3 中学校の心の教育の一試案
−ストレスマネジメントと人間関係体験(グループ・ワーク)−要約 中学生に対する「心の教育」の指導プログラムとして、中学3年生1クラス(34 人)に内面の成長を促進する予防的・開発的な体験授業を試みた。具体的には、ストレスをセルフコントロールするための「ストレスマネジメント教育」、「人間関係」体験、「自己開発・自己発見」のためのプログラムである。これらの手法を組み合わせ朝の短学活、学級活動の時間に計画的に実施することで、思春期の人間関係や受験、その他の学校ストレスにさらされる中学生の問題行動の予防効果を考察した。ほとんどの生徒は、意欲的に取り組み、その結果、クラスの雰囲気が今までより落ち着き、ストレスに対する対処行動(コーピング)への意識が高まり、自分でストレスをコントロールしようとする意識が高まった。また、グループ・ワークの経験によって友だちとの触れ合いの心地よさを体験したことで、人を信頼することの良さを実感したことと思われる。 |
1 はじめに
以前から、児童期後半から思春期(小学校高学年〜高校生)にいたる時期は心理的に危機であると指摘されてきた。学校現場においては学校ストレスによって学校不適応感を抱く児童・生徒が増加し、不登校や学級崩壊などの現象が表面化している。藤井(1997)は、学校ストレス状況の定義を「児童・生徒が日常の学校に生活において、その場から逃げだしてしまいたい状況、不快や恐れを感じるような状況、或いは発汗や心伯数の増加といった生理的反応を引き起こさせるような状況」としている。また嶋田(1995)は、友人関係のストレスに着目し、友人関係をめぐるトラブルは、学校ストレスを生み出す要因となっていることを指摘している。
本来、親からの心理的離乳をはじめる思春期のころは「友だち」の支えを得て、自立していく過程が自然である。しかし、現代の中学生は、その「友だち」に気を遣い、むしろ、自分と友だちとの間に心理的な距離を置き、本音を出すことで仲間外れになることを恐れてさえいる。学校現場で登校したがらない生徒たちの相談内容の多くは、友人関係のストレスに疲れたものが多い。三浦ら(1996)は、中学生の学校ストレスについて調査し、友人関係において積極的な対処行動(コーピング)を行う生徒に「抑うつ・不安」が高く見られることを見いだしている。友人関係の問題は、単にいじめや友人関係の葛藤だけでなく、このような「目に見えないしんどさ」があると考えられる。
そこで、「心の教育」としてクラス集団を対象とし、内面の成長を促進する予防的・開発的な体験授業を試みた。その内容は臨床心理学の方法を用いた「ストレスマネジメント教育」、「構成的グループ・エンカウンター」体験である。「ストレスマネジメント教育」は、ストレスを効果的に自己コントロールする教育的方法である。自分や他者の「安心感・安全感」を培う教育ともいえる。このストレスマネジメント教育によって落ちついた雰囲気がクラスに広がったとき、人間関係や自己理解の体験授業が効果的になると考えられる。その体験授業には、集中的グループ経験の一つである「構成的グループ・エンカウンター」のエキササイズをとりいれた。構成的グループ・エンカウンターは集団学習体験を通して、行動の変容と人間的な自己成長をねらいとしており、クラス集団に対しての人間関係体験、自己開発・自己発見を体験させるに適していると考えられる。
2 実践内容
1) ストレスマネジメント教育
「10秒呼吸法によるストレスマネジメント教育」
「一人で行う動作法を用いたストレスマネジメント教育」
2) 構成的グループ・エンカウンターのエキササイズ
「ブラインド・ウォーク」「ソシアルシルエット」
3 実践経過
中学3年生1クラスを対象に9月にリラクセイションとして10秒呼吸法の仕方を学級活動の時間に指導し、その後は朝の短学活の時間を利用し、リラックスタイムと称して、1週間に2〜3日の割合で2カ月間続けて実施した。11月より臨床動作法の肩の上げ下げや肩の開きを実施した。また、月に1回、学級活動の時間に構成的グループ・エンカンターのエキササイズを実践した。
