様にまとめた。  否定的な意見では、「友だちに何もしてもらっていない」「よく分からない」等のものが5件あった。しかしながら、ほとんどの生徒が肯定的な感想(38件)を持ち、特に、「してもらったことや、迷惑をかけたことはたくさんあるのに、自分がしたことはほとんどない」等の知的なものが多く見られた。 表 6 内観を体験した生徒の感想 ┌─┬────────────────────────────────────┐ │ │<情緒的> │ │ │・友だちにしてもらったことがたくさん思い出せてよかった (4) │ │ │・友だちにはかなり迷惑をかけてきたことに気付き、素直な気持ちになれた │ │ │・何か友だちに「ありがとう」という気持ちで一杯になった │ │ │・久しぶりに考えてみて何か心がなごんだ │ │ │・転校した友だけど、もう一度、思い出せてよかった │ │肯│ <知的> │ │定│・身近にいるため、あまり気付かずにいたけど、色々なことをされたり、したりして迷惑をか│ │的│ けながら生活していることがよく分かった。(7) │ │な│・してもらったことや、迷惑をかけたことはたくさん思い出せたのに、自分がしたことはあま│ │感│ り思い出せなかった(10) │ │想│・しっかり振り返ってみると、友だちのいろいろな良さが改めてわかった (4) │ │ │・もっと友だちを大切にしていきたいし、これからもずっといい友だちでいたい │ │ │・もっと友だちのことをしっかり考えて行動したい │ │ │・普通はあまり考えなかったけど、こうやってはじめて真剣に考えられた │ │ │・その人は自分にとってすごく大切な人だったんだなと改めて思った │ │ │・自分は豊かな生活をおくれているんだなと思った │ │ │・今、悩んでいる友だちがいるのに、相談にのるだけしかできない自分に苛立ちを 感じる│ │ │・してもらっているばかりで、あまり返せなかったので、これから今までの分、少しずつ返し│ │ │いけたらいいなと思った <保護者を内観した生徒> │ │ │ │ ├─┼────────────────────────────────────┤ │否│<知的> │ │定│・なんか目的があまりよく分からない授業だった │ │的│・英語の授業がなくなって惜しいと思った │ │な│・友だちについてだったが、友だちには何もしてもらってないので、あまり書くことがなかっ│ │感│ た。 (3) │ │想│ │ └─┴────────────────────────────────────┘  わずか1時間の授業であったが、これらの意見に代表されるように、生徒の気持ちを落ち着かせ、生徒を素直な気持ちにさせ、友達への感謝の気持ちを再認識させるなど、学級の人間関係をプラスのイメージに改善する上で、多大な効果があったと考えられる。 6 終わりに    3年前、本校で緊急課題となって始まった「いじめを考える全校集会」は、回を重ねるごとに内容が充実し、いじめを抑制するものとなって機能してきたといえる。3回目の集会を体験した3年生徒の89%が「絶対になくさなければならない」と答えているように、生徒に「いじめがいけないこと」として理解させることができたといえる。しかしながら、「いじめを考える集会」の時期に著しい減少があるものの、潜在的ないじめの芽までもを根絶できているとはいえない。いじめ根絶のためには、生徒の心に深く浸透し、生徒の人間関係をプラスのイメージに改善できる体験的活動が必要である。その手だてを「友達内観」に見いだし、友達に対する自分の姿を深く見つめさせたわけであるが、標準化された心理テストの結果の示す通り、友達への内観を体験することで、「友達への感謝の気持ち」が生じ、友達や自分の見方が変化し、さらに、「仲間同士の信頼を深め」、人間関係をより良くすることができたといえる。  「してもらったこと」「してあげたこと」「迷惑をかけたこと」の三点から過去の自 分を振り返ることで、素直な自分と出会える「内観」は、まさに「愛の奇跡」であると いえよう。「心の授業」として、是非とも教育現場で取り入れ、活用したいエクササイ ズである。 参考文献 ・池島徳大 1997 「クラス担任によるいじめ解決への教育的支援」 日本教育新聞社 ・金井肇、七條正典、津田知充共編 1998      「いじめを防ぐ道徳授業へのシナリオ :中学校編」 明治図書 ・河村茂雄 1998 pp.71-77 國分康孝監修 「崩壊しない学級経営をめざして」学事出版 ・國分康孝 1996 「エンカウンターで学級が変わる中学校編:パート1」 国書文化 ・國分康孝 1997 「エンカウンターで学級が変わる中学校編:パート2」 国書文化 ・毎日新聞社会部 1995 「いじめ事件」 毎日新聞社 ・尾木直樹 1997 「いじめ防止実践プログラム」 学陽書房 ・岡林春雄 1997 「心理教育」 金子書房 ・斉藤次郎 1996 「いじめと中学生」 明石書店 ・酒井 徹 1997 「いじめ克服の日常プログラム」 学事出版  ・関  功 1996 「NHK中学生日記:いじめ届かぬSOS」 海風書房 ・台 利夫 1995 「臨床心理劇入門」 ブレーン出版 資料1 「いじめを考える全校集会」実施計画(1998年) ┌──────────────────────────────────────┐ │                              特別活動指導部 │ │  1、日時 平成10年11月18日  5、6校時 │ │  2、隊形 │ │     ・コの字型で、中央部でクラス代表によるパネルディスカッション。 │ │     ・劇は体育館のステージでする。 │ │  3、ねらい │ │     ・「いじめは許されない」ことを認識させる。 │ │     ・自分たちの学校にいじめがあることに気付き、それを全員の手で解決し │ │      ようとする気持ちを育てる。 │ │     ・この集会をスタートに、自分たちの今の生活を考え、見つめ直す。 │ │  4、全校集会の内容について  (司会 生徒会監査) │ │     @はじめのことば   福祉部長から[5分] │ │      ・集会の目的 │ │      ・アンケート1の報告   → いじめがあることを気付かせる。 │ │      ・いじめを受けた人の気持ちの紹介 │ │       ※3年生のある生徒の作文を教師が朗読、「こんな気持ちで、生活し │ │        ている人がいる」ということを知らせる。 │ │     A生徒会役員によるいじめの劇・討論会 │ │       ※劇→全校生による判断→クラス代表による討論会 [15分×3] │ │      <場面1> │ │      ・劇・・・・なにげない日常会話 │ │      ・討論・・・いじめの定義 │ │        いじめであるかどうかの討議から、とんなものをいじめというのか │ │       を考えさせる。自分の判断だけではなく、相手の受けとめ方によって │ │       違うことも考えさせたい。 │ │      <場面2> │ │      ・劇・・・・本人に問題があって、周りから非難される。 │ │      ・討論・・・でも、いじめは許されないことである。 │ │        いじめられる側にも問題があるのかどうかの討議から、本人が悪く │ │       ても、いじめは許されないことであるということを確認する。いじめ │ │       という行為自体が、人間として認められないことである考えさせたい。│ │      <場面3> │ │      ・劇・・・・あきらかないじめを通して │ │      ・討論・・・いじめる人の心理といじめがない、そして防ぐためには。 │ │        どんなときにいじめは起きるのか、いじめる側の立場に立って考え │ │       させたい。どんな生活のときに、どんな心理状態の時にいじめは起き │ │       るのか、また、自分のなかにルールがあるのか等を考えさせたうえで、│ │       いじめを防ぐためには、傍観者的立場に立たないだけではなく、今の │ │       生活を見つめ直す必要があることを考えさせたい。 │ │     B保護者の立場から [10分] │ │      ・親としていじめについて思うこと  ・集会の感想等 │ │     C兵庫教育大学 富永先生から  [15分] │ │      ・集会の感想、いじめについてのまとめの話 │ │     D校長先生から  [5分] │ │     E終わりのことば  生徒会本部 [5分] │ │      ・集会の総括    ・アンケート2、3の報告 │ │      ・今後の自分達の生活、学校生活への思い │ │  5、その他 │ │   ・クラス代表生への指導--------11月13日 、16日の放課後、生徒会室 │ │ ・保護者へ全校集会参観の案内---------11月13日 │ │ ・劇指導(本部役員)----------11月11日から毎日、生徒会室 │ │ ・アンケート結果、劇のシナリオ、クラス代表の生徒一覧は別紙で配布 │ │ ・討論会の司会の担当(○○先生) │ │   ・当日の会場準備 │ │     生徒席、保護者席、受付、マイクの準備、記録、照明、 │ │   ・集会後の指導→各学年で計画。 │ │   ・日常生活の見直し │ └──────────────────────────────────────┘ 資料2 1999年「いじめを考える全校集会」の劇のシナリオ     ※あらかじめ場面と状況を設定し、台詞は演技する生徒がその場に合わせて言う     ようになっている。 ┌──────────────────────────────────────┐ │ *配役:18名 │ │   ・男子Aグループ(5人:1班)----- しんご、まさき、つよし(主人公)、 │ │                     たけし、ひでお │ │   ・男子Bグループ(4人:2班)----- かずや、やすお、たかき、あきら │ │   ・女子グループ (4人:3班)----- みほ、ゆみ、よう子、かよ │ │ ・父親役(1人)  ・母親役(1人) 教師役(1人) │ │   ・ナレーター(2人) │ │ *舞台背景(美術部) *照明・音響(教師) *演技指導(生徒会担当) │ │ 場面 @ 〜班などを決める〜 │ │  *新学期の始業式の朝、2年生のある教室。新しいクラスに入ってくる様子。それぞれに│ │   グループを作ろうとする様子が少しずつ出始める。 │ │ @クラス替えで、生徒それぞれが新しい教室に入ってくる。 │ │  A前の同じクラス同士や知り合い同士で、会話を弾ませる。 │ │ B男子のグループと女子のグループがそれぞれできつつある。 │ │ C男子Aグループの『しんご・まさき・たけし』の会話が聞こえてくる。 │ │   「前の3年生が卒業してよかった。これでいじめられなくてすむよな。」 │ │  D『たけし・まさき』は昨年まで上級生の「パシリ」にされていた。 │ │ 場面 A 〜班などを決める〜 │ │  *学級活動の時間。仲の良いもの同士で、班を決めようとする。グループに属さないと、│ │   孤独になってしまうのではという不安が漂う。 │ │ @新しい生活班を結成しようとしている。 │ │ A評議員のことばで、それぞれが勝手にグループを組もうとする。 │ │ B徐々に班のメンバーが決まる中で、『つよし』は誘われるままに1班に入る。 │ │ C誰もが自分の班の事だけを考えている。 │ │  ・A(上下関係)、B(平等)、C(仲良し)のグループに分かれる。 │ │ D孤立している者がいるかいないか、誰がどのグループなのかは、「お互いに関係なし」の│ │   ムードである。 │ │ E班が決定する(ABCがそれぞれの班へ)。 │ │ F『しんご』の提案で、そうじもこのグループですることになる。 │ │ 場面 B 〜休み時間と掃除の時間〜 │ │  *休み時間プロレスごっこをしている。他のグループは、無関心で話に夢中。 │ │ @男子も女子もグループで遊んでいる。 │ │ AAグループは『つよし』を相手にプロレスごっこ。 │ │ BBグループは、テレビや勉強のことで盛り上がっている。 │ │ C女子グループは、うわさばなしや恋ばなしで盛り上がっている。 │ │ Dお互いのグループの行動は、無関心である。 │ │ *掃除の時間、掃除しないで遊んでいる。一生懸命に学校生活をしない学級の雰囲気。│ │ @Aと女子グループは教室掃除、Bグループは廊下掃除。 │ │ AAグループは、あい変らずプロレスごっこをしている。 │ │ ・『つよし』は、気が弱く頼まれると嫌とはいえない性格である。 │ │ ・『しんご』を中心とするBグループは、『つよし』を相手にプロレスをしていた。│ │ ・周囲から見ると仲良く遊んでいるように見える。 │ │ BBグループも女子グループも清掃もしないで遊んでいる。 │ │ ・周囲のことには、まったく無関心で、隣で起こっていることさえも知ろうとも思わな│ │    い。 │ │ Cだれも掃除を一生懸命しようとしない。 │ │ 場面 C 〜放課後〜 │ │ *放課後の教室。「社長、専務、部長、平、パシリ」の階級をグループの中で決める。│ │   『つよし』は「パシリ」と呼ばれ、使い走りにされる。 │ │ @『つよし』を含む5人のAグループは、『しんご』の提案で会社ごっこを始めた。 │ │  ・『しんご』はもちろん社長、『まさき』が専務、『たけし』は部長、4人の中では弱い立│ │ 場の『ひでお』は平、『つよし』はパシリとなる。 │ │  ・『しんご』『つよし』以外の階級は、日によって入れ替わりお互い上下関係を意識し互│ │    いに競争心を持っていた。 │ │  ・役割が決まり、それぞれの上司から命令が下へ伝わってくる。上司の命令は絶対であ│ │    り、もし逆らうと罰(暴力など)ゲームがある。 │ │ A他のグループは、上下関係がいやでみんな平等を装っている。 │ │ BAグループの中で、上下関係が確立できている。 │ │ C『つよし』がグループ内で、「パシリ」にされていることを他の班の者も知っているが、│ │   興味がないため無関心である。 │ │ 場面 D 〜放課後〜 │ │ *ゲームセンターへ行き、持っているお金を使い切った仲間から、お金を要求されていく│ │   事になり、次第にエスカレートしていく。 │ │ @用事でグループから離れて先に家に帰っていた『つよし』の家に『ひでお』から呼び出│ │   しの電話がかかる。 │ │ A待ち合わせの場所へ行くと『ひでお』を含むAグループの4人が待っている。 │ │ B『しんご』の一言でゲームセンターへ行くことになる。 │ │ Cお菓子やジュースを『つよし』に要求する。 │ │ D4人は、それぞれにゲームを楽しむが自分のお金が尽きると、『つよし』にお金をせびり、│ │ 階級ゲームの続きをしている。 │ │ E『つよし』は、あげるのではなく貸すということで、たまたま持ち合わせたお金を『し│ │   んご』に渡す。 │ │ F『しんご』は当たり前のように『つよし』からお金をとりあげる。 │ │ Gそのお金がつきるとまた、『つよし』にお金を用意するように命令する。 │ │ H『つよし』が少しでも渋る顔を見せるとおどしがはいる。 │ │ I『つよし』の家は、その場所から走って30分ほどかかるが、逆らえず渋々命令に従い│ │   家にお金をとりに帰る。 │ │ J『つよし』は、自分のお小遣いを持っていくものの、持って来金額が少なく暴力を振る│ │   われるが、今回はこれでおさまる。 │ │  Kこの遊びは、その日を境に徐々にエスカレートしていく。 │ │ 場面 E 〜教室〜 │ │  *わざと暴れるように命令され教師に注意され、問題児に見られる。  │ │ @休み時間に、4人から「先生にやじをとばすように」と命令される。断ることもできず、│ │   『ひでお』の合図で教師にやじをとばす。 │ │ A教師は、『つよし』に対して注意しようとする。 │ │ B『つよし』は、机をたたく。 │ │ C次の日、休み時間に4人から昨日と同じように、授業の邪魔をするように言われる。│ │ D「昨日よりも派手にしろ」という命令が『しんご』よりでる。 │ │ E『ひでお』の合図で教師の授業をやじる。 │ │ F教師が、『つよし』に注意をする。『つよし』は机をけり教室を飛び出そうとするが、A│ │   グループの4人は止めにはいるふりをする。 │ │ G『ひでお』は気を落ち着けるようにして席にもどる。 │ │ H担任の教師から呼び出しを受ける。 │ │ 場面 F 〜抵抗〜 │ │  *ことあるごとにお金の要求され、ついに拒否する。それを理由に、小川に落とされ、溺│ │   れさせられる。 │ │ @『ひでお』から『つよし』へ呼び出しを受けるようになる。 │ │ Aお金のやりとりが賃貸ではなく、暴力に裏付けられた強制になる。 │ │ B度重なる要求で、自分の小遣いでは間にあわなくなり、家族の財布からもくすねるよう│ │   になってしまう。 │ │ C母からお金について聞かれるが、理由をつけて逃げようとする。(母の目を見ることがで│ │   きない。) │ │ D度重なる家での不審な行動に父親が問いつめ、家のお金持ち出していることを話すが、「も│ │   うしない」の言葉で、その場は終わる。 │ │ EB・C・Dのことが頭をよぎる。また、勇気をだして要求を拒否する。 │ │ F4人は、それに対してさらにエスカレートした罰(暴力)をあたえる。 │ │ G抵抗すればするほど、仕打ちや暴力が大きくなることを思いしらされる。 │ │ Hこのままではと思いつつ、相談する相手もなく、従う日々がつづく。 │ │ Iクラスメイトが、その現場に居合わせても、見ないようにして通りすぎる。 │ │ 場面 G 〜休み時間〜 │ │  *お金を要求され、エスカレートする。まわりの者もその話を聞くが、金額が大きいので│ │    冗談と思い過ごす。また、自分たちには関係ないことと思っている。 │ │ @『つよし』を取り囲むように4人は、お金を要求する。 │ │ Aお金の金額は、今までにない額のため顔を曇らせるが拒否できない。 │ │ Bまわりのものは、5人の会話が聞こえ反応しているが聞き流し、知らぬふりをする。│ │ Cクラスメイトのほとんどが5人の関係を知っているが、自分たちには関係ないこと│ │   のように振舞っている。 │ │場面H 〜家庭〜 │ │ *家で、母にお金を持ち出すところを見つかり問いつめられる。いじめについては │ │   否定し、隠し通そうとする。 │ │ @あまりに額が大きいため思案するが、約束の時間が迫っているため親の財布からお │ │ 金を抜き取ろうとする。 │ │ A抜き取ろうとしたところを母親にみつかり問い詰められる。 │ │ B「何に使うのや」、「どこへ持っていくのや」、「あんた、いじめられているのんか」 │ │ と母親に問われる。 │ │ C母親に今度もし同じようなことをしたら、「施設に入れる」といわれる。 │ │ D『つよし』は心の中でそれの方がいいと思う。 │ │ E4人の仕打ちを恐れるあまり理由を強引に隠そうとする。 │ │ F親の腕を振り解くように外に出て行く。 │ │場面I 遺書の朗読 │ │   *ナレータによる遺書の朗読 │ │ ・ますますエスカレートするいじめに対し耐えられない苦しみ。 │ │ ・もっと生きたいという思いと家族への謝罪の遺書を残して、自分の命を絶つ。 │ └──────────────────────────────────────┘



