X スクールカウンセラーへのアンケート結果の分析
                     −スクールカウンセラー活用の実態調査研究−

 本調査研究の目的は、兵庫県に配置されたスクールカウンセラーを対象として、「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」の現状とあり方を明らかにすることである。兵庫県は、阪神大震災を経験し、その年度から本事業がはじまったこともあり、全国都道府県の中でも最多のスクールカウンセラーが配置されている。平成7年度16校(全国141校)、平成8年度30校(全国506校)、平成9年度65校(加えて、神戸須磨少年事件緊急配置21校)(全国1065校)、平成10年度111校(全国1661校)である。スクールカウンセラーの意識調査をすることで、いま抱えている学校側に対する思いとスクールカウンセリングへの思いが明確になると考えられる。
スクールカウンセラー活用調査研究委託事業実施要領によれば、スクールカウンセラーの職務内容として、スクールカウンセラーは、校長等の指揮監督の下に、概ね以下の職務を行う。

 @児童生徒へのカウンセリング
 Aカウンセリング等に関する教職員及び保護者に対する助言・援助
 B児童生徒のカウンセリング等に関する情報収集・提供
 Cその他の児童生徒のカウンセリング等に関し、各学校において適当と認められるもの

また、調査研究内容は

 @児童生徒のいじめや校内暴力等の問題行動、登校拒否や高等学校中途退学等の学校不適応、その他生徒指導上の諸課題に対する取り組みの在り方
 A児童生徒の問題行動等を未然に防止し、その健全な育成を図るための活動の在り方に関わる実践的な調査研究を行う(学校臨床心理士ワーキンググループ、1997、「学校臨床心理士の活動と展開」)。

調査研究内容が、登校拒否やいじめなどいままさに生起している不適応行動への対応と、それらの行動を未然に防ぎより健全な心の育成といった予防的対応の2点であるため、本調査も、この2点を視点に内容を構成した。

1.調査目的
 本調査は,スクールカウンセラー活用についてのスクールカウンセラーからの評価を目的として実施した。
 調査項目は、以下の通りである。

 T勤務形態・勤務時間
 U相談室の設備
  設備はどうか、どのような備品が必要か、どのような心理テストを活用しているか、職員室に机があるか、全校朝礼でのあいさつ、カウンセラーたよりの発行の現状などについて回答を求めた。
 V相談活動の内容
  相談活動の実際を児童生徒・保護者・教師の相談コンサルテーションの実際について尋ね、さらに予防的取り組み、相談体制について回答を求めた。また、兵庫県は、震災と事件と危機に遭遇したので、その危機状況でのスクールカウンセラーの役割についても回答を求めた。
 W学校との連携
  教師集団に理解されていると思うか、また、養護教諭とのかかわり、守秘義務について回答を求めた。
 X今後の在り方
 最後に、スクールカウンセリングの今後の在り方について、自由記述を求めた。

2.調査方法

 1)調査対象校と回答対象者
 平成10年度のスクールカウンセラー配置校88校に配置されているスクールカウンセラーを調査対象者とした。複数校を担当しているスクールカウンセラーには、勤務している全ての学校での実態を回答してもらうよう依頼した。その校種は,小学校20校,中学校45校,高等学校13校であった。

 2)調査内容
 「スクールカウンセラーへのアンケート」(P108〜P115を参照)を作成した。本アンケートの質問項目は,スクールカウンセラーの実務経験を有する2名の研究者を含む「心の教育総合センター」の4名のスタッフが慎重に検討した上で構成した。自由記述を含む質問項目はすべて独自に考案されたものである。

 3)調査時期と調査手続き
 調査時期は,平成10年8月から9月までであった。調査対象校の校長宛に依頼文書を同封の上,スクールカウンセラーへ本アンケートを配布してもらい、回収については、スクールカウンセラーから心の教育総合センター宛の同封した封筒で投函してもらった。なお,本アンケートの回収率は80%(88校中70校)であった。

3.調査結果の分析

 本アンケートの各質問項目に対するスクールカウンセラーの回答の結果は,自由記述を含め,以下の結果の表(P45〜P100)に示したとおりであった。本アンケートの質問項目の配列の順序に従って調査結果を分析し解説することにする。なお,ここからはスクールカウンセラーをSCの略称で使用するので銘記しておいていただきたい。

