第1章 心の授業におけるストレスマネジメント教育の位置づけ
                  冨永良喜(兵庫教育大学教授 心の教育総合センター主任研究員)
                  小林 宏(心の教育総合センター)
                  住本克彦(心の教育総合センター)


要旨

本章では「心の授業」におけるストレスマネジメント教育の位置づけを実践授業研究と教師への意識調査から明らかにした。冨永(1999a)は「心の授業」がストレスマネジメント教育と人間関係体験訓練と自己発見・自己開発の3つより構成されると構成モデルを提案した。本年度の心の教育実践授業をその構成モデルから概説し、ストレスマネジメント教育を心の授業の基盤と位置づけた。次に、教師の「心の授業」に対する意識を調査するために、ある県の教育委員会主催のある教師研修会で,代表的な授業案を提案し、心の授業案の感想を求めた。紹介した心の授業案は、ストレスマネジメント授業、構成的グループエンカウンターによる人間関係体験授業、いじめ防止授業、アサーション授業の4つであった。多くの教師が「心の授業」の必要性を感じているものの、技法のむずかしさや生徒の人間関係のむずかしさを感じていた。「心の授業」をわが国の教育施策に定着させるためには、実践する教師の意識がきわめて重要であることが示唆された。

 キー・ワード:心の教育、ストレスマネジメント教育、心の授業、構成的グループエンカウンター


1「心の授業」とは何か
 冨永(1999)は、ストレスマネジメント教育、人間関係体験訓練、自己発見・自己理解の3つが「心の授業」の主要な内容であることを提案した。兵庫県心の教育開発研究委員会(1999)の第1回報告では、小学校・中学校・高等学校から各3名ずつの実践報告がなされた。それらの実践を心の授業の構成モデルに照らして整理したのが図1である。
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 図1 心の授業の構成モデルと授業実践  

 ストレスマネジメント教育では、西本(1999)、定金(1999)が呼吸法を、松井(1999)が動作法に基づいた一人でやる肩の課題を用いた。人間関係体験訓練として、田中(1999)は「私は私が好きです。なぜならば..」という構成的グループエンカウンターの代表的な技法を用いた。南(1999)は、動作法に基づくペア・リラクセーションを小学生に実施し、人間関係の育成を報告した。また、人間関係体験訓練とストレスマネジメント教育をうまく組み合わせたものが山田(1999)のアサーショントレーニングであった。さらに、自己発見・自己理解の内容には、高校生を対象とした野田(1999)の集団内観、荻野(1999)のコラージュがあった。