学級生活満度尺度の平均得点は、内観体験群は1.72ポイントの向上、一方、非体験群は0.97ポイントの向上となり、両群ともに向上していることが伺えるが、t検定による統計的な処理によって、内観の体験群に変化の有意性が認められる。
 前述したように、内観体験群と非体験群はともに、11月24日に「いじめを考える全校集会」およびその後の「学年討議集会」を経験している。「学年討議集会」は、学校生活を見つめ直し、お互いの信頼関係を再認識する内容であった。そのため、この時期は、いじめに対する意識や取り組みが高揚し、両群の学級満足尺度も向上するのが当然である。
しかしながら、以下の図1のグラフからもわかるように、内観の体験群の方が数値の向上が大きいことが伺える。
p92.gif (4754 バイト)
図 1 体験群と非体験群による平均点の変化の比較(学級満足度尺度)

 これは「友達内観」の効果といえる。すなわち、生徒は内観を体験することで、自分を受け入れてくれている友達の存在を再認識し、自分が支えられて来たことを実感できたことにより、学級生活満足度の向上がより顕著になったものと考えられる。

(3) 自尊感情テスト
 自尊感情の変化を見るため、内観を体験した生徒(体験群)に授業の前後に実施した。表4はその結果である。
  表4 自尊感情の合計点数の平均値とその変化 