 T配置の形態と勤務時間について
 SCの週8時間の勤務時間数については,「8時間が適当である」が44%で,「8時間では少なすぎる」が35%であった。これは学校側へのアンケート結果ともほぼ一致しており、SCの勤務時間数については,現状の8時間では十分とは言えず,時間数を増やして欲しいとの要望が比較的強いことが理解された。

 U相談室の整備について
 相談室の整備の状況と相談室の設備へのSCの満足度の結果は,つぎのようであった。「十分」(10%)と「ほぼ」(43%)を合わせて「整備されている」と答えた学校が53%で,「やや整備が足りない」と「まったく不整備」を合わせて45%であった。この結果は,各校の相談室の整備は,現状においてかならずしもSCにとって満足すべき状態でないことが理解される。なお,整備が不足の内容については、冷房設備の不備や部屋の広さといった環境についてのことと、本やぬいぐるみなどのカウンセリングに必要なものがあげられている。また、設備でよかったものとして、畳、ジュータン、冷暖房があげられており、学校の中の心の居場所として、リラックスできる空間の必要性が指摘される。
また、活用している心理テストとしては、バウムテストが最も多く(45%)、次いで、エゴグラム(16%)、YG(12%)であった。ゲームは、囲碁将棋、オセロであり、TVゲームは持ち込み以外はまったくなかった。
 SCの91%が職員室に机をもっていた。9%が「ない」と回答しているが、このことは、学校側がスクールカウンセラー活用の主旨を十分理解していないためか、SCが要求しなかったためかのどちらかであろう。また、全校集会でのSCの自己紹介を84%が行っている。数分の間に、児童生徒の心に届く言葉を発するのは、SCの技量であろう。その内容は参考になる。カウンセラーたよりは、36%が発行していると回答した。待ちの姿勢を重視するカウンセラーは、自らをアピールすることに慣れていない。教師集団が、朝礼で、「今日はSCが来ていますよ」とアナウンスするだけで、児童生徒の相談意欲がでてくる。相談することは勇気がいることを考えれば、そういった機会を数多く提供することも、SCの仕事のひとつであろう。

 VSCの相談活動について
 (1)現任校の現状:現任校の現状については、震災の被害が非常に大きかった(13%)、かなり被害があった(16%)で29%が被害を受けていた。

 (2)相談の現状:相談の現状については、児童生徒の相談は、@不登校・不登校傾向 A人間関係 B進路学習と続く。配慮していることは、「相談のないときはドアを開けている」「担任と連絡を取り合う」「教室で給食を食べる」など、相談室を開放的にし、かつ、相談室を拠点として、教室や学校の場を出合いの一部と考えているSCが多い。教師へのコンサルテーションは、@不登校・不登校傾向 A人間関係 B進路学習と児童生徒の相談内容と変わらないが、不登校のコンサルテーションが圧倒的に多い。配慮していることは、「先生方の教育観に畏敬の念をもつ」「相談のないときはなるべく職員室にいる」「教師の見ている視点を大切にする」「教師の主体性を尊重する」など、教師の教育にかかわる専門性を尊重する視点がもっとも多かった。保護者への相談は、@不登校傾向 A人間関係 Bしつけ子育て の順であり、配慮することは「充分に話を聞く」、「学校批判などは秘密保持する」、「学校とのつなぎ役をする」であった。

(3)予防的な働きかけ:予防的な働きかけに関しては、運動会・文化祭など行事参加を積極的にしているものは、非常に積極的(11%)、どちらかといえば積極的(11%)で、約2割が、積極的参加をしている。カウンセリング技法を活用した体験的授業の必要性は、とても感じる(12%)、よく感じる(45%)で57%が、その必要性を感じている。しかし、実際に体験的授業をしているのは、非常に積極的にしている(3%)、どちらかといえば積極的(16%)と19%が実践しているにすぎない。調査研究内容のA問題行動を未然に防ぐ予防的な取り組みを実践しているのは、2割にとどまっている。
 ユニークな相談活動としては、保護者のグループ相談、子育てに役立つリラクセーション、気功などのボディーワーク、児童生徒への1ヶ月に1度の「みんなの部屋で遊ぼう(フィンガーペインティング)」、学級崩壊を教師と考える会、子育て井戸端会議、クラブ活動の見学など多岐にわたっており、かなり、健全な心を育む予防的な取り組みがうかがえる。