2 心の教育授業実践研究第2号の授業研究から

 次に、本年度の本研究報告について概説し、ストレスマネジメント教育の位置づけを探りたい。

(1)小学校の授業実践から

 小川玉樹教諭は、小学校1年生の保護者を巻き込んだ心の授業を行った。学校で起こるさまざまな問題行動の背景には、家庭での養育のあり方が指摘されている。子どもの心身に大きな傷を残す児童虐待には、身体的虐待、養育放棄、性的虐待、心理的虐待の4つが指摘されている。身体的虐待や養育放棄や性的虐待が、子どもの心身を傷つけることは誰からみても明らかである。しかし、「あなたはだれの子?」「あなたの行ける高校はない」「あなた精神的におかしんじゃない」などの人格を否定した言動を親や大人が繰り返すことも子どもの心身に深い傷を残す。身体的虐待に比べて、場面や時期が特定しづらいことや、そのような言動を悪意なく発するために親が覚えていないことが多いため、むしろ癒すことが難しい心の傷と言われている。親は子どもを励ますためにそのような言動を吐くことがあるからである。親の歪んだ感情表現が悲劇を生む。このような悲劇を防止するには、望ましいかかわり方を社会が例示する時代がきている。その意味で、小川の実践は、まさに時代にあった教育実践といえる。また、地域で活躍する障害児教育の専門家をゲストティーチャーとして招聘している点も時代に合った試みであり、地域での人的資源を活用した興味深い実践報告である。障害児教育の専門家は、衝動行動を示す障害児への感情コントロール技法や肢体不自由児へのリラクセーションの技法など、長年研修を積んできている。障害児教育の知見を普通学校で活かした素晴らしい教育実践といえる。また、親子のペア・リラクセーションを友達の親とペアを組み実践したことも、工夫であろう。保護者からも「ふれあいの大切さ」「子どもの気持ちを感じていきたい」「ほっとした」などの肯定的な感想がたくさん寄せられた。そういった体験に加えて、大人が知らずに子どもを傷つけていることなどを保護者会で整理して伝えるとさらに効果的なように思える。このような実践が広く展開されることを願いたい。
 堀尾直美養護教諭は担任教師と連携をとり、小学校6年生にマッサージを取り入れたストレスマネジメント教育を実践した。東洋の癒しの知恵がいま西欧社会で注目されている。心の傷を癒す技法としてTFT(Thought Field Therapy:思考場療法)という療法がある。これは、経穴を順じ自分でタッピングすることで、心理的な不安や抑うつなどの症状を軽減しようとするものである。心の傷を再体験し再構成しようとする従来の精神分析的な方法とは対照的な方法である。その点で、マッサージを導入したストレスマネジメント教育は、心理療法の近年の動向とも一致している。堀尾は、7時間のカリキュラムを作成し、ストレス対処とマッサージ体験を組み込んだ。ペア・マッサージの導入は、他者への思いやりを、からだを通した体験のレベルで実現しようとした試みといえる。どれくらいの力で押したら相手の友達が気持ちいいのかを、かなり慎重に進めていったらしい。ふざけたりする子どもが少しでもいれば、ぎゅっと力を入れられ、不快な思いをする子どももいただろう。そういったかかわりが全くなかったのは、日ごろの教育実践の成果かもしれない。このような実践が学校現場で活用され、それが家庭の中で違和感なく行なえる親子関係の形成に寄与することを願ってやまない。摂食障害や家庭内暴力などさまざまな問題を抱える親子は、気軽に肩たたきをしたりマッサージをしたりできる関係ではない。そのような子どもは、親からの「がんばれ」メッセージのために、人にもたれ依存することができないことが多い。マッサージというよく知られた方法を教育の中でも、依存というテーマで見直す時期が来ている。他者と自分との関係では、「してもらう」、「してあげる」、「自分でする」といった体験がある。独立と依存のテーマを学校教育で考える意味でも、こういった実践を取り入れる必要性を感じる。
 山田良一教諭もストレスマネジメント教育の実践を報告しているが、堀尾と異なるのは、動作法に基づいたペア・リラクセーションに加えて、スウエーデンのウネスタル(Unestahl)の音楽とプラスのメッセージを送る技法を実践した点である。また、山田は1学校、1クラスでの実践ではなく、神崎郡内の小学校で広く実践した点もユニークである。ストレスマネジメント教育の必要性は、ほとんど否定するものがない一方、体験的なワークとなると専門性が求められ実践がむつかしいという指摘もある。ウネスタルの方法は、音楽と暗示(プラスメッセージ)を用いる点で、特別な技法研修を必要としない。しかし、きちっとした教育観をもっていなければ、偽宗教とまちがわれるなどの誤解も生みやすい。山中(私信)は、ウネスタルの暗示効果をもちいた音楽でのストレスマネジメント技法の導入について、2点の危険性を指摘している。1つは、さきほど指摘した偽宗教との誤解である。1995年にオウム真理教によるさまざまな犯罪が発覚してから、偽宗教への危惧が全国的に高まっている。2つ目の危惧は、技法が簡単すぎるので、教師が努力したり工夫したりしないのではという点である。教師が確固たる信念をもって子どもに提案することこそ大切だからである。そのためには教師がまずリラクセーションを体験して実感しなければならない。ところが、山田の報告を聞くと、音楽と暗示効果をもちいたこの方法は、むしろ現場の教師へのストレスマネジメント教育への理解を深めることがわかった。放課後のほんの10分間に教師もいっしょにねころがってリラックスしたそうである。すると、ほとんどの教師が、こういった時間をもつことの大切さを実感したそうである。そして、もっと専門的なリラクセーション技法を教えて欲しいと山田に求めたらしい。だから、音楽と暗示効果をもちいた方法を導入としてもちい、さらに呼吸法、漸進性弛緩法や動作法に基づいたペアでおこなうリラクセーションへと展開し、自分にあったリラックス法を身につけていくようにすることはいいことかもしれない。このような実践の中心となる者が、そういったことを配慮して実践するなら、さらに大きな広がりを見せるであろう。また、山田はアサーショントレーニングを包括的に実践している。今回はこの部分の報告がなかったのは残念であるが、その実践は昨年度の報告よりもさらに魅力的なものになっている。