項目 合計 平均 変化 S.D d.f. t値 p値
授業実施前
授業実施後
1583
1649
42.78
44.57

+1.79
10.718
10.559

36

2.882
両側検定
0.006**

   **は統計的に意味のある変化である( +p < .10, *p < .05, **p < .01 )

 内観の授業実施後の方が、自尊感情の平均点がかなり向上している。t検定による 統計的な処理からもその有意性が確認でき、友達に対する内観は生徒の自尊感情を高めるのにも効果があったといえる。生徒は内観を体験することで、自分を支えてくれる友達の存在に気付き、自信を取り戻す一方、「自分もその友達を支えてあげられる」という意識が芽生えたのではないかと考えられる。

(4) STAI@(状況不安尺度)テスト
 状況不安の変化を見るため、自尊感情テストと同時に、内観を体験した生徒(体験群)に授業の前後に実施した。以下の表5は、合計点数の平均値の結果である。

  表5 STAI @ (状況不安尺度) 合計点数の平均値とその変化 

項目 合計 平均 変化 S.D d.f. t値 p値
授業実施前
授業実施後
1668
1548
45.08
41.84

-3.24
10.892
10.451

36

2.797
両側検定
0.0082**

  **は統計的に意味のある変化である( +p < .10, *p < .05, **p < .01)

 内観の授業実施後、状態不安の平均点が3.24ポイントも減少した。t検定による統計的な処理の結果、この変化は有意な減少であることがわかった。
 以上のことから、友達に対する内観は生徒の不安度を下げるのにも効果があったといえる。生徒は内観を体験することで、自分を支えてくれる友達の存在に気付き、学級に所属することへの安堵感を高めたのではないかと考えられる。

(5) 生徒の感想
 内観を体験した生徒36名中、4名の生徒が記録用誌を空白で提出した。今回の授業は「友達に対する内観」であったが、「思い当たらない」という生徒もおり、「友達が思い当たらない時は、身近なお世話になった人でよい」と指示した。したがって、1名が自分の親について内観し、31名が友人に対して内観した。記録用誌に記入された生徒の感想を「肯定的な意見」と否定的な意見」に分類し、以下の表6の様にまとめた。
 否定的な意見では、「友だちに何もしてもらっていない」「よく分からない」等のものが5件あった。しかしながら、ほとんどの生徒が肯定的な感想(38件)を持ち、特に、「してもらったことや、迷惑をかけたことはたくさんあるのに、自分がしたことはほとんどない」等の知的なものが多く見られた。

表6 内観を体験した生徒の感想

肯定的な感想
<情緒的>
・友だちにしてもらったことがたくさん思い出せてよかった (4)
・友だちにはかなり迷惑をかけてきたことに気付き、素直な気持ちになれた
・何か友だちに「ありがとう」という気持ちで一杯になった
・久しぶりに考えてみて何か心がなごんだ
・転校した友だけど、もう一度、思い出せてよかった
<知的>
・身近にいるため、あまり気付かずにいたけど、色々なことをされたり、したりして迷惑をかけながら生活していることがよく分かった。(7)
・してもらったことや、迷惑をかけたことはたくさん思い出せたのに、自分がしたことはあまり思い出せなかった(10)
・しっかり振り返ってみると、友だちのいろいろな良さが改めてわかった (4)
・もっと友だちを大切にしていきたいし、これからもずっといい友だちでいたい
・もっと友だちのことをしっかり考えて行動したい
・普通はあまり考えなかったけど、こうやってはじめて真剣に考えられた
・その人は自分にとってすごく大切な人だったんだなと改めて思った
・自分は豊かな生活をおくれているんだなと思った
・今、悩んでいる友だちがいるのに、相談にのるだけしかできない自分に苛立ちを 感じる
・してもらっているばかりで、あまり返せなかったので、これから今までの分、少しずつ返していけたらいいなと思った <保護者を内観した生徒>
否定的な感想 <知的>
・なんか目的があまりよく分からない授業だった
・英語の授業がなくなって惜しいと思った
・友だちについてだったが、友だちには何もしてもらってないので、あまり書くことがなかった。 (3)

 わずか1時間の授業であったが、これらの意見に代表されるように、生徒の気持ちを落ち着かせ、生徒を素直な気持ちにさせ、友達への感謝の気持ちを再認識させるなど、学級の人間関係をプラスのイメージに改善する上で、多大な効果があったと考えられる。