4 授業の指導案
1) ストレスマネジメントの体験授業
1 対 象 中学3年生
2 単 元 名 気持ちを整える−ストレスマネジメント教育−
3 単元の目標
ストレスの本質を知り、それに打ち勝つ手段を修得すること。
4 指導計画 心の教育 2時間
5 本 時 2時間の1時間目
6 本時の目標
緊張すると力を十分発揮できないことを認識し、そのストレスを自分自身の力で克服する方法を修得する。
7 準 備 物
心と体のアンケート・振り返り表・テレビ・ビデオ・テープ
8 展 開
場 面 |
活 動 内 容 |
留 意 点 |
学習の目標の確認
導 入
ワーク
振り返り 本時のまとめ |
本時の学習目標を確認する。 生徒:アンケート記入 教師:1人間の意識と無意識について説明 教師:2ビデオでイメージトレーニングの様子を見せる。 1リラクセイション(10秒呼吸法) 3肩の開き 生徒:3回行う。 生徒:感想とアンケート用紙に記入 教師:本時の学習のまとめと予告 |
ゆっくり読み上げ回答させる。 できるだけわかりやすく簡潔に説明をしたい。
ビデオで見たことも挿入して、教示を与える。
痛みを感じるときは疲れがそこにある証拠である。 顔はスマイル 心と身体に神経を集中させる。
参加しない生徒には、無理にさせなくてよい。したくなったらすればよい。程度の声かけを。
次の学活の時間にさらに2人組のワークをすることを連絡する。 |
・2時間目
1 対 象 中学3年生
2 単 元 名 気持ちを整える−ストレスマネジメント教育−
3 単元の目標 ストレスの本質を知り、それに打ち勝つ手段を修得すること。
4 指導計画 心の教育 2時間
5 本 時 2時間の2時間目
6 本時の目標 ストレスマネジメントの方法を知る。1人でやる方法を知る。
ストレスマネジメントの方法を2人1組でさらに深める。協力的にすすめることで、思いやりの気持ちを実感させる。
7 準 備 物 心と体のアンケート・振り返り表
8 展 開
場 面 |
活 動 内 容 |
留 意 点 |
学習の目標の確認
ワーク
振り返り 本時のまとめ |
本時の学習目標を確認する。 アンケート記入 2肩の上げ下げ 3肩の開き 2肩の開き 生徒:援助する人は、後ろに廻り、軽く肩を開く向に引っ張ってやる。 生徒:アンケート記入 |
前時の学習を想起させ、2人組ですることを説明する(10秒呼吸法)で集中させる。
心と身体に神経を集中させる。
同性の2人組で行う。 ふざけさせない。
参加しない生徒には、無理にさせなくてよい。したくなったらすればよい。程度の声かけを。「まあ体験してみ よう」
・今後、朝の短学活の時間を使ってワークをすることを予告する。 |
2) 人間関係体験、自己開発・自己発見のための体験授業
・ブラインドウォーク
1 対 象 中学3年
2 単 元 名 人間関係作り −ブラインドウォーク−
3 単元の目標 信頼関係を知る
4 指導計画 心の教育 1時間
5 本 時 1時間の1時間目
6 本時の目標 ・自分を身も心も、どの程度人にまかせられるか。まかせにくいか。そんな自分を体験すること。
・言葉にださなくても相手のことをどの程度気づかう(やさしさ)ことができるか。
7 展開
場 面 |
活 動 内 容 | 留 意 点 |
ウォーミングアップ
学習目標の確認 インストラクション
エキササイズ シェアリング インストラクション
エキササイズ シェアリング エキササイズ シェアリング 振り返り 本時のまとめ |