(2)中学校での授業実践から
 乙訓和之教諭は呼吸法をもちいて中学3年生へストレスマネジメント教育を実践した。乙訓は、ボーイスカウトの経験が豊かな若い教師である。藍中学校は地域いじめ対策研究事業の指定も受けていたが、乙訓はいじめ防止の研究授業の実践でもさまざまな工夫をしていた。彼は、大学では心理学の専攻でなかったため、当初、心の教育実践授業委員会で用いられる用語がわからないと嘆いていたが、結果的には、自分なりに工夫をした素晴らしい実践報告をしている。呼気が弛緩、吸気が集中という働きがあることを気功の書物からヒントを得て実践した。まず、生徒達のストレス対処をそれぞれに考えさせ、次に、もっといい方法を身につけようと提案していった。彼の実践は、教師が心理学を専攻していなくても、心の授業が実践できることを示している。また、彼の報告にはあまり記述されていないが、日々の学級通信や不登校ぎみの生徒へのかかわりも見事である。教師から発せられるプラスのメッセージや子ども自身が責任を取ることを求めている日々の彼の実践が基礎となっている。例えば、修学旅行での班決めも生徒自らが行ったらしい。「私たちに班を決めさせて下さい。先生の心配は、生徒が班を決めると、仲間外れの生徒がでるからでしょ。それは大丈夫です。だから私たちに班を決めさせて下さい」と生徒らが教師に申し入れたらしい。そのような学級経営ができるまでに、中学3年間で育んできた実績があればこその呼吸法の成果であることを申し添えておきたい。
 田中順子教諭はエゴグラムをもちいた自分をみつめる授業を実践した。誰しも自分の性格には関心がある。筆者もスクールカウンセラーとして中学校で活動をしているが、案内のちらしの中に、「オリンピック選手もやっているリラックス法」や「自分の性格が10分でわかるよ」というコピーを入れている。グループで「性格テストして下さい」と相談室にやってくる。「それはあたっている。すごい」といった会話をきっかけに日ごろの友だちづきあいや将来の夢などを語ることがしばしばである。たまには、自分自身のことを振り返ってみたい。そんな思いは中学生の誰もがもっているであろう。田中はさらに構成的グループエンカウンターの方法を参考に、友だちからみた自分の性格というワークも取り入れた。これはある意味では危険な側面ももっている。性格検査が「よい性格・悪い性格」といった価値判断によって構成されているなら、こういったワークはできないだろうし、実施する教師が「性格にはよい性格と悪い性格がある」と思っているなら、このようなワークを実践することで傷つく生徒がでてくる。「性格は、みんなちがって、みんないい」という確固たる信念がない教師はこういう実践をしない方がいい。その点、田中の報告を読むと、そういった危惧が全く不要であることがわかる。筆者は、相談室では、自分の理想の性格も併せてチュックしてもらう。「みんなの前で陽気にふるまう自分でありたい・・はい ? いいえ」というようにである。そして、今の自分と理想の自分を比べて、どのような行動を変えていけばいいのかを考えるきっかけにする。そういった取り組みもこの授業の中に折り込んでいくとさらに自分を見つめることができるように思える。
 田中誠教諭は「いじめを考える全校集会」の取り組みを報告した。小野市立小野中学校は3年間にわたって、いじめ防止の全校集会を開催してきた。筆者は、平成10年度の全校集会に招かれ、生徒の取り組みをコメントする機会を与えていただいた。生徒会の生徒が中心となり壇上で寸劇を演じ、「これはいじめですか?いじめではないですか?」と全校生に発問するという取り組みであった。「いじめの劇」で加害・被害の役割を生徒が取ることは非常な危険性を持っている。筆者が行った現職教員へのいじめ防止の取り組みのアンケートにも、「いじめのロールプレイを授業でやったら、ある生徒が泣きだした」という記述があった。例え、劇だとしても、加害・被害体験は強烈な体験を引き起こすからである。しかし、小野中学校の実践では、事前に、加害の役割をとった生徒の感想をまとめるなど慎重な取り組みとさまざまな工夫がなされていた。今回は、さらに、全校集会に加えて、「友だち内観」を取り入れ、「友だちからしてもらったこと、してかえしたこと、迷惑をかけたこと」の実践を行った。「いじめられ体験」のアンケートでは、いじめられ体験のいちじるしい減少を示していることからも、実践が有効であったことがわかる。

(3)高校での授業実践から
 上野仁史教諭は「生と死をみつめる授業」を全校あげて実践したものを報告した。兵庫県教育研修所は、神戸少年事件を契機に「生と死を考える教職員研修プログラム開発委員会」を発足させ、英知大学の高木慶子氏らを講師に招き研修を深めている。高校生への「生と死をみつめる授業」を教育相談部主催で開催し、1回目は「葉っぱのフレディ」を教材に用い、2回目はターミナルケアに携わっている関本雅子氏の講演会、3回目は「○○への手紙」という実践を行った。芦屋南高等学校は、阪神淡路大震災により大きな被害を受けた地域に位置する。このような授業を全校あげて取り組むことができたのは、震災後の心のケアに尽力してきた経緯があると思われる。1995年度からはじまった文部省スクールカウンセラー調査活用事業で、スクールカウンセラー(武庫川女子大学・馬殿禮子氏)が配置され、教育相談部を組織した。上野は教育相談部の中心的な教師のひとりであった。生徒の手紙には、復興のためにがんばり疲れがたまり病気で亡くなった父のことを書いたものなど、涙なしには読めないものもある。また、「なぜこんな授業をするのか、怒りをおぼえた」という感想も貴重である。また、講演会や手紙のワークに先立ち呼吸法を行っていることも注目すべき点である。上野の実践報告は、高校生への「いのちの授業」であり、先駆的な授業実践のひとつとなるものであろう。
 中村忠生教諭は、なぐり描き法をはじめとした描画法を授業で取り入れた実践を報告した。震災後、「感情を吐きだすこと」が心のケアで大切なことと報道されたが、そのことは、ある意味では正しく、ある意味では危険性を伴っている。感情を身体に閉じこめ続けると、身体が耐えきれずに悲鳴をあげはじめる。その意味では、さまざまな感情を表現することは奨められる。しかし、無理に感情を開かせようとすると、不快感や症状を発症させることにもなる。「今なら、このひとになら、この場でなら」といった信頼感と安心感が育まれてこそ、自分のペースで感情を表現することが自然に無理なく行われる。そしてその結果、活力を回復し、自由な発想を生む基になる。描画法は投影法であり、その危険性は、知らない内に、心の影を映し出す点にある。心の影が表現されて、うまく統合されれば、すざまじいエネルギーになることは確かであるが、失敗すると、否定的な自己に直面することになる。コラージュ(切り絵の貼り絵)を授業で実践した昨年度の荻野正廣氏(昨年、病のため急逝)の流れの授業実践であり、注目すべき授業のひとつである。さらに、留意点やこういった授業で反応を起こした生徒や日ごろから気になる生徒の取り組みなどの説明や紹介があると、さらに実践の意義がわかりやすいだろう。
 野田暢子教諭の内観の授業実践は秀逸である。野田の長年の教育相談の経験、研鑽してきた臨床心理学の集大成のひとつの成果ともいえる。野田が内観に注目したのは、「内観が過去のトラウマ・心の傷に焦点をあてるのではなく、過去の心の光に焦点をあてる」という点である。筆者は、心の傷と癒しの○△モデルを提案し、心の授業では、心の光を膨らます技法と理論をベースにすることを提案した(冨永、1999)。「してもらったこと、してかえしたこと」はいずれも良いかかわりであり、心の光である。「迷惑をかけたこと」も自己責任を尋ねる命題であり、他者の責任に転嫁することが多い中、自分を見つめる原点ともいえる。野田は、昨年度の内観の授業実践後に、わが国で内観療法を中心的に研究実践している大阪大学の三木善彦先生の奈良の内観研修所にでかけた。そして、内観を実際に体験してきたらしい。そのこともあって、7校(高校5校、小中各1校)での実践となったのであろう。また、事後指導として、特別な配慮を要した2生徒の事例をあげているが、いずれも適切な距離の取り方と素晴らしいかかわりであり、これこそ「心の授業」と「教育相談」が一体となったモデル的な教育実践と言っても過言ではない。