6 終わりに
 
 3年前、本校で緊急課題となって始まった「いじめを考える全校集会」は、回を重ねるごとに内容が充実し、いじめを抑制するものとなって機能してきたといえる。3回目の集会を体験した3年生徒の89%が「絶対になくさなければならない」と答えているように、生徒に「いじめがいけないこと」として理解させることができたといえる。しかしながら、「いじめを考える集会」の時期に著しい減少があるものの、潜在的ないじめの芽までもを根絶できているとはいえない。いじめ根絶のためには、生徒の心に深く浸透し、生徒の人間関係をプラスのイメージに改善できる体験的活動が必要である。その手だてを「友達内観」に見いだし、友達に対する自分の姿を深く見つめさせたわけであるが、標準化された心理テストの結果の示す通り、友達への内観を体験することで、「友達への感謝の気持ち」が生じ、友達や自分の見方が変化し、さらに、「仲間同士の信頼を深め」、人間関係をより良くすることができたといえる。
 「してもらったこと」「してあげたこと」「迷惑をかけたこと」の三点から過去の自分を振り返ることで、素直な自分と出会える「内観」は、まさに「愛の奇跡」であると いえよう。「心の授業」として、是非とも教育現場で取り入れ、活用したいエクササイ ズである。


参考文献
・池島徳大 1997 「クラス担任によるいじめ解決への教育的支援」 日本教育新聞社
・金井肇、七條正典、津田知充共編 1998
     「いじめを防ぐ道徳授業へのシナリオ :中学校編」 明治図書
・河村茂雄 1998 pp.71-77 國分康孝監修 「崩壊しない学級経営をめざして」学事出版
・國分康孝 1996 「エンカウンターで学級が変わる中学校編:パート1」 国書文化
・國分康孝 1997 「エンカウンターで学級が変わる中学校編:パート2」 国書文化
・毎日新聞社会部 1995 「いじめ事件」 毎日新聞社
・尾木直樹 1997 「いじめ防止実践プログラム」 学陽書房
・岡林春雄 1997 「心理教育」 金子書房
・斉藤次郎 1996 「いじめと中学生」 明石書店
・酒井 徹 1997 「いじめ克服の日常プログラム」 学事出版 
・関  功 1996 「NHK中学生日記:いじめ届かぬSOS」 海風書房
・台 利夫 1995 「臨床心理劇入門」 ブレーン出版

資料1 「いじめを考える全校集会」実施計画(1998年)
┌──────────────────────────────────────┐
│                              特別活動指導部
│  1、日時 平成10年11月18日  5、6校時
│  2、隊形 │
│     ・コの字型で、中央部でクラス代表によるパネルディスカッション。
│     ・劇は体育館のステージでする。
│     ・「いじめは許されない」ことを認識させる。
│     ・自分たちの学校にいじめがあることに気付き、それを全員の手で解決し
│      ようとする気持ちを育てる。 │
│     ・この集会をスタートに、自分たちの今の生活を考え、見つめ直す。
│  4、全校集会の内容について  (司会 生徒会監査)
│     @はじめのことば   福祉部長から[5分]
│      ・集会の目的
│      ・アンケート1の報告   → いじめがあることを気付かせる。
│      ・いじめを受けた人の気持ちの紹介
│       ※3年生のある生徒の作文を教師が朗読、「こんな気持ちで、生活し
│        ている人がいる」ということを知らせる。
│     A生徒会役員によるいじめの劇・討論会
│       ※劇→全校生による判断→クラス代表による討論会 [15分×3]
│      <場面1>
│      ・劇・・・・なにげない日常会話
│      ・討論・・・いじめの定義
│        いじめであるかどうかの討議から、とんなものをいじめというのか
│       を考えさせる。自分の判断だけではなく、相手の受けとめ方によって
│       違うことも考えさせたい。
│      <場面2> │
│      ・劇・・・・本人に問題があって、周りから非難される。
│      ・討論・・・でも、いじめは許されないことである。
│        いじめられる側にも問題があるのかどうかの討議から、本人が悪く
│       ても、いじめは許されないことであるということを確認する。いじめ
│       という行為自体が、人間として認められないことである考えさせたい。
│      <場面3>
│      ・劇・・・・あきらかないじめを通して
│      ・討論・・・いじめる人の心理といじめがない、そして防ぐためには。
│        どんなときにいじめは起きるのか、いじめる側の立場に立って考え
│       させたい。どんな生活のときに、どんな心理状態の時にいじめは起き
│       るのか、また、自分のなかにルールがあるのか等を考えさせたうえで、
│       いじめを防ぐためには、傍観者的立場に立たないだけではなく、今の
│       生活を見つめ直す必要があることを考えさせたい。
│     B保護者の立場から [10分]
│      ・親としていじめについて思うこと  ・集会の感想等
│     C兵庫教育大学 富永先生から  [15分]
│      ・集会の感想、いじめについてのまとめの話
│     D校長先生から  [5分]
│     E終わりのことば  生徒会本部 [5分]
│      ・集会の総括    ・アンケート2、3の報告
│      ・今後の自分達の生活、学校生活への思い
│  5、その他
│   ・クラス代表生への指導--------11月13日 、16日の放課後、生徒会室
│ ・保護者へ全校集会参観の案内---------11月13日
│ ・劇指導(本部役員)----------11月11日から毎日、生徒会室
│ ・アンケート結果、劇のシナリオ、クラス代表の生徒一覧は別紙で配布
│ ・討論会の司会の担当(○○先生)
│   ・当日の会場準備
│     生徒席、保護者席、受付、マイクの準備、記録、照明、
│   ・集会後の指導→各学年で計画。
│   ・日常生活の見直し
└──────────────────────────────────────┘