(4)震災や事件、危機対応について
震災の影響を、とてもよく感じる(16%)、よく感じる(34%)であり、計50%が影響を感じている。
 相談事例としては、「障害をもったわが子がいじめられ殺されるのではないか」「震災のきっかけの無気力なケース」「少年事件で不安不登校傾向になったが3〜5回で解決」「万引きをしたわが子が、A少年みたいになると言われて不安」「震災による転居を契機に不登校」「よく聞いてみると震災の影響がある」などかなりの影響を受けている。

 W学校との連携について
(1)学校側への働きかけ:学校側への働きかけは、非常に積極的(6%)、どちらかといえば積極的(54%)と積極的が60%。連携は、常にとれている(31%)、まあとれている(64%)と95%が連携がとれていると回答している。職員室で雑談しながら情報交換をしていますかでは、非常に積極的(31%)、どちらかといえば積極的(49%)と計80%が積極的にしている。教師集団に理解されていますかについては、充分に理解されている(12%)、ある程度理解されている(63%)、と計75%が理解されていると感じている。養護教諭とは、密に連携(46%)、必要に応じて連携(41%)と計87%が連携がとれている。

 (2)守秘義務について:「教師集団全体として秘密を守るという視点に立っているからほとんど担任に話す」「病院臨床で医療チームを組むのと同じです」「記録は生徒指導の先生や担任は見ていいことになっている」と、学校全体で守秘義務を守るという意見が多かった。一方、「活動記録にどこまで記載するか迷う」「児童生徒を守る必要から保護者・教師に知ってもらいたいので本人と話し合う」「中学生のいじめの場合、担任にいうとかえってややこしくなると感じる生徒がいる。他人に迷惑がかかること以外は、すぐに担任に伝えることを控える。時間の経過で、クライエントが解決に向けて方法を見いだし、その時点で担任の協力を求める」など、苦慮している面がうかがわれる。

 (3)学校との連携での要望:「非行生徒のカウンセリングをやりたい」「教育委員会、管理職からSCの活用をうながしてほしい」「教育委員会がSCの受け入れ校の希望をとる。配置校への説明をしてほしい」「いじめ防止・心を育てる授業をやってみたい」「管理職がまずSCの必要性を理解してほしい」などが記載されていた。

 XSCの活動の今後のあり方

 (1)SCの活動内容の今後のあり方
 「教師とSCの役割を明確かしてゆく」「ケース検討会で教師にカウンセリングマインドを伝えていきたいが、カウンセリング技法を教師に指導する必要はない」と教師とSCの役割について明記したものがある。また、自己主張訓練や自律訓練法、ストレスマネジメントなどの授業を積極的に実施したいとの意見も多く見られた。

(2)SCを活用する学校システムのあり方
「カウンセリング委員会の設置を要望する」「教育相談部として学校の中に位置づける」「援助の必要性を感じている学校ほどうまくいっている」「教育相談研究会、事例研究会などが行事として組まれること」「某市では市の予算でカウンセラーを雇用しているが、短い時間に教師が積極的に活用している」「学期に1〜2回のケースカンファレンスを」といったように、組織としての対応を望む声が多い。

 (3)SCの研修のあり方
 「SCだけの研修よりSCと教師が集まり連携について話し合うのがいいかもしれない」「定期的なSC連絡会」「SCに対するスーパービジョン体制」「虐待の対応事例、精神科領域の研修、危機介入」などが求められていた。

4.考察

 SCの活動状況や学校に対する要望は,上記のとおりである。本アンケートの結果から、学校側の問題、SCの活動内容、SCの今後のあり方について考察を試みることにする。

 1)相談のしやすさへの一層の整備が望まれる
 相談室の整備は、約半数は整備されていると回答しているものの、冷暖房などの点で一層の整備を必要としている。備品や消耗品としては、囲碁将棋といった伝統的なゲームが用いられており、ファミコンを持ち込んでいるSCはいなかった。心理テストはバウムテストが最も活用されていた。ドアを開放するなど、相談しやすい体制をとっており、また、全校朝礼でのSCの自己紹介も84%が行っていた。「カウンセラーたより」は、36%のSCが発行しているにとどまっている。これは教師による宣伝効果が行き届いており必要ないのか、それともSCの受動性のためかは、今後検討する必要がある。

