V 「心身を休ませるストレスマネジメント教育とその効果について」 −児童一人ひとりが自らのストレスをコントロールし、心身の安定を図ることで所属する集団・社会への適応感を高める−
                                         福崎町立福崎小学校 山田良一


要約

小学生にストレスに対する意識調査を行ったところ、非常に高いストレスの実態があることが明らかになった。そこで、心身を休ませる教育動作法による体験を通し、身体的情緒的な変化を検証した。また、神崎郡内小学3年生から6年生までの165名を対象に、放課後、教室内で自由に休むフリー・リラクセイション法を実践し、心身の変化を検討した。フリー・リラクセイション法は、1回10分程度を週二回から三回行い、肯定的な自己イメージのメッセージも同時に送った。その結果、疲労感や倦怠感といった身体的な不快感が軽減し、いらつきや衝動的な感情が抑えられた。さらに、落ち着いて問題に対処できるようになり、課題に意欲的に取り組もうとする姿勢や自分ならできると信じる自己効力感が高まることが認められた。

1.はじめに
 近年、子どもたちの現状を見ると、非常にストレスの高い中で生活している。1998年6月5日の国連子どもの権利委員会においても、日本政府に対し「極度に競争的な教育制度によるストレスのため、子どもが発達上の障害にさらされていること、および、教育制度が極度に競争的である結果、余暇、スポーツ活動および休息が欠如していることを懸念する」として、その改善勧告がおこなわれた。日本の子どもたちは「がんばること」を期待することの多い社会環境に囲まれている。山中(1997)は「がんばること」と「やすむ」ことは、表裏一体であり、休むことの大切さを教育する必要があると指摘している。
 兵庫県も1998年度より「心の教育総合センター」を設置し、「心の教育」の本格的な始動が始まった。「心の教育」の定着化に向けて、@学校教育の基本目標を「心豊かな人間性を育む」ことA人間の心はその本人個人のものであって子どもの主体的な学習が基本であることBグループエクササイズやソーシャルスキルトレーニング、ストレスマネジメント等の体験的学習を授業に取り組むことC子どもの心理的発達に応じた重点的な発達課題を実践できる授業に取り組む(上地 1998)ことの柱が提案された。また、冨永(1998)を中心に「心の授業」としての実践的な学習を研究する委員会が発足された。
 その中で、Bの体験的な学習としてストレスをコントロールできるマネジメント教育を実施しその実践を報告したい。ストレスを受けると体が固くなり、心も不安定になる。このような心身のストレス解消法の一つにリラクセイションが効果的であるといわれている。スウエーデンでは、音楽と暗示効果を積極的に取り入れたストレスマネジメント教育が行われている(山中・冨永,2000、山中,1999)。本研究では、スウエーデンの実践を参考に、教室でできるリラクセイション法を実施する。子どもたちは家庭から持ち寄ったタオルケット等を教室内の気に入った場所に引き、音楽を傾聴しながら、心身を休ませる方法を体験する。神崎郡在住の3年生から6年生児童165名を対象に、週2回から3回のリラクセイションを実施し、その前後に@怒りの感情、A意欲の低下、B学校へのイメージ、C身体への不安、D自己効力感、E自尊感情、F感情的な不安の7要因46項目を質問紙で調べ、比較検討し影響と効果を考察する。

2.小学校におけるストレスマネジメント教育の実際

1)実施計画 (全4時間・終わりの会などの利用)
第一次 「ストレスってなに?」ストレスの原因とその影響を知る。
第二次 「ストレスにつよくなろう」ストレスをコントロールする方法を考える。

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                                                                                                         図1 小学校におけるストレスマネ図1 小学校におけるスとっレスマネジメント教育の実際

2)プログラム実践記録
(1)ストレスの学習

学習の流れ 指導上の留意点 形態
1)ストレスがたまっている人?

2)ストレスがたまるとどうなる?
すぐにおこる
食欲がなくなる
肩がこる
病気をしやすくなる




3)ストレスってどんなもの?
緊張したり、どきどきする場面を生活の中で振り返る。

4)ストレスを解消する方法は?
遊ぶ、大声を出す,スポーツをする、寝る、お風呂に入る

5)ストレスマネジメントを体験しよう。
体の緊張を解く
呼吸を整える
複式呼吸を知る
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6)ペアリラクセイション
・伝言ゲームをしよう
「よかったね」
「元気だしなよ」
など、身近なメッセージを後ろの人から前の人に伝える。

7)ペアマッサージ
・気持ちのよいマッサージをしてあげよう。
・多数の児童がストレスを感じていることが多い。
・ストレスの及ぼす身体的、精神的な影響について具体的に気づかせる。

