4 教育行政の立場から
                     県立教育研修所 所長 辻重五郎

 昨年、須磨の事件があり、平成7年に震災がありましたが、震災以来、河合隼雄先生のお世話になり、県教委ではいろんな提言を受けながら具体的な施策を行ってきました。そのなかで、昨年の事件の後「心の教育緊急会議」を設置いたしまして、馬殿先生にもお世話になりながら、河合先生から国へ働きかけていただいたことが沢山ございました。また、これからの教育について、今の子どもたちを取り巻く環境を考えると、心の教育を取り上げなければならないということで、心の教育の専門的な機関として県立教育研修所に「心の教育総合センター」を設置いたしました。
 心の教育総合センターでは、兵庫教育大学教授の上地先生に所長、助教授の冨永先生に主任研究員ということで、週に6時間ずつお世話になっています。また、その時間以上のことをしていただいているのが現状です。センターは、このような教育状況の中で、大学の臨床を交えた研究と教育現場とをどううまくマッチングさせ、効果的な指導に結び付けていくかという大きな命題のもとに発足しています。このことは文部省も注目しており、兵庫県でこれを実験的に実施して成功すれば、全国的に大学との連携で教育行政もやっていけるというわけです。これから他府県でもこのような機関の設置が検討されるのではないかと思うのです。
 心の教育を考えるとき、やはりスクールカウンセラー活用の問題は避けて通ることはできません。スクールカウンセラーの先生には限られた条件の下で、大変なご苦労をお願いしているわけですが、この制度を一層充実したものにするため、おおいに研究を深めていただき、スクールカウンセラーの効果的な面をおおいにPRしていかなければならないという課題のもとに、本日お集まりいただいた次第です。
 平成7年の震災のあと、いじめの問題で自殺等が騒がれたことがありました。当時、私は兵庫県教育委員会事務局義務教育課の課長職でしたが、その時期、県内でも表面にはでてこないまでも、かなりの問題をかかえておりました。そのような状況から、震災の後、国のいじめ対策の一つの具体的な施策としてスクールカウンセラー制度ができました。平成7年に制度ができたのは、いじめ対策だけではなかったのですが、それが主な目的です。国では141校のスクールカウンセラーの予算つけました。大きい県も小さい県も一律に1県3校というのが当初の計画でした。しかしなにしろ、学校というところは外部の人(スクールカウンセラー)に入ってもらうということに大変な抵抗感がございます。また、そのように行政も思っておりました。ですから「うっかりスクールカウンセラーに学校に入ってもらったら大変なことになる。スクールカウンセラーという専門家がどこにいるのか分からない。」ということもあり、スクールカウンセラー配置を遠慮する都道府県もありました。しかし、兵庫県は震災のあとで「心のケアの問題が大切だ。」というで、大いに国にスクールカウンセラーの配置を要請しましたところ、兵庫県だけ特別に16校の配置で、16人のスクールカウンセラーにお世話になりました。
 それ以来、国は兵庫県に注目いたしまして、兵庫県におけるスクールカウンセラーの活用について、ひとつのモデルとして全国に広げていこうという考えで、それ以後も、8年度には30校、9年度には65校を配置しました。いずれも全国一番です。本年度は、スクールカウンセラーの先生のご尽力のおかげで、配置校111校という実績として表れてきました。兵庫県では小中高あわせて約1500校ございますが、一割弱という学校に配置しているという現状でございます。
 したがいまして、先ほども馬殿先生の提言にもありましたが、スクールカウンセラーの先生にお願いをしたいことがございます。第一は、スクールカウンセラー活用の研究調査委嘱事業でので、スクールカウンセラーが学校に配置されてどのような効果があったかを報告しなければいけないわけです。今回のアンケートを読ませていただくと、限られた条件下でさまざまな工夫をしていただいているということで感激しているわけですが、それによってどのような効果があったかということが非常に大きく問われます。
 過日、文部省に行っておりました時、中学校課長と「兵庫県さんは、スクールカウンセラーを何人でもください。」と言われるという話になりました。兵庫県の場合は臨床心理士会から大変なバックアップをしてもらい、最大限の御協力を頂き、多くの方にお世話になっているわけですが、他の都道府県ではちょっとそうはいかないようです。しかもその課長は「兵庫県はスクールカウンセラーさんを出来るだけ多くお願いしたいと言われるが、国が予算を切ったらどうなりますか。いつ切れるかわからないですが、そのあとは県でなされるのですね。」と念押しされました。要は、立ち上げは国の方で支援するが、その後は、県なり市郡町でお願いしますよ、ということです。そこのところは、私自身もちょっと自信がないところでしたが、ただそれだけの効果があればというか、スクールカウンセラー制度の有効性が認められれば、県での制度化も可能かと思います。地域、学校、保護者が「スクールカウンセラーの活用を通して心の教育に取り組まなければならない。」ということになれば、スクールカウンセラー制度も県の施策としても可能になると思います。