(4)開発的カウンセリング講座の授業実践から
 第2号では、開発的カウンセリング講座で発表された3人の教諭に実践報告を掲載していただくことにした。斎藤直子養護教諭は、自分のからだを知ろうという保健の授業で、相手の背中に耳を置き身体の音を聞いてみようといった実践を行い、いのちの大切さを実感する体験授業を行った。その結果、乱暴な言動や人を傷つける言葉の減少を報告している。石井佐千代教諭は、アサーショントレーニングを中心に、いじめ防止の教育活動を展開している。構成的グループエンカウンターの手法を導入した人間関係体験の授業実践を展開している。松下淑江教諭は、数学の授業に構成的グループエンカウンターを導入し、いちじるしい成績の向上を報告している。これは、「心の授業」という枠を越えて、教科教育こそ、心の教育であることを実践的に報告した点で画期的な授業と言える。

(5)全体をとおして
 今年度の実践授業の内容をみると学校によって特色がみられる。小学校は3名すべてストレスマネジメント教育であったのに対し、中学校はストレスマネジメント教育がひとつ、いじめ防止といった人間関係訓練がひとつ、エゴグラムといった自己発見・自己開発プログラムがひとつとわかれた。また、高校は、内観、描画法、生と死をみつめるといった自己発見・自己開発の取り組みがなされた。また、ストレスマネジメント教育をみると、そのすべてが異なる技法を用いていることも注目すべきである。動作法に基づいた親子リラクセーション、音楽とメッセージをもちいたリラクセーション、マッサージ、呼吸法と、すべての実施者が異なる技法を用いている。呼吸法はひとりで行うリラクセーションであり、自己発見・自己理解の側面が強いのに対して、動作法に基づいた親子リラクセーションやペア・マッサージは、よい人間関係を促進するのにも効果的である。また、高校での実践報告である内観と生と死をみつめる授業ではいずれも導入に呼吸法を実践している。このことはストレスマネジメント教育が心の授業のベースであることを示唆している。ストレスマネジメント教育のねらいは安心感の育成である。他者に心を開くには、まず安心感の育成が大切であり、その安心感のある人間関係のもとでのよりよい人間関係体験のあり方を学び、さらに、自己をみつめるという課題に取り組んでいく。本年度の9名の授業研究者の実践は、心の授業の骨子を形成している。


3「心の授業」に対する教師の意識
このような実践が子どもへ望ましい効果を及ぼしたことは、アンケート調査や内省報告から明らかである。こういった授業を多くの学校で展開していくためには、教師の意識が重要となる。一部の教師や保護者が「心の授業」の必要性を感じても、それを実践する多くの教師がどのようにそれを受けとめるかが問題である。心の授業は、多くは臨床心理学の技法と理論に基づいている。臨床心理学といえば、非指示的カウンセリングや精神分析と思っている教師も多い。後で述べるが、心の授業の内容の多くは、心の光をふくらます臨床心理学の技法と理論によって構成される。そこで、心の教育に関する教師研修にて、心の授業の実際を紹介し、それぞれの授業内容について感想を求めた。