・自由な意見を整理していく
身体的な影響
肩がこる。つかれやすい。朝が起きづらいなど
精神的
イライラする。
寝つきが悪い。

・物理的ストレス(暑さ、騒音)
・生理的ストレス(過労、病気)
・心理的ストレス(人間関係、挫折、不安)

・感情の表出
・他の活動をする
・原因を追求し解決する
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・心と体を休めること
・呼吸法
・肩上げと肩の開き


・肩に触れるだけでメッセージを伝える。






・相談しながら気持ちのよいマッサージができるように注意する。
・自由トーク







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体験型学習




よい関係の体験









 (2)放課後に行うフリー・リラクセイション

子どもたちの活動 指導上の留意点 備考
1)教室の中の一番気に入った場所で、リラックスする。
全身の力を抜いていく。
目を閉じられれば目を閉じる。

2)音楽を聞きながら、心もリラックスする。
自分の体を意識し、がんばった自分を誉めてあげようとする。

3)静かに心身を休ませる。

4)自分のペースで起きよう。
ゆっくりと時間をかけて、体と心を目覚めさせる。
・自由な場所、自由な形で体を休ませる。
・タオルケットをひき、自分の保護された空間をつくる。
・目を閉じることを強要しない。

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・音楽は邪魔にならない音量で聞かせる。

・静かに教師が言葉がけを行い、自分を肯定的に受け止められるようなメッセージを送る。(教示例は下記参照)

・10分程度のリラクセイションをさせる。

・全身の伸びを中心に体のすみずみまで力を呼び起こさせる。
タオルケットを家からもってこさせる。



最初の数分間だけメッセージを送る。


筋肉の弛緩を繰り返す。





3)フリー・リラクセイション実施方法
(1)手続きと対象

 神崎郡内小学校4,5,6年生を対象に、ストレス反応、自尊感情等のアンケートを実施する。また、フリーリラクセイションとして、教室内において自由な場所で、自由なスタイルで心身を休ませる方法を週当たり2回から3回実施する。その後、再びアンケートを実施し変化を検討する。 なお、フリーリラクセイションの手続きは、各担当教諭にビデオ講習を行い、共通した指示の元に実施した。
  各学年4学級(最小2学級)12学級(6学級)とする。

   実施校名と対象学年、実施回数

    6年生 5年生 4年生 3年生
実施回数 2 八千種 甘地 中寺 粟賀
3 鶴居 福崎 田原 香呂

(2)調査計画
各学級は平成11年6月21日(月曜日)にアンケート調査(第一回目)

1/2学級(6学級)はフリー・リラクセイションを週2,3回放課後10分程度3週間実施する。
各学級に再度アンケート調査7月5日(月曜日)(第二回目)

(3)具体的実施方法

@タオルケットなどを利用し、自分が保護される空間を作る。友だちとふれあってしまわないように注意する。
Aどんな体型、位置でもかまわない。自分がリラックスできればよい。
Bリラックスさせる。そのために、全身の力を抜く。また、力の抜けた状態を知る。
C目を自然な感じで閉じさせる。閉じるのが怖い子どもには強制はしない。
D息は軽く吸い、口からゆっくりと吐くと落ち着きやすい。
Eがんばっている自分の体をほめるような気持ちで、手や足、お腹、膝などに意識を配る。
Fゆっくり休ませる。

G体を起こさせる。元気になるんだといった気持ちを全身に伝えるように、時間をかけゆっくりと起きる。自分の速さで起きるようにする。
H最後には、体を伸ばし、力を全身に伝え、気分をしっかり変える。

 音楽に合わせての教示
プロローグ(序説)
・水の流れる音に合わせ、自分の場所へ移動し、準備をする。
・曲が流れ始めると、体を休ませる。教示はゆっくりと静かに
「がんばった、体の力を抜いてあげましょう。」
「そして、がんばった自分をほめてあげましょう。」
「手が重く感じますか。」
「足も重く感じてみましょう。」
「体がゆったりとしてきますね。」
「そして、がんばった自分をほめてあげましょう。」
「息は、少し吸って、ゆったりと長く吐くと落ち着いてきますよ。」
しばらく間をおく、
「体が休まると、心も休んできます。」
「ゆったりとした気持ちになります。」
「静かに落ち着いてきます。」

しばらく間をおく、

エピローグ
・再び、水の流れる音に合わせて、体を起こす作業に入る。しっかりここで体を起こさないと疲労感や倦怠感が残るので注意する。
教示例
「さあ、静かに、体を起こしましょう。少しずつ、自分のペースで起きましょう。」
「手の先、足の先に少しずつ力を入れていきます。」

