3 スクールカウンセラーの先生に期待すること−専門治療施設の現場から−
                             県立清水が丘学園 治療課長補佐 八木修司

1)清水が丘学園について
 清水が丘学園は情緒障害児短期治療施設です。スクールカウンセラーの方々で知らない方もおられますので、簡単に学園を紹介したいと思います。対象年齢は小学校1年生から18才まで(場合により20才)です。入所治療と通所治療が中心です。問題で言いますと、圧倒的に不登校が多いですが、摂食障害や虐待のケースなども増えていますね。治療スタッフは、精神科医1名、心理治療士6名(うち5名が臨床心理士)、看護婦1名、児童指導員12名です。他の専門機関と較べて、スタッフは潤沢ですね。国の配置基準よりも加配されています。なぜかと言えば、学園は早くから不登校問題に着目して、外来治療や電話相談、家族療法を行いました。児童福祉施設に付加価値をつけることでスタッフが増えたのです。学園では、個別治療(子どもの心理治療、保護者の心理治療)を核にして、グループワークや親の自助グループ治療、学校や地域へのケースワークや進路指導など多角的にやっています。これで良しと満足していません。ケースにとって必要なことはどんどん取り組んでいきたいと考えています。

2)スクールカウンセラーだから出来ること
 不登校やいじめ問題などに関して、スクールカウンセラーだから出来ることは多いですね。まず、子どもの学校生活に直に触れ合いながら診れるという点がメリットです。これは外部の専門機関では出来ません。学校場面での子どもの実際の有り様を診て、そこにメスが入れられる。メスと言いましても、小さいメスと大きいメス、必要に応じて色々とあるわけですが、スクールカウンセラーの場合は、早期にチェックが出来て対応できるので、比較的小さいメスで問題を解決できるのではないでしょうか。教師とのうまい具合の連携で「今、ここで」の対応が出来るわけです。私達のところに来る子ども達、例えば不登校の場合、休みだして数カ月は経っているのです。ようやく専門機関に来たことで安堵して、方向性を見いだすケースもありますが、私が診ていて、もっと早期にアプローチすることで治療効果のあるケースが多いですね。是非、スクールカウンセラーには予防と初期的な治療をお願いしたい。学校での取り組みで不登校が解決するに越したことはないですね(私は、初期的な治療において不登校問題の約半数は解決するのではないかと思っています)。
 それから、スクールカウンセラーは身近な立場で教師や保護者にアプローチ出来るのが大きなメリットだと思います。特に、子どもの心の問題に対して教師自身が不安が高まることがあります。上手にアトバイスしてあげて、教師の自信をつけさせることもSCの大切な仕事だと思います。スクールカウンセラーは、学校内では『黒子』のように動くのが良いのではないでしょうか。教師がうまい具合に児童生徒やその保護者を支援する(それが教師の自信になる)、そのために、スクールカウンセラーが主役ではなく脇に回って支える、それが一番良いのではないでしょうか。
 さて、学校で出会うケースは、不登校やいじめのケースだけではありません。虐待のケースも多いのではないですか。それもネグレクト(養育放棄)のケースですね。教師自身が「あんな親ではだめだ」と思うこともありましょう。治療場面で臨床心理士も逆転移に陥ることもあります。それと同様ですが、学校現場ではもっと複雑で大変な事態であると思ってあげて下さい。スクールカウンセラーが冷静な目を持って、学校で何が出来るかを教師とともに考えてあげて欲しいと思います。

3)スクールカウンセラーに必要なこと
 スクールカウンセラーに関する学校関係者のアンケート結果を見ました。一見、アンケートは良い結果が返ってきているように思えます。しかし、「まあまあ役立っている」といった曖昧な返答が多いなあと思いました。厳しい言い方になるかもしれませんが、本当に役立っているのだろうかと感じました。スクールカウンセラーは、子ども達や教師や保護者にとって、まだまだ不思議な存在です。期待はしているものの、様子を見ている段階だと思うんです。
 では、スクールカウンセラーが学校で役立つためには何が大切でしょうか。やはり、ケースの診立てがしっかりできることでしょう。子どもの発達、性格、環境の問題などを総合して、問題の所在を診る力を養うことが大切となりましょう)。また、その診立てをもとにして、子ども自身や保護者、教師に具体的にどのように乗り越えるか、特に教師には、どの様に支援するかの手だてを分かりやすい言葉で伝えることです。分かりやすく伝えるというのは、実はすごく大変なことで、そのためにはかなり努力が必要ではないかと思います。スーパービションを受けたり、事例報告をしたり、研鑽することが何よりも大切であると思います。
 また、スクールカウンセラーだけでは難しいケースもあるでしょう。各種専門機関とうまい具合に連携することが大事です。実際にケースに携わると、医療面でのケア、福祉面でのサポート(保護者の問題などから)も必要なことが多いです。包括的な支援策を考えなければなりませんからね。

4)学校へ行けない(行けない)子ども達の育つ「場」の提供
 学校に行けない(行かない)子ども達は、ずっと一人で過ごしたいと思っていません。出来れば、同世代の友達を得たい、かなわなれけば、理解してくれる大人と出会いたいと思っています。スクールカウンセラーが学校以外の場、子どもの心理的な発達促進が得られる「場」を一杯知っていて、うまいタイミングで提供してあげることも必要でしょうね。いろいろな「場」で子どもが育つのだという認識が大切なのです。具体的には、情短施設もありますし、適応指導教室、フリースクールもあります。スクールカウンセラーが様々な機関とのパイプ作りをしなくてはいけないでしょう。

5)おわりに
 最後に辛辣なことを少し─、スクールカウンセラーはこれまで外来臨床を中心にやってこられた方が多いのではないでしょうか。じっくりとクライエントの話に傾聴することも大切ですが、「学校」ではあまりに受け身的な心理臨床スタイルだと難しい。スクールカウンセラーは、子どもと保護者や教師、関係機関の繋ぎ役として、エネルギッシュに走り回ることがかなり必要だと思います。この点も十分踏まえて頑張って下さい。

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