(1) 対象
 A県同和教育担当教諭90名。A県は中規模都市を県庁所在地に抱えた農業と商業の産業を中心とした県である。

(2) 方法
 2時間の研修に、ストレスマネジメント授業、構成的グループエンカウンターの人間関係を深める授業、いじめ防止授業、さわやかな自己主張であるアサーション体験の授業の4つを紹介した。ストレスマネジメント授業といじめ防止授業は冨永が担当し、構成的グループエンカウンターとアサーション授業は森田勇(兵庫教育大学大学院1年・認定カウンセラー)が担当した。 以下に模擬授業の概略を示す。

@ ストレスマネジメント授業の概略(冨永・山中,1999)
主旨:人生にはさまざまなストレスがある。試合や試験でのプレッシャーや人間関係でいやなことに出会うなどである。そんなときどのようにそれを乗りこえていくかについて学ぶ。 a.ストレスを感じた時、心と身体はどうなる? b.ストレスを感じた時、どう対処する? c.セルフ・リラクセーションとペア・リラクセーションを体験する。
A 人間関係を深める授業の概略(國分,1982) 主旨:自分を積極的に語り、他者からプラスの(肯定的な)メッセージを得ることで、自分を再発見できる。5人グループを作り順番に自分を語る。 「私は、○○が好きです。なぜなら△△だからです」 「私はあなたがすきです。なぜなら△△だからです」 「私の欠点は△△です。(他の4人が)でもそれは○○という調書にもつながります」
B いじめ防止授業の概略(冨永,1999b) 主旨:いじめの行為は許されないという人権意識を物語などの教材を使って教え、かつメッセージがもつ意味を体験的に学ぶ。 a.いじめとは何かを物語によって学ぶ。 b.いじめは心身を傷つけることを学ぶ。 c.いじめの行為は誤ったストレス解消であることを学ぶ。 d.2人組みになり、一人がメッセージの送り手、一人が受け手となる。教師が簡単なメッセージ(例えば、「相談にのってくれない」「なにやってるんだ」など)を板書し、 受け手はこのメッセージを見ない。送り手は言葉を使わずに手で相手の肩にふれることによってメッセージを伝える。言葉だけでなく表情やそぶりもメッセージをもっていることを体験的に学ぶ。
C アサーション授業の概略(山田,1999)  主旨:コミュニケーションのタイプとして、攻撃(I am OK,You are not OK)、非主張(I am not Ok, You are OK)、アサーティブ(I am Ok, You are OK)があることを学び、それぞれの主張のしかたを体験し、どんなタイプになりたいかを考える。 a.対人関係での嫌な場面で自分は何というかを考えワークシートに記入する。 b.攻撃と非主張とアサーティブがあることを学ぶ。 c.4名のグループを作り、ファミコンのソフトを返してくれない場面を想定し、3つの主 張をロールプレイで行う。 d.小学生なら具体的な場面でのロールプレイではなく、動物の鳴き声で攻撃・非主張を体験する。

(3) 結果
 4つの授業の感想を表1に示した。それぞれの授業の感想について、肯定的か否定的かをカウンセリングの専門家によって評定した。評定は、肯定的(5:とても、4:まあ)、否定的(2:まあ、1:かなり)の4段階であった。評定は、住本克彦(心の教育総合センター指導主事)によって行われた。各感想の数字が評定値である。

(4) 考察
 ストレスマネジメント授業の感想では、肯定的感想が23人、否定的感想が8人であった。肯定的感想では、学校はストレスが多いので体験ワークが必要という意見が多い。一方、否定的感想では、ペア・リラクセーションのむずかしさを指摘する意見が多かった。それだけ、今の子どもたちが、ふれる・ふれられる体験が乏しいことを感じているのかもしれない。
 人間関係を深める授業の感想では、肯定的感想が19人、否定的感想が11人であった。肯定的感想では、学級づくりに効果的であるとの意見が多かった。一方、否定的感想では、表現できない子やのれない子が傷つくといった意見や誉めることの抵抗についての意見があった。これは一部の子どもが傷つく可能性を指摘しており、ストレスマネジメント授業の否定的な感想とは異なっている。