資料2 1999年「いじめを考える全校集会」の劇のシナリオ
    ※あらかじめ場面と状況を設定し、台詞は演技する生徒がその場に合わせて言うようになっている。
┌──────────────────────────────────────┐
│ *配役:18名
│   ・男子Aグループ(5人:1班)----- しんご、まさき、つよし(主人公)、
│                     たけし、ひでお
│   ・男子Bグループ(4人:2班)----- かずや、やすお、たかき、あきら
│   ・女子グループ (4人:3班)----- みほ、ゆみ、よう子、かよ
│ ・父親役(1人)  ・母親役(1人) 教師役(1人)
│   ・ナレーター(2人)
│ *舞台背景(美術部) *照明・音響(教師) *演技指導(生徒会担当)
│ 場面 @ 〜班などを決める〜
│  *新学期の始業式の朝、2年生のある教室。新しいクラスに入ってくる様子。それぞれに
│   グループを作ろうとする様子が少しずつ出始める。
│ @クラス替えで、生徒それぞれが新しい教室に入ってくる。
│  A前の同じクラス同士や知り合い同士で、会話を弾ませる。
│ B男子のグループと女子のグループがそれぞれできつつある。
│ C男子Aグループの『しんご・まさき・たけし』の会話が聞こえてくる。
│   「前の3年生が卒業してよかった。これでいじめられなくてすむよな。」
│  D『たけし・まさき』は昨年まで上級生の「パシリ」にされていた。
│ 場面 A 〜班などを決める〜
│  *学級活動の時間。仲の良いもの同士で、班を決めようとする。グループに属さないと、
│   孤独になってしまうのではという不安が漂う。
│ @新しい生活班を結成しようとしている。
│ A評議員のことばで、それぞれが勝手にグループを組もうとする。
│ B徐々に班のメンバーが決まる中で、『つよし』は誘われるままに1班に入る。
│ C誰もが自分の班の事だけを考えている。
│  ・A(上下関係)、B(平等)、C(仲良し)のグループに分かれる。
│ D孤立している者がいるかいないか、誰がどのグループなのかは、「お互いに関係なし」の
│   ムードである。
│ E班が決定する(ABCがそれぞれの班へ)。
│ F『しんご』の提案で、そうじもこのグループですることになる。
│ 場面 B 〜休み時間と掃除の時間〜
│  *休み時間プロレスごっこをしている。他のグループは、無関心で話に夢中。
│ @男子も女子もグループで遊んでいる。
│ AAグループは『つよし』を相手にプロレスごっこ。
│ BBグループは、テレビや勉強のことで盛り上がっている。
│ C女子グループは、うわさばなしや恋ばなしで盛り上がっている。
│ Dお互いのグループの行動は、無関心である。
│ *掃除の時間、掃除しないで遊んでいる。一生懸命に学校生活をしない学級の雰囲気。
│ @Aと女子グループは教室掃除、Bグループは廊下掃除。
│ AAグループは、あい変らずプロレスごっこをしている。
│ ・『つよし』は、気が弱く頼まれると嫌とはいえない性格である。
│ ・『しんご』を中心とするBグループは、『つよし』を相手にプロレスをしていた。
│ ・周囲から見ると仲良く遊んでいるように見える。
│ BBグループも女子グループも清掃もしないで遊んでいる。
│ ・周囲のことには、まったく無関心で、隣で起こっていることさえも知ろうとも思わな
│    い。
│ Cだれも掃除を一生懸命しようとしない。
│ 場面 C 〜放課後〜
│ *放課後の教室。「社長、専務、部長、平、パシリ」の階級をグループの中で決める。
│   『つよし』は「パシリ」と呼ばれ、使い走りにされる。
│ @『つよし』を含む5人のAグループは、『しんご』の提案で会社ごっこを始めた。
│  ・『しんご』はもちろん社長、『まさき』が専務、『たけし』は部長、4人の中では弱い立
│ 場の『ひでお』は平、『つよし』はパシリとなる。
│  ・『しんご』『つよし』以外の階級は、日によって入れ替わりお互い上下関係を意識し互
│    いに競争心を持っていた。
│  ・役割が決まり、それぞれの上司から命令が下へ伝わってくる。上司の命令は絶対であ
│    り、もし逆らうと罰(暴力など)ゲームがある。
│ A他のグループは、上下関係がいやでみんな平等を装っている。
│ BAグループの中で、上下関係が確立できている。
│ C『つよし』がグループ内で、「パシリ」にされていることを他の班の者も知っているが、
│   興味がないため無関心である。
│ 場面 D 〜放課後〜
│ *ゲームセンターへ行き、持っているお金を使い切った仲間から、お金を要求されていく
│   事になり、次第にエスカレートしていく。
│ @用事でグループから離れて先に家に帰っていた『つよし』の家に『ひでお』から呼び出
