V 校長・教頭へのアンケート結果の分析
−スクールカウンセラー活用の実態調査研究−

 平成7年度より,わが国の文部省が実施に踏み切った「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」は,その後の本事業の拡大にともない,着実に学校現場へ浸透しつつあるように見受けられる。ただし,本事業が拡大されつつあるとは言え,平成10年度の現時点において,スクールカウンセラーが配置されている全国の小・中・高等学校の総数は1661 校に過ぎない。今後全国のすべての学校へスクールカウンセラーが完全に配置されるかどうかについては,現在のところ全く未定である。今後の進展の鍵は,ここ数年間の本事業の成果いかんにあるとの見方が妥当であろう。
 果たしてスクールカウンセラーは,教師と同じように,これからの学校に欠かせない専門家なのかどうかと言う問題である。米国の学校では,スクールカウンセラーが教職員の一員として完全に定着しているのが現状である。わが国において,今まさに学校現場へのスクールカウンセラー制度の本格的導入が真剣に検討されている段階にあると理解している。この意味から,現在学校現場へ派遣されているスクールカウンセラーの活用の実態とその成果に関する評価は,重要な課題である。つまり,スクールカウンセラー制度がわが国の学校へ確実に定着するかどうかの方向が,本事業のスクールカウンセラー活用の実績いかんに大きく左右されることに間違いないからである。このような重大な課題意識の下に,本調査研究を立案し実施した。

1 調査目的

 本調査は,スクールカウンセラー活用についての学校側の評価を目的として実施した。専門家としてのスクールカウンセラーの活動は,教師や生徒および保護者,つまり学校にとって本当に役に立っているのか。役に立っているとすれば,どのような活動が役に立っているのか。また,スクールカウンセラーに何を期待し,スクールカウンセラー制度の今後のあり方を学校側はどのように考えているのか。さらに,スクールカウンセラーの活動を促進するために学校側として配慮すべき課題は何か。受け入れ側として改善すべき,あるいは反省すべき点があるとすればどのようなことか。等々の内容の調査をおこなった。つまり,現在各学校へ配置されているスクールカウンセラーの日頃の活動に対し,学校側がどのように評価しているのか,具体的かつ客観的に明らかにすることが本調査研究の目的である。これまでスクールカウンセラーを対象にした,カウンセラー本人が評価した活動の実態に関する調査報告はいくつか公表されている。しかし,受け入れ側の学校がおこなった評価に関する資料は,比較的希少である。このような理由から,本調査研究の意義は十分あると考える。

2 調査方法

(1)調査対象校と回答対象者
 平成10年度にスクールカウンセラーが配置されている,兵庫県下の78校の全校を調査対象校として実施した。その校種は,小学校20校,中学校45校,高等学校13校であった。また,調査の回答を依頼した対象者は,学校の管理責任者である校長職か教頭職の者に限定して実施した。なお,記載者については,職名の記載は求めたが,学校名と氏名に関しては匿名を原則とした。

(2)調査内容

 「スクールカウンセラー活用についてのアンケート」(P101〜P107を参照)を作成した。本アンケートの質問項目は,スクールカウンセラーの実務経験を有する2名の研究者を含む「心の教育総合センター」の4名のスタッフが慎重に検討した上で構成した。自由記述を含む質問項目はすべて独自に考案されたものである。

(3)調査時期と調査手続き

 調査時期は,平成10年8月から9月までであった。調査対象校の校長宛に依頼文書を同封の上,本アンケートを郵送して行った。なお,実施対象校の全校から郵送による回答が得られたので,本アンケートの回収率は100%であった。

3 調査結果の分析

 本アンケートの各質問項目に対する78校全校の回答の結果は,自由記述を含め,以下の結果の表(P19〜P38)に示したとおりであった。本アンケートの質問項目の配列の順序に従って調査結果を分析し解説することにする。なお,ここからはスクールカウンセラーをSCの略称で使用するので銘記しておいていただきたい。