表1 4つの授業案に対する教師の感想
[ストレスマネジメント授業]
5・自意識をしっかり持たせれば効果的な取り組みができると思う。
5・学校はとてもストレスが多いところ、たまにはこうした体験ワークすることで、自分を取り戻すことが必要。
5・心にストレスを抱えている子が多い現在、このようなプログラム学習は、対処学習として一つの良い動機付けを与えてくれる。
5・肩の力を抜くと体も心もリラックスできる。
5・言葉と動作とをマッチさせて、子ども間の柔らかな雰囲気が作れるかも。
5・部活で使ってチームワークを高められる。
5・野球部の顧問をしていたので、生徒がプレッシャーを感じるときを目にする。とても良い方法だと思う。
5・導入でその気にさせ、体験で、実感としてつかめるので、ストレス対処法になる。
5・肩に手を触れることで、とても体の感じか違い、大変すっきりできた。ペアの効果がはっきりする。
5・教師が実施するにはやや専門性が必要であるが、今の子供たちの心をほぐすのには、有効な方法。
5・これは手軽で、是非使いたい。
5・ワークシートに記入しながら話し合いをしていくので、とてもいい進め方だと思う。
5・コミニュケーションが図れると思う。
5・人間関係ができていれば、効果が上がる。
4・肩に触れることで、子供同士が照れて、抵抗を取り払う工夫をしなければと思う。
4・ストレスを受けると誰も同じ反応をするんだというところは理解しやすい。
4・肩が少しあがったとき、タイミングよくほめられるととてもうれしい。
4・専門性が必要とする感じがする。
4・言葉かけの教示が大切であると思う。
4・学校に導入する際、職員研修で共通理解しあって、はじめはティーム・ティーチングで行うといいと思う。
4・機会があればやってみたい。簡単な方法なので。
4・このプログラム実施前に、気になる子供の心をほぐす必要がある。イメージの持たせ方、集団の雰囲気をどう作るか、言葉かけが難しそうだ。
4・なぜ、あの動作法がリラクゼーションになるのか、その根拠、メカニズムがしりたい。
2・ペアを作るところでつまずきそう。
2・利用法によっては少し危ない。
2・もう少し内容が理解できない。
2・学級の子供たちがどのような状態の時、効果的なのか。
2・人間関係がないので、急にすると驚くことがある。
2・二人組になることでストレスを持つ子がいる。まじめにやれない子はどうするのですか。
2・ストレスは解消しなければならないものなでしょうか。こどもたちはリラックスしすぎた生活をしているように思う。
1・やる前とやった後では、効果が感じられなかった。

[人間関係を深める授業]
5・自分の欠点を別な側面から考えたり、肯定的メッセージをもらえたことは、とても自分が好きに思えてきた。
5・このプログラムは是非取り入れていきたい。学級にいい雰囲気をもたらす。
5・クラスの雰囲気がある程度できていると、とても効果的な方法。
5・以前「友だちいいとこ見つけた」をした、学級が良くなる手応えを持っている。
5・学級開きや集団作りに最適だと思う。
5・クルーピングさえうまくできれば、とてもおもうれしい。
5・一生懸命やることで、一人の子を大切にもしろい課題である。
5・周囲から支持されたり、共感されるととてしてもらっていると伝わるのではないでしょうか。
5・新年度の学級集団作りに使えそう。
5・十分時間をとりたいプログラムである。
5・人間関係が良い方向に向かっていくと思う。
5・普段はっきり言えないことをゲーム感覚でできる良さがあると思う。
4・人の良いところを素直に認めることができるのに驚いた。
4・人間関係づくりの場の提供に有効的である。
4・人間関係がある程度あると有効である。
4・自尊感情を育てられるプログラムであると思う。
4・継続すると効果が期待できる。
4・捉え方、見方の大切さを感じさせられる課題である。
4・このブログラムが導入できる学級作りが大切である。
2・相手に応答できないときのストレスが大きい。
2・事前にある程度子供たちが訓練をしていな  いと難しいと思う。
2・他人におべっか使うようで、少し、抵抗があった。
2・実際やってみて気分は良かった、思春期の子が素直にやれるかどうか心配があります。
2・高学年では男女混合では、「好きです」とは言えないのでは。
2・悪ふざけをする子供がいるときは、難しいのでは。
2・言い換えは少し難しい感じがした。
2・パスされることで傷つき子がでるおそれがあるのでは。
2・相互に理解し合い、心の中を覗き合うことで、親和的な人間関係を作ろうとされていると思うが、そのような人間関係を学級に作ろうとすることに問題があるのでは?
2・うまく話せない子は抵抗があるのでは?
2・学級が崩壊しているクラスでは実施は不可能。

[いじめ防止授業]
5・このスキンシップこそ「いじめ防止」に繋がる秘訣だと思う。
5・ペア学習は興味深い、是非取り入れたい。
5・手話体験等で、身体表現の効用についての気づきがありました。
5・ゲームとして学級に取り入れて、学級作りには効果があると思う。
5・場面設定を考えれば、大人用の人権啓発プログラムを作るのにも良い課題である。
5・コミニュケーションの豊かさが大切であることが分かり、人間関係の希薄ムードを克服のきっかけになるのではないでしょうか。
4・ゲーム感覚で取り組めると思う。
4・なんとなく伝わるもんだなと思った。
4・否定されているか、肯定されているかという部分が感覚的に感じ取れて、自分の行動の仕草を見つめ直すのによいと思う。
4・あまりねらいがわからないが、クイズ感覚で楽しく取り組めそう。
4・非言語的コミニュケーションをとるのに良い機会だと思う。
2・もうすでに荒れているクラスに実施するのは、難しい。
2・よく分からない。
2・小中学生には少し、難しい。大人もこれだけの動作で物事を伝えることは、難しいが、触れあいの取り組みはいい。
2・やや難しい。体に触れること自体、人間関係ができていないと抵抗がある。
2・内容が理解できないが、触れる、触れられる関係ができるクラスはいじめが少なく、また男女の仲が良いので、このプログラムが実施できるクラスは問題がないでしょう。
2・言葉でなく伝えることは難しいが、相手の気持ちは外からの力や態度で何となく分かった。
2・雰囲気作りが難しい。
2・出すイメージは決まっているのでしょうか。イメージによって実習効果が難しいですね。
1・友だち同士の人間関係の様子に常に気をつけることが必要。このプログラムがどう「いじめ防止」つながるのか全く理解できない。