第2曲開始
「全身に、エネルギーを伝え、さあ、元気がわいてきます。」
・全身の伸びをさせる。体調を活動状態に復元させる。時間を十分にかけ、体を呼び起こさせる。
全員が元の位置に戻ったら、音楽をフェードアウト(音量を徐々に下げて終わる)する。
注意:教示例はあくまでも参考で、その言葉通りでなくても良い。
   第一 体の力を抜く
   第二 心を休ませて、自分をほめる。
   第三 静かに心と体を起こす。
    第四 力を全身に伝え、意欲を高める。    である。

4)資料  質問紙について 実施前と実施後に下記質問紙を使い、自己評定から変化を調査する。                   学校      年  組   番       男・女
心とからだの感じを答えてください あてはまるところに○をつけてください
1)すぐにおこってしまう            いいえ  少しいいえ  少しはい  はい
2)つかれている
3)何かしんぱいになってしまう
4)勉強する気がおきない
5)つい、いらいらしてしまう
6)体がだるい
7)悲しくなってしまう
8)ひとつのことが長く続かない
9)はらがたってしまう
10)目がつかれる
11)さみしい気持ちになる
12)考えがまとまらない
13)なきたい気持ちになる
14)気持ちがむしゃくしゃしている
15)いつもねむたくなる
16)うまくできそうな気がしない
17) ふゆかいな気持ちだ
18)のどや口がかわく
19)心がくらい
20)体から力がでてこない
21)こしがいたい
22)食事がおいしくない
23)よくねられない
24)いきをするのがくるしい
25)今までにうそをついたことがない
26)学校が楽しい
27)一日がすぐに終わる
28)学校へ行きたくなる
29)楽しいことがたくさんある
30) 家にすぐに帰りたくなる
31)学校がないとつまらない
32)つぎの日が、学校だと思うとつまらない
33)学校ではいやなことが多い
34)この学校が好きだ
35)学校がなければよいと思う
36)人に腹がたったことがない
37) むずかしいことは人に手伝ってもらう
38) 決めたことは、きちんとできる
39)他の人がうらやましい
40)失敗すると、よけいにやる気がおきる
41)みんなの役に立っていると思う
42)すぐにあきらめてしまう
43)しないといけないことは最後までがんばる
44)何か計画すると、それができそうに思う
45)いやなことを、言わずにがまんする
46)わたしは役に立たない
47)たのまれると、ことわれない
48)ゆっくり休みたい

以上の48項目からなっている質問紙である。この質問項目は、7つの要因から構成されている。それらを分類すると以下のようになる。
@怒りの感情(1、5、9、14、17)
A意欲の低下(4、8、12、16)
B学校へのイメージ(26、27、28、29、30、31、32、33、34、35)
C身体への不安(2、6、10、15、18、20、21、22、23、24)
D自己効力感(37、38、39、40、41、42)
E自尊感情(43、44、45、46、47、48)
F感情的な不安(3、7、11、13、19)
Gうそつき尺度(25、36)

5)結果
 その要因ごとに、実施前後の個人変化を比較検討した。その結果、明らかに差が見られた項目は@怒りの感情A意欲の低下C身体への不安E自尊感情F感情的な不安の5要因であった。

 以下のその要因別の結果を報告する。

      Table 1-1 怒りの感情

source SS df MS
A:回数 37.166 1 37.166 1.705 0.193
error[S(A)] 3552.452 163 21.794    
B:時期 101.078 1 101.080 27.435 0.000****
AB 17.005 1 17.005 4.616 0.033*
error[BS(A)] 600.528 163 3.684    

* p<.05 **p<.01 ***p<.005 ****p<.001

<結果>
 怒りの感情は、週あたり2,3回の実施ともに、軽減されることが認められた。また、その効果は回数が増えるほど、高いことも認められた。

     Table 1-2 意欲の低下

source SS df MS
A:回数 52.201 1 52.201 3.584 0.060
error[S(A)] 2373.961 163 14.564    
B:時期 125.046 1 125.046 27.435 0.000****
AB 0.198 1 0.198 0.060 0.806
error[BS(A)] 538.426 163 3.303    

* p<.05 **p<.01 ***p<.005 ****p<.001

<結果>
意欲の低下は、週あたり2,3回の実施ともに、抑制されることが認められた。
しかし、2回と3回の実施の差は認められなかった。
 
     Table 1-3 身体への不安

source SS df MS
A:回数 101.118 1 101.118 1.465 0.227
error[S(A)] 11247.015 163 69.000    
B:時期 111.449 1 111.449 9.970 0.0019***
AB 24.758 1 24.758 2.215 0.138*
error[BS(A)] 1822.138 163 11.178    