(1)SCの勤務時間について

 現在,SCは週に8時間,決められた曜日と時間に勤務することが求められている。調査対象校の96%の学校において,「規則的に出勤し勤務している」実態が報告されている。また,SCが勤務している日時をどの程度の生徒や教師が知っているのか,については94%の学校において,「ほぼ全員が知っている」と答え,周知していることが明らかになっている。つぎに,SCの週8時間の勤務時間数については,「8時間が適当である」が57%で,「8時間では少なすぎる」が32%であった。そこで,SCの勤務時間数については,自由記述の内容も参考にすれば,現状の8時間では十分とは言えず,時間数を増やして欲しいとの要望が比較的強いことが理解された。

(2)相談室の整備について

 SCが勤務する学校の相談室の整備の状況と相談室の設備へのSCの満足度について学校側が評価した結果は,つぎのようであった。「十分」と「ほぼ」を合わせて「整備されている」と答えた学校が61%で,「満足していると思う」が66%である。一方,「整備が足りない」が39%で,「設備に不満があると思う」が33%となっている。この結果は,各校の相談室の整備は,現状においてかならずしもSCにとって満足すべき状態でないことが理解される。なお,どのような整備が不足しているのか,その具体的な内容については自由記述の回答を参照していただきたい。

(3)SCと学校側の連携の実情について

 まず,SCと教師を中心とした学校側との綿密な連携と連絡について,46%が「常にうまく保たれている」と答え,51%が「まあまあ必要に応じてとれている」と回答している。また,学外の専門機関とSCとの連携については,「連携がとれている」と答えた学校が55%で,学外との連携はかならずしも綿密な状況にあるとは断言できない。つぎに,SCからの学校側への積極的な働きかけについては,「積極的に働きかけている」が76%で,「教師集団へ溶け込んでいる」が90%と,大多数のSCが教師との協力関係を保つことに努力している実情がうかがえる。

(4)校内研修等へのSCの活用について

 カウンセラーの専門性を生かした校内研修等へのSCの活用についての質問では,「校内研修会の講師を予定している」が,「すでに実施した」を含めて82%と,比較的多くの学校がSCを講師として活用している。また,校内の事例研究会におけるSCの活用の状況については,「活用している」が66%であった。つぎに,担任がSCへ相談するコンサルテーションの体制については,60%の学校が「体制をとっている」と答え,「担任の自主性に任せている」が40%であった。一方,児童生徒を対象にしたSCによる講演会については,「実施した」と「予定されている」を含めても18%と,かなり学校数は少ない。保護者を対象にしたSCによる講演会については,「実施した」と「予定されている」を含めて57%と,半数以上の学校に達している。つづいて,道徳など特定の授業の内容について,SCからの助言を受けているかに対しては,「受けている」と「受ける予定である」を含めて19%と,かなり低い。現状では,授業等へのSCの直接的,間接的関与の機会はきわめて少ないことが推察される。

(5)SCの相談活動に対する学校側の評価について

 教職員の要望や期待に,SCはどの程度満足に応えているかについて,「十分に応えていると思う」と「ほぼ応えていると思う」を合わせて98%に達している。また,児童生徒の相談にどの程度応えているかとの質問へは,「十分」と「ほぼ」を合わせて「応えていると思う」の回答率は82%である。保護者への相談についても,87%が「応えていると思う」と答えており,いずれも多くの学校がSCの相談活動を高く評価している。
 つぎに,SCの活動によって「不登校」や「いじめ」の問題が減少すると思うかとの質問に対し,「大幅に減少すると思う」がわずかに5%で,「ある程度減少すると思う」が68%である。この結果は,SCが週8時間勤務の非常勤である等の条件を考慮した場合,正当な評価として受けとめてよいのではなかろうか。つづいて,学校行事等を通して,SCがどの程度積極的に児童生徒へ働きかけているかについては,61%が「積極的に働きかけている」と答えている。さらに,各学校の実情や教育目標および教育方針についてのSCの理解度を尋ねたところ,96%がSCの理解度を肯定的に評価している。