[アサーション授業]
5・悩んでいる子供の多くは対人関係である。このプログラムはとても有効である。
5・大変効果の期待できるプログラムである。
5・人間関係を言語的にうまくコントロールしていく力がつきそうだ。
5・ロールプレイは注意して実施しないと、傷を付けてしまうことなる。しっかり、教師が訓練すると大変効果がある。
5・言葉使いで平気で心を傷つけてしまう子が多い今日、このようなスキル学習はとても効果があると思う。
5・導入で、なぜこのような学習が必要なのか、きちんと説明して実施することが大切、効果はとても期待できると思う。
5・人間関係を豊かにするのにはとても良い学習。
5・対人関係に不安を持つ生徒が多い。是非生徒指導の観点から取り入れたい。
5・5年生のクラスで実践しました。子供たちの反応はとてもよく、またやろうよと言っていました。また、日常生活に生かしていこうとしていました。「場面設定は、掃除をしない子にどう声かけるか」でした。
5・是非やってみたいプログラムです。
5・道徳の流し方とにていますが、再度ロールプレイをするところは、道徳の内面的価値に気づかせるところだと思いますが、実際、体験させることは効果的ですね。
5・今回のプログラムの中で、最もやってみたい内容。観察者が、第3者的に双方の立場に立って感じ取ることはとても良い。
5・自分の行動を振り返ることができる興味ある。取り組みだと思う、じっくりどんな物であるか体験したかった。
5・アサーションがすごく必要だと思いました。なぜなら対人関係では、自分を押さえ、いつも他人を優先して泣き寝入りしているパターンの子がいるからです。私も変われそうに思いました。
4・確かに人間関係が円滑に言っている子は、このようなスキルを持っていると思う。
2・対人関係を円滑にしていくためにはとても身につけていく必要なスキルである。しかし、すこし難しい感じがする。
2・今の子供たちは表現不足を感じる。多様なイメージを持てるだろうか。

いじめ防止授業では、肯定的感想が11人、否定的感想が9人であった。肯定的感想では、ふれあう大切さを実感することこそいじめ防止につながるといった意見や非言語コミュニケーションの意味を考えるのに有効という意見が多かった。一方、否定的感想には、いじめ防止とメッセージを伝えるワークの関連がわからないという意見が多かった。  アサーション授業では、肯定的感想が15人、否定的感想が2人と、圧倒的に肯定的感想が多かった。平気で人を傷つけてしまう子どもが多いことを実感しているようで、是非やってみたい授業との意見が多かった。主な理由としては、一つには、現在の児童生徒が対人関係の適応に問題を抱えており、具体的場面を通して、体験的に学べることがあげられる。二つ目に、スキル学習がきわめて問題解決的で現場の教師になじみやすいこと。三つ目には、教師の授業スタイルと類似していて、問題場面に対してねらいが明確で、わかりやすく展開できることがあげられる。  実は、4つの授業案は、すべて関連しており、「自己コントロール」と「人間関係のための自己表現(人間関係づくり)」の2つの要素から成っている。ストレスマネジメント授業は、自己コントロールの側面が強調されているが、ペア・リラクセーションにより援助体験という人間関係づくりを促進できる。人間関係を深める授業は、まさに「人間関係のための自己表現」を促す。しかし、集団の中で緊張していては思うように表現できないので、リラクセーションなどの自己コントロールが前提条件となる。いじめ防止授業のメッセージを伝えるワークは、メッセージが快・不快といった感情を引き起こすことを体験的に学ぶし、それは、アサーション訓練に結びつく。落ち着くだけで、攻撃的な表現からアサーティブな表現ができることを体験することができる。


4 ストレスマネジメント教育と構成的グループエンカウンター

 ストレスマネジメント教育が「自己コントロール」の育成をめざしているのに対して、構成的グループエンカウンターは、人間関係づくりの育成をめざしている。この両者が心の授業の中心的な技法と理論であるため、この2つを比較し、それぞれの長所と短所を整理したい。表2は、ストレスマネジメント教育と構成的グループエンカウンターの比較を森田勇がまとめたものを筆者が加筆したものである。 構成的グループエンカウンターが育成モデルに依拠している一方、ストレスマネジメント教育は治療−育成モデルである。ストレスマネジメント教育は、授業で実践する技法そのものを個人に活用できるため、傷ついた子どもや問題を起こした子どもへの教育相談に活用できる。ただし、構成的グループエンカウンターでも、課題によっては、個人に活用できる場合もある。例えば、内観やコラージュを集団で行い、それをシェアリング(それ ぞれの体験を発表しあい気持ちを分かち合うこと)するような場合である。内観やコラージュはもともとは個人療法であるので、個人で行うことができるのは言うまでもない。 ストレスマネジメント教育と構成的グループエンカウンターのそれぞれの利点を統合すると、「集団の中で行う課題は個人課題を中心とし、その課題を遂行達成するためには、他者からの賞賛や励ましやフィードバックが強力な推進力になる」との考え方である。個人課題とは「生きる力」のもととなる課題であり、つぎに述べる。