* p<.05 **p<.01 ***p<.005 ****p<.001

<結果>
身体への不安感は、週あたり2,3回の実施ともに軽減されることが認めれらた。また、その効果は実施回数が増えるほど高くなることも認められた。

     Table 1-4 自尊感情

source SS df MS
A:回数 12.167 1 12.167 0.669 0.414
error[S(A)] 2963.256 163 18.179    
B:時期 56.879 1 56.879 13.783 0.0003****
AB 0.636 1 0.636 0.154 0.695
error[BS(A)] 672.654 163 4.126    

* p<.05 **p<.01 ***p<.005 ****p<.001

<結果>
自尊感情は、週あたり2,3回とも高くなることが認められた。しかし、回数の2,3回の効果の差は認められなかった。

     Table 1-5 感情的な不安

source SS df MS
A:回数 25.643 1 25.643 1.477 0.226
error[S(A)] 2830.853 163 17.367    
B:時期 31.643 1 31.643 10.198 0.0017***
AB 22.043 1 22.043 7.104 0.0085**
error[BS(A)] 505.762 163 3.102    

* p<.05 **p<.01 ***p<.005 ****p<.001
<結果>
感情的な不安感は、週あたり2,3回の実施ともに、軽減されれることが認められた。また、実施の回数が増すほど、その効果が高くなることも認められた。


6)子どもたちの感想
<女子Oさん:緊張がとれていく>
私は、終わりの会のときにストレスマネジメントをすると、なんだかすっきりした感じになる。緊張したときは、目を閉じて楽しいことを思いうかべる。それをするとあんまり緊張しなくなった。自分が不安なとき緊張したときにこの方法を使っている。

<男子U君:ぼく流のストマネ>
ぼくはこのごろストレスマネジメントをすると,体がだるくなる。でも、何か心が安らぐ感じがする。このごろストレスがたまっているのか、むかむかしています。女子につい文句ばっかり言ってまた、ストレスがたまる感じです。だから、ぼくは自分流のストマネを考えました。
 目を閉じて、心を落ち着かせ、10秒程度続けます。ねころんですればもっと落ち着きます。この方法で落ち着かせています。

<男子S君:落ち着きが出てきた>
 ぼくは、ストレスマネジメントをやりはじめて、落ち着きが出てきた。何をするにしても、すぐに取りかからず、一回考えてから行動できるようになった。だから、失敗が減ったように感じるようになった。
 これからも、ゆっくりと深呼吸をし,落ち着いて勉強や試合に取り組みたい。

<ぼくの落ち着く曲カノン>
ぼくは週に一回、家でストレスマネジメントをしている。学校で覚えたことを家でもしてみるとうまくいった。曲はカノンだ。今までと違ってきたことは、夜ねむりにくかったのが、すぐにねむれるようになったことだ。いつもよりぐっすりねむっている気がする。ストマネにはこんな効果があるんだと思った。
など、子どもたちの感想から、緊張や不安といった場面に、また、日常的な場面に、自分なりの方法で対処している様子がわかる。
 ストレスをコントロールする方法は人により千差万別である。大切なことはストレスを自覚でき、コントロールしようとする姿勢が大切である。

3.考察

1)ストレスと学級集団の関与

 マズロー(1943)によると、人間の欲求は、食欲や睡眠欲といった生命を維持するための生理的な欲求段階、次に、周囲の環境から生命を脅かすことのない安全の欲求段階、自分が他の仲間たちと一緒にいたいという所属の欲求段階、さらに集団から自分の存在を認められたいと思う自尊の欲求段階、最後に自分の願いを社会・集団に反映したいとおもう自己実現への欲求段階にすすむと唱えている。現在、日本の社会構造から生まれる過度の競争や周囲に自分を合わせ自分を隠すなどのストレスは、どの段階においても不安感を増長する。
 そこで、これらのストレスをある程度コントロールすることは、所属する集団への適応感を高めることができる。学級経営においても、学級集団への子ども達の関わりに大きく影響すると考えられる。
p48.gif (7308 バイト)       
2)フリー・リラクセイションによる効果
 教室で実施されたフリーリラクセイション、並びにストレスマネジメント教育で以下のことが明らかになった。
 @身体に対する不安感が週2回、3回実施、共に軽減されることが明らかになった。
 A感情の不安定感は週2、3回の実施で明らかに軽減され、週3回実施の方がさらに効果的であった。自分のいらつきやきれる傾向を抑制できる。
 B意欲の低下が週2、3回実施、共に減少した。
 C自尊感情は週2回、3回実施、共に向上が認められた。
以上のことをまとめると、週2回から3回のストレスマネジメントの実施により、疲労感や倦怠感といった身体的な不快感が軽減し、いらつきや衝動的な感情が抑えられる。その結果、落ち着いて問題に対処できるようになり、課題に意欲的に取り組もうとする姿勢や自分ならできると信じる自己有用感が高まることが認められた。
 これは最近、問題とされている「学級崩壊」にみられる「心の荒れ」を予防する開発的な対応としても期待できる。