(6)専門家としてのSCへの信頼度について

 教師とは違うSCの専門性をどの程度発揮していると思うかについて,ほぼ全校の98%が「専門家だと感心する」と答えている。学校側が,SCを専門家として認知し,信頼を寄せていることが十分理解される。

(7)SCと養護教諭の役割分担について

 「不登校」や「いじめ」の指導において,両者の役割分担が決まっているかについて,「ある程度」を含めて「役割分担が決まっている」と答えた学校は76%である。SCと養護教諭との連携はとくに大切であるが,連携をうまくすすめるには,専門家としてそれぞれが独自の役割意識を持つことが前提となる。

(8)SCの継続的配置について

 今後さらに継続的にSCの配置を希望するかとの質問には,86%の学校が「強く希望する」と答え,勤務形態も非常勤ではなく常勤(フルタイム)でのSC配置を「希望する」が83%に達している。この結果から,学校側が常勤SCの配置によるSC制度の一層の充実を切望していることが理解される。

(9)その他について

 「教育委員会への要望や意見について」,「SCの研修の在り方について」,「その他,SCに関して」の学校側の回答内容については,アンケート結果の欄に自由記述形式で全校のすべての意見を紹介しているので,参照下さい。

4 考察    SC制度の定着化へ向けて   

 SC制度が導入されて4年目に実施したSCの活動に対する学校側の評価は,大旨上記の説明のとおりである。本アンケートの結果を参考に,今後SC制度がわが国の学校へ確実に定着するための課題について,若干の考察を試みることにする。

(1)学校側はSCの必要性を積極的に認め受け入れる態勢にある。
 教職員の組織の中に,新たな専門家が参入することに対し,各学校が前向きに歓迎する方面で動いていることが,本アンケート結果から明らかになった。これまで,事あるごとに学校の閉鎖的体質が指摘され批判されてきた。しかし,学校教育の危機の時代と言われる今日,この窮地を乗り越え学校の活性化を計るためには,外部の専門家の援助が不可欠との認識を多くの関係者が持っていることが理解される。ただし,現状のSCはあくまでも非常勤のお客さまとして,学校側へ歓迎されている事実もあながち否定できない。問題は,常勤のSCが教師と同等の立場でスタッフとして加わった時,新たな課題が生じることが推測される。この意味で,米国の学校並にフルタイムのSCが今後わが国に定着するためには,これからが正念場であろう。

(2)相談室の確保と整備が望まれる

 SCの活動を効果的に推進するためには,相談に訪れる児童生徒が精神的な安らぎを感じる,落ち着いた雰囲気の空間の確保が切に望まれる。わが国の学校には,教室と保健室以外に,児童生徒が比較的自由に出入り可能な居場所はほとんどないと言っても決して過言ではない。今や保健室のみに,児童生徒のストレス解消の場を求めるには無理が生じている。今後のSC制度の学校への導入を機会に,是非とも子どもたちの心を癒す憩いの場としての相談室の整備の充実が期待されるところである。

(3)SCと教師間の協力関係をさらに促進する必要がある。

 SCと教師の連携の現状は,十分とは言えないが,必要に応じてとれる状況にあると理解される。同様に,両者とも積極的に働きかけ合う親密な関係にあるわけではなく,ほどほどの関係を保っていると表現するのが妥当であろう。教師から見れば,SCはお客さまとの意識があることは確かなようである。しかし,今後SC制度の定着化に向けて,両者のより積極的かつ密接な協力関係の構築への相互の努力が望まれる。

(4)SCは校内の教育研究活動へも積極的に関与することが望まれる

 生徒指導研修会等の校内研修会の講師または助言者として,SCを活用している学校が比較的多い。同様に保護者対象の講演会の講師としても専門家としてのSCの活動が期待されている。現状では,年内に1,2回程度の校内研修会へSCが参加しているのが実情である。今後SCと学校へ期待される課題は,予防的カウンセリングの一環として,両者の協力のもとに,月1回のペースで事例研究会を定例化して実施することが望まれる。同時に,道徳の授業やホームルームの時間および学校行事等へもSCが積極的に関与し,「生きる力を育む心の教育」の実践を目標に,全校生徒を対象にした開発的カウンセリングの推進も,SCに期待される今後の重要な実践課題と考える。