 2)不登校・問題行動への対応の一層の充実を
SCの相談活動については、児童生徒、教師、保護者のいずれも不登校・不登校傾向の相談がもっとも多い。この点は、本研究委託事業の主旨を実現しているものと思われる。しかし、児童生徒の相談でも、不登校・不登校傾向が8.1に対し、非行などの反社会的行動は1.1とはるかに少ない。非行などの問題行動は、カウンセリングの対象ではないといった教師の意識があるのか、SCが非行は得意ではないのか、今後検討する必要がある。教師へのコンサルテーションは、職員室での雑談をはじめとして、職員室での立ち話など、チャンス相談がかなり多く、重要な意味をもっていることがわかった。

3)予防的対応の積極的取り組みを
カウンセリング技法を応用した体験的授業の必要性は、「とても感じる」、「よく感じる」をあわせて、57%であったのに対して、実践しているのは19%にとどまっていた。学校側へのアンケート結果でも、68%が体験的授業への助言を受けたいと回答しているのとあわせて考えれば、予防的対応が、今後のSCの活動のあり方のひとつであることを示している。
 4)震災・事件などのSCの対応と役割
震災の影響は、SCの50%が感じている。SCが配置されている被災地域校が3割だったことを考えると、被災してない地域でも震災の影響があることを示している。被災地域外への転居児童も、被災の影響を受けていることが想像できる。
 相談事例は、多岐にわたっており、PTSDを示さなくても、震災をきっかけにやる気を失ったりしている事例も多く、また、家庭の経済的基盤の弱体化から、2次的なストレスを受けている事例も多く見られている。震災後4年が経過しているが、子どもたちの心の復興にますます注目していかなければ、深い傷を見過ごすことになる。

 5)SCの活用の学校システムの活性化を
SCの活用する学校システムの要望として、カウンセリング委員会の設置や事例研究会の開催など、組織としての活用の要望が多かった。このことは、児童生徒の事例をSCが全て受けて対応するのは、限界があり、教師へのコンサルテーションを軸に、教師対応の困難な事例のみSCが抱えながら、教師の役割を尊重しながら、連携をすすめる必要性を示唆している。

 6)教師とSCの役割の分担を
教師とカウンセラーの連携をすすめるとき、その役割を明確化しておく必要がある。「カウンセリングマインドを伝えていきたいが、カウンセリング技法を教師に指導する必要はない」との記述が全てを語っているように思える。教師は、教科教育などの学問によって、生きる力を育むのが専門性であろう。子どもが、学問に向かえるように、子どもの潜在的な力に焦点をあて、どんなに悲惨な環境に置かれていようが、その能力を信じ、働きかけることであろう。この教師とSCの役割を考えるときに、ハーマン(1996)「心的外傷と回復、みすず書房」の心的外傷の回復の3段階モデルが参考になる。回復の第一段階は、安心・安全感であり、第二段階は、再体験による再構成であり、第三段階が、社会への結合である。教師は、第一段階と第三段階を促進できる数少ない人である。スクールカウンセラーは、第二段階の専門家である。予防的開発的な取り組みも、第一段階を主眼とした取り組みが望まれる。すなわち、子どもの心の闇に焦点をあてるのではなく、子どもの心の光に焦点をあて、その光を膨らますような援助が望まれる。

 まとめにかえて

学校側へのアンケートと同じく、学校はSCの必要性を認め受け容れつつある。しかし、SCが充分に理解されていると感じているSCは1割程度であり、「ほぼ」理解されているという理解のされ方が大半である。すなわち、SCに好意的ではあるが、実際の活用にあたっては、なお工夫する点があることを示している。一つ目は、組織的な活用であり、教育相談部やカウンセリング部の設置や定例の事例研究会の開催といった活用が考えられる。二つ目は、予防的開発的な取り組みであり、保護者のグループ研修、自己主張訓練やリラクセーションといったpsychoeducation(心理教育)の必要性である。

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