 スクールカウンセラーの配置についてのアンケートの結果、学校長の意見では「是非、必要だ。」というのが86%ございましたので、私たちも「スクールカウンセラーは必要である。」ということはよくわかるのですが、制度化のために予算取りをしていこうとすれば「こういうことだから必要である。こういう効果がある。」と言わなければ事態は良い方向には進みません。「具体的にこれだけの効果がある」ということを積み上げなければなりません。スクールカウンセラーの有効性を表現するにはどうすれば良いのかは大きな課題になっております。そういう点、皆さん方に実践の報告を頂いたりしながら、スクールカウンセラーの活動のPRをしていかなければならないと思います。
 第二は、アンケートの結果を見せていただくと、様々な工夫をし効果的な対応をしていただいていることが良く分かりまが、この委嘱事業の「調査研究の内容」として2つの項目がございます。ひとつは「児童生徒の問題行動や学校不適応その他の生徒指導上の諸課題に対する取組の在り方」が一つです、もう一つは「児童生徒の問題行動等を未然に防止し、その健全な育成を図るための活動の在り方」です。先ほども話にでておりましたが、予防的、開発的カウンセリングのことがあがっているのです。このことは大きな課題ではないだろうかと思うわけです。予防的開発的なカウンセリングが、心の教育の必要性と相まって、スクールカウンセラーの活動の中味になっていくのではないかと思います。このことは、アンケート結果を見まして、様々な取組がなされていることを改めて知りまして、大いに参考にさせて頂きたいと思いますが、一層この領域が充実すれば、学校における教育そのものも変わってくるのではないかと考えています。学校や教師にもどんどん新しい風を吹き込んでもらいたいと思います。
 第三に申し上げたいことは、学校や教師との連携強化ということでございます。これは生意気なことを言うようですが、昨年度の臨床心理士認定試験の問題の一つに「スクールカウンセラーのリエゾン的機能について」という問題があったと聞きました。私は「リエゾン」という言葉さえ知りませんでしたので、調べてみますと、皆さんもご存知のように「一つの専門領域を代表して、他の専門領域に援助的に関わり、両方の専門領域のコミニュケーションを図る役割」ということで、簡単に言うと「専門的な連携役」ということで理解いたしました。「これは大事である。」と思いました。学校や教師の方もリエゾン的に皆さんに接していかなければならないと感じましたが、まさにこのことはスクールカウンセラーにお世話になることでもある、ということを改めて思ったわけです。今後、その方法やご意見などを参考に、皆様方、情報交換をしていただいて、そういった面の連携強化をひとつよろしくお願いしたいと思います。
 あと少しお願いしたいことがございます。どの職業や職場でも特有の風土というか職業文化がありますが、学校という職場文化も特有の文化なのではないかと思います。スクールカウンセラーの皆さんには、場合によってはある種のカルチャーショックを味合われたのではないかとおもいますが、学校の教師も、それぞれいろいろな思いの中で頑張っていますが、スクールカウンセラーに入っていただくことに、ひとつのカルチャーショックを受けています。外部から入っていただくことに、学校側、受け入れる側には暗中模索もあり、教師には心の葛藤もございます。学校の管理職として、受け入れをどうしていくかはこれからの大きな課題ですが、先ほどもお願いいたしましたけれども、効果をあげるには、よほど学校との連携を密にして、ことばが通じるあえる間柄でないといけないと思います。この点をひとつよろしくお願いいたします。
 私は中学校で教えておりましたが、教師は理論的な裏付けだけでなく、経験による「カン」といったもので生徒指導も行います。長年の生徒指導からでてきた「カン」は、それなりに多くの経験を経ているので間違ってはいないのですが、それに対する心理学的、専門的な面での裏付けで弱いところがあります。その自覚があるからでしょうか、私どもの研修所でカウンセリングの講座を持ちますと、募集の倍ほど応募があります。このように、教師が心理学的な専門性に渇望状態にある現状で、皆様方にスクールカウンセラーをお願いしているわけです。ですから、今後とも臨床心理学、カウンセリング心理学が学校の中へ取り入れられるよう、専門的な立場で力をお貸しいただけたらと思います。
 さらには、スクールカウンセラーと教師が具体的に連携していくためには、教師の側に皆さん方の理論的背景である臨床心理学やカウンセリング心理学の領域を少しは理解した者を増やしていかなければならないと思います。学校の中で、教師による教育相談や学校カウンセリングが行われており、教師達の手に負えないケースは皆さん方のご指導を受けたり、直接見ていただいたりするような体制が必要であると考えています。また、そのような教育相談や学校カウンセリングの経験のある教師が、皆さんと教師集団や児童生徒、さらには保護者とのコーディネーター役として機能していくことが重要だと考えています。現場の教師とスクールカウンセラーの間をコーディネートできる「教師カウンセラー」を育てていくのも課題ではないかと思っておりますので、ひとつよろしくお願いいたします。

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