表2ストレスマネジメント教育と構成的グループエンカウンターの比較                      
 (作成:森田勇・冨永良喜)

観点 ストレスマネジメント教育 構成的グループエンカウンター
モデルと
対象
・治療−育成モデル
・幅広い対象
・個人でも集団でも
・問題が起きての即時対応が可能
・育成モデル
・健常者対象(抵抗の強い人や病理性の高い人は困難)
・集団のみ
・問題対応にはなじまない
基本的な
ねらい
・安全感・安心感の体験
・ストレスの自己管理
・集団体験を通したリーレーションの促進
(oneness,weness,I-ness)
目指しているもの ・集団で行いながら個人に働きかけ、小唄的にストレスをセルフコントロールできる個の確立を支援 ・課題を通して集団に働きかけながら触れ合いのある人間関係を形成し、個人の成長を支援
技法 ・リラクセーション技法
・イメージ技法
・動作法
・呼吸法
・集団体験療法の教育的応用でグループアプローチの一形態、概ねカウンセリング諸理論の技法が使える
(折衷主義がベース)。
からだのとらえ方 ・からだには「生き方」があわられている ・人間関係を促進するための実在
体験内容 ・自尊感情・自己肯定感
・自体慈愛感・自体操作感
・共感・共動作感
・自己効力感・自己努力感
・自己存在感
・自体感
・自己受容(自己肯定感)
・自己理解(自己覚知)
・他者理解(他者受容・傾聴訓練)
・信頼体験
・感受性の促進
・役割遂行(自己有用感)
その他の特徴 ・運動会・音楽コンクールなどの集団競技に活用できる
・短時間で実施可能
・時や場所、置かれている自分の状況に応じて、自分の意志で平易にできる。
・発達段階に応じた導入は必要であるが、体験ワークは共通。
・指導者は体験し研修すること
・個人内体験思考
・課題に対する抵抗が少ない。
・遠足などの行事やお別れ会などで活用できる
・新しい学級経営に効果的


・発達段階に応じたエクササイズの開発・選択・構成が必要
・指導者は集団体験し研修が必要
・反知性(解釈なしあるがままの自己表出)
・課題に対する抵抗への配慮


5 学校教育の中での「心の授業」の位置づけ

 子どもの「生きる力」を育むために、文部省は2002年から総合的学習の時間を導入する。生きる力は、「自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また自らを律しつつ、他者とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性」と定義されている。生きる力の定義を読めば、それがLazarus and Folkman(1984)のストレスモデルの問題焦点型対処について述べていることがわかる。問題焦点型対処とは、情報を収集して問題の所在を明らかにし、問題そのものを解決しようとする試みである。しかし、問題焦点型対処が機能するには、情動がある程度安定している必要がある。「落ち着くとストレスが脅威としてではなく解決すべき問題としてとらえることができる」からである。 ところで、総合的学習の具体的実践例としては、情報、国際理解、環境、福祉・健康の4つがあげられている。もちろん、この4つは生きる力には欠くことのできない体験である。しかし、環境問題に取り組む時も、国際理解を深めるためにも、まず自分と向き合うことが必要となる。いらいらした、しんどい心身の状態では、ものごとに取り組めないからである。だから、自分のストレス反応に気づき、望ましい情動焦点型対処を習得することが必要となる。いま、教育課程にもっとも導入しなければならないのは、ストレスマネジメント教育などの心の授業である。文部省は「自分をみつめる」といったテーマで「自己活動」を総合的学習の中に明確に位置づけてほしい。


文献
兵庫県心の教育総合センター(1999) 心の教育実践研究 第1号 兵庫県心の教育総合 センター発行
國分康孝(1992)構成的グループ・エンカウンター 誠信書房
Lazarus and Folkman (1984) Stress, Appraisal, and  Coping. Springer Publishing  Company,Inc., New York 本明寛・春木豊・織田正美訳「ストレスの心理学−認知 的評価と対処の研究」実務教育出版
成瀬悟策(1995) 臨床動作学基礎 学苑社
冨永良喜(1999a) 心の教育とストレスマネジメント教育 『動作とイメージによるスト レスマネジメント教育 展開編』 1-20 北大路書房
冨永良喜(1999b) いじめ防止教育とストレスマネジメント教育 『動作とイメージによ るストレスマネジメント教育 展開編』 39-58 北大路書房
冨永良喜・山中寛(1999) 動作とイメージによるストレスマネジメント教育 展開編  北大路書房
山中寛・冨永良喜(2000) 動作とイメージによるストレスマネジメント教育 基礎編  北大路書房
山田良一(1999) アサーショントレーニングとストレスマネジメント教育 『動作とイメ ージによるストレスマネジメント教育 展開編』 69-80 北大路書房

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