(5)SCによる面接相談活動の一層の充実を計る必要がある

 SCの活動の本来の目標は,児童生徒と保護者および教師の悩みへの面接相談による支援にあることは言うまでもない。本調査結果から,その悩み相談へのSCの支援に対する評価は,「十分に応えている」状態までに達していないことが判明した。ただし,「ほぼ応えている」と答えた学校が半数を越しているので,全体的には肯定的に受けとめてよいと判断する。とくに「不登校」や「いじめ」の指導に当たっては,SCの支援は不可欠なだけに,個人的な面接相談の一層の充実が今後のSCの重点課題ではないかと考える。もっともこの現状は,限界のある非常勤SCゆえの課題でもある。常勤SCが学校へ定着すれば,とくに個人相談における支援が拡大されることは十分期待される。

(6)SCはカウンセリングの専門家であると同時に学校教育を担う一員である自覚が望  まれる

 SCをカウンセリングの専門家として,その力量を学校側が高く評価していることに異論はない。ただし,自由記述への学校側の回答の内容から理解するかぎりにおいて,カウンセリングの専門家であると同時に,学校教育へのよき理解者であって欲しいとの期待が強いことがうかがえる。SCの中には教職経験を有する専門家もいるが,このような教師兼カウンセラーの活動に対し,とくに肯定的に評価している。病院や学外の専門機関におけるカウンセリングは,治療中心にすすめられる。ただし,学校でのカウンセリングは,学校の教育目標に沿った広義の教育実践の一環として実施することが望まれる。そこで,とくに常勤のSCへは,今後カウンセリングの専門家であると同時に,教師と共に学校教育を担う教育者としてのもうひとつのアイデンティティを明確にする努力も期待する。

(7)養護教諭とのパートナーシップに努める

 将来常勤のSCがわが国の学校現場へ本格的に定着するには,何よりも全職員の理解を得なければ,その実現は望めない。とくに職種が近い養護教諭との密接な協力関係は欠かせない。子どもたちの保健教育の専門家として,すでに十数年の歴史と実績を積み重ねてきた養護教諭は,新参者のSCにとって大先輩に当たる大切なパートナーでなければならない。身体保健については養護教諭が,また,精神保健についてはSCがといった基本的な役割の分担があってもよいと考える。しかし,子どもの不登校や神経症の問題に関するかぎり,心身の症状の区別が明確でないケースが一般的である。それゆえに,両者のパートナーシップに則るチームワークこそ,これからのSCの活動をさらに促進する原動力ではないかと考える。

(8)わが国の全学校への常勤SCの配置の早期実現が望まれる

 現在SCの支援を受けている学校側は,SCの全般的な活動を肯定的に評価し,常勤のSCの配置を希望する学校が比較的多い事実が,本調査結果から判明した。その背景には,児童生徒の問題行動の多発化と複雑化および凶悪化の傾向が年々増えつづけている事態への,学校関係者の危機感があると理解される。また,学習指導や学校行事・および生徒指導で多忙をきわめている教師の対応に,限界が生じている現状も無視できない。まさに学校側にとってSCの支援を必要とする困窮の事態ではなかろうか。このようなわが国の学校現場の実情に即して,常勤SCの早期配置が切に望まれる。

まとめにかえて

 本調査研究によって,SCの活動は総じて学校側から肯定的に評価されていることが判明した。週8時間勤務の非常勤SCの活動成果の評価としては,上々と考えてよいのではなかろうか。また,学校側もSCの受け入れに対し,閉鎖的体制ではなく,柔軟な対応に努めている。
 「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」が発足して4年目の現在,本調査研究の結果から判断するかぎりにおいて,本事業による学校への支援は,それなりの成果を発揮し,学校教育実践の促進へ役に立っていることは事実である。今後は,全国の全学校へのSC制度の定着化へ向けて,学校とSCおよび教育行政関係者の新たな施策への取り組みが切に期待される。

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