│   しの電話がかかる。
│ A待ち合わせの場所へ行くと『ひでお』を含むAグループの4人が待っている。
│ B『しんご』の一言でゲームセンターへ行くことになる。
│ Cお菓子やジュースを『つよし』に要求する。
│ D4人は、それぞれにゲームを楽しむが自分のお金が尽きると、『つよし』にお金をせびり、
│ 階級ゲームの続きをしている。 │
│ E『つよし』は、あげるのではなく貸すということで、たまたま持ち合わせたお金を『し│
│   んご』に渡す。
│ F『しんご』は当たり前のように『つよし』からお金をとりあげる。
│ Gそのお金がつきるとまた、『つよし』にお金を用意するように命令する。
│ H『つよし』が少しでも渋る顔を見せるとおどしがはいる。
│ I『つよし』の家は、その場所から走って30分ほどかかるが、逆らえず渋々命令に従い
│   家にお金をとりに帰る。
│ J『つよし』は、自分のお小遣いを持っていくものの、持って来金額が少なく暴力を振る
│   われるが、今回はこれでおさまる。
│  Kこの遊びは、その日を境に徐々にエスカレートしていく。
│ 場面 E 〜教室〜
│  *わざと暴れるように命令され教師に注意され、問題児に見られる。
│ @休み時間に、4人から「先生にやじをとばすように」と命令される。断ることもできず、
│   『ひでお』の合図で教師にやじをとばす。
│ A教師は、『つよし』に対して注意しようとする。
│ B『つよし』は、机をたたく。
│ C次の日、休み時間に4人から昨日と同じように、授業の邪魔をするように言われる。
│ D「昨日よりも派手にしろ」という命令が『しんご』よりでる。
│ E『ひでお』の合図で教師の授業をやじる。
│ F教師が、『つよし』に注意をする。『つよし』は机をけり教室を飛び出そうとするが、A
│   グループの4人は止めにはいるふりをする。
│ G『ひでお』は気を落ち着けるようにして席にもどる。
│ H担任の教師から呼び出しを受ける。
│ 場面 F 〜抵抗〜
│  *ことあるごとにお金の要求され、ついに拒否する。それを理由に、小川に落とされ、溺
│   れさせられる。
│ @『ひでお』から『つよし』へ呼び出しを受けるようになる。
│ Aお金のやりとりが賃貸ではなく、暴力に裏付けられた強制になる。
│ B度重なる要求で、自分の小遣いでは間にあわなくなり、家族の財布からもくすねるよう
│   になってしまう。
│ C母からお金について聞かれるが、理由をつけて逃げようとする。(母の目を見ることがで
│   きない。)
│ D度重なる家での不審な行動に父親が問いつめ、家のお金持ち出していることを話すが、「も
│   うしない」の言葉で、その場は終わる。
│ EB・C・Dのことが頭をよぎる。また、勇気をだして要求を拒否する。
│ F4人は、それに対してさらにエスカレートした罰(暴力)をあたえる。
│ G抵抗すればするほど、仕打ちや暴力が大きくなることを思いしらされる。
│ Hこのままではと思いつつ、相談する相手もなく、従う日々がつづく。
│ Iクラスメイトが、その現場に居合わせても、見ないようにして通りすぎる。
│ 場面 G 〜休み時間〜
│  *お金を要求され、エスカレートする。まわりの者もその話を聞くが、金額が大きいので
│    冗談と思い過ごす。また、自分たちには関係ないことと思っている。
│ @『つよし』を取り囲むように4人は、お金を要求する。
│ Aお金の金額は、今までにない額のため顔を曇らせるが拒否できない。
│ Bまわりのものは、5人の会話が聞こえ反応しているが聞き流し、知らぬふりをする。
│ Cクラスメイトのほとんどが5人の関係を知っているが、自分たちには関係ないこと
│   のように振舞っている。
│場面H 〜家庭〜 │
│ *家で、母にお金を持ち出すところを見つかり問いつめられる。いじめについては
│   否定し、隠し通そうとする。
│ @あまりに額が大きいため思案するが、約束の時間が迫っているため親の財布からお
│ 金を抜き取ろうとする。
│ A抜き取ろうとしたところを母親にみつかり問い詰められる。
│ B「何に使うのや」、「どこへ持っていくのや」、「あんた、いじめられているのんか」
│ と母親に問われる。
│ C母親に今度もし同じようなことをしたら、「施設に入れる」といわれる。
│ D『つよし』は心の中でそれの方がいいと思う。
│ E4人の仕打ちを恐れるあまり理由を強引に隠そうとする。
│ F親の腕を振り解くように外に出て行く。
│場面I 遺書の朗読
│   *ナレータによる遺書の朗読
│ ・ますますエスカレートするいじめに対し耐えられない苦しみ。
│ ・もっと生きたいという思いと家族への謝罪の遺書を残して、自分の命を絶つ。
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