3)ストレスマネジメント教育と総合的学習
 ストレスマネジメント教育は、現代社会を生き抜くのに必要な技能である。自らの目標を目指そうとすれば、当然、多くの人的、物理的なストレスが生まれる。ストレスマネジメント教育は、ただ単にストレスに強いだけでなく、自分の心身を振り返り自己を理解すること、自己理解を通して他者理解をすすめ、共に生きていこうとする姿勢の基礎を培うものである。
 人とのつながりが希薄な現代の子どもたちに必要な体験は、学級集団にある自分を意識し、集団の中で育つ自分を知ること、「仲間っていいなあ」と感じ取ることである。
ストレスマネジメント教育により、身体的な不安の軽減や情緒的な安定がある程度期待されることが認められた。また、意欲的な姿勢や自己を価値ある存在として受けた止めようとする態度も芽生えるきっかけになることが明らかになった。ストレスマネジメント教育は、現代社会のストレスを理解し、今ある状況を冷静に判断させるのに非常に効果がある。この点で自らもつ課題や目標に向かえる心の構えを作る要素を育てるといえる。そして、その心の構えをもつことは、学級経営上、子どもたちの生きている学校・家庭・地域社会に肯定的な働きかけにつながる。その結果、継続した働きかけや努力となり、結果として自分には価値ある存在と実感できるかもしれない。自分自身への信頼は、他者を受け入れ理解しやすくさせる。その子どもたち相互のつながりが、協力的・共感的な学級集団へと成長させると期待される。今後必要と思われる新たな技能として、人と自分を結びつけるコミュニケーションスキルがあげられる。他者の人権を認めた非攻撃的な自己主張(アサーショントレーニング)を獲得することは、21世紀の国際化・情報化社会を生きるのに必要な共生能力を育てることになる。これからの研究課題は、ストレスマネジメント教育とアサーショントレーニングを関連付けた総合的な学習としてのプログラムの開発である。

4.おわりに

 21世紀に向けて、新しく教育が生まれ変わろうとしている。生涯教育を基盤に、様々な社会変化に対応できる能力が求められる。ストレスは環境や人間関係から生じ、生理的、心理的な負担を強いるものである。この多用なストレスを自分なりにコントロールできる技術を獲得することが、新たに必要な能力である。ストレスマネジメント教育は、身体や感情的な不安感が軽減し、自分を肯定的に見つめ、意欲を高める内的な効果が期待される。
 新学習指導要領改定の「体育」においても、この点を強調している。その改善の要点は、明るく豊かで活力のある生活を営む態度の育成を目指す。そのため生涯を通じて、自ら健康な心と体をより一体的にとらえる観点から、新たに自分の体に気づき、体の調子を整えるなどの「体ほぐし」を通し、自らを管理する能力や資質を育てることを柱としている。
 子どもたち一人一人が、ストレスの働きや仕組みを知り、自らに応じた対応法を身につけ、様々な課題を乗り越える心の準備を自ら行なえることが大切である。ストレスマネジメントは、この意味で感情や情緒的な役割が大きく、「心の構え」として影響する。したがって、実質的な行動に移す技術が課題となる。今後の課題として、ストレスマネジメント教育と組み合わせ、人間関係としてのコミュニケーションスキルや非行(薬物乱用、生活習慣病、喫煙、飲酒)の防止などが挙げられる。さらに、具体的で実践的な研究を積んでいきたい。

 
参考文献
冨永良喜・山中寛1999『動作とイメージによるストレスマネジメント教育』展開編、北大路書房
藤原忠雄 1994 リラクセイションの活用に関する研究 岡山県教育センター
川端徹朗 1997 WHOライフスキル教育プログラム 大修館書店
山中 寛 1999 学校におけるストレスマネジメント教育(ビデオ)南日本放送
山中寛・冨永良喜 2000『動作とイメージによるストレスマネジメント教育』基礎編、北大路書房
荒木紀幸 ウエルライフ学校生活意識調査(学校内不安検査)
使用音楽 カネボウ化粧品オリジナル環境音楽「サウンドエステティック」パストラルウィンド

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