・リラクセイション【10秒呼吸法】 「腹式呼吸によるリラクゼーションとして 123で鼻から息を吸い込み、4で呼吸を止め、5678910で口からゆっくりと吐 き出す」(約2分間) ・人に任せる、身をゆだねる体験をすることとやさしさを出す体験をすることを確認する。 ・2人組を作る。 生徒:前の人は胸の前で腕を交差し、しっかり組んで棒のようになり、目を閉じて 前に倒れる。受けとめる人は倒れてく る人をしっかりと受けとめる。何回かして役割を交換する。 ・デモンストレーション
@「地蔵倒し」2回目を同じペアーでする。 ・生徒の活動の様子を振り返り、よかったところや教師の感情を聞く。 |
・軽く目を閉じているだけでも集中できる。
・体重差に注意。 ・@と同じ相手でする。 ・目を閉じた人が不安を持たなくてい いように、相手の
気持ちを察しなが ら案内することを
・1回目との違いを感じさせる。 ・時間をしっかりとる。 ・自分を見つめさせる。 |
・ソシアルシルエット
1 対 象 中学3年生
2 単 元 名 人間関係づくり−ソシアルシルエット−
3 単元の目標 学級の支持的風土を作るための自己と他者の信頼関係の促進。
4 指導計画 心の教育 2時間
5 本 時 2時間の2時間目
6 本時の目標 自分のシルエットの切り絵にお互いのメッセージを書き合い、自己と他者の信頼関係を促進する。
7 準 備 物 振り返り表
8 展 開
場 面 |
活 動 内 容 |
留 意 点 |
ウォーミングアップ
本時の学習目標の確認 エキササイズ
本時の学習のまとめ |
・リラクセイション (10秒呼吸法) 生徒: 腹式呼吸によるリラクゼーションとして123で鼻から息を吸い込み、4で呼吸を 止め、5678910で口からゆっくりと吐 き出す(約2分間) ・デモンストレーション 生徒:各自のシルエットの切り絵に各自のメッセージを書き込む。 ・席に戻り、気持ちを静めて、書かれているメッセージを読む。 |
シルエットにメッセージを書くときは、自分の名前も書き、相手を傷つけるようなことは書かせない。
・時間が無ければ話し合いを省略して用紙に記入させる。 |
5 授業の経過
1)実施状況について
1 ストレスマネジメント教育・10秒呼吸法の実施
9月初旬から11月末の2か月間継続した。9月は体育祭に向けて学級対抗種目の早朝練習期間中で朝学活は何かと慌ただしい時間であった。この学校全体が慌ただしい雰囲気のなか、目を閉じ2分30秒間10秒呼吸法を実施した。
@ ストレスマネジメント(10秒呼吸法)授業前後のSTAICテストの結果
STAICは青年や成人の不安を測定するためのテストであり、STAIC(状態不安尺度)は、特に今どう感じているかをたずねる20の質問(代表的な質問項目:緊張している)からなる。
表1 STAICの合計得点の平均数値とその変化
実施クラス(人数) | 授業実施前 (A) | 授業実施後 (B) | 変化(B)-(A) |
3年生1クラス(34名) | 29.23 | 24.85 | −4.38** |
**は統計的に意味のある変化である(**:p<0.01)
A 生徒の感想
・男
やっていると眠くなる。でも確かに効果は上がっているようだから、これからも家でやってみようと思う。 ・女 日によっていろいろだけど、いい日は、すごくリラックスできていい感じです。 ・女 最初はこんなことでリラックスできるのかなあと思ったけど、何回かやるうちに呼吸法のあとで掌が熱くなってきた。慣れてくるとリラックスする までの時間がはやくなった。リラックスしている時は本当に気持ちが良かったです。 ・男 10秒呼吸法をはじめて、毎日元気良くできたことです。朝からリラックスできてとても良かった。初めは実感できなかったけれど、数をこなすう ちに毎日すがすがしい気持ちで朝を迎えることができたと思う。 |
B 考察
状態不安の得点結果は、授業実施後は平均得点が下がり統計的にも(t検定による)有意に減少しており、この観点からは生徒の不安を下げる好ましい効果があったと考えられる。
実施中、隣のクラスが騒がしいなか、教室は一時静寂に包まれた。日常は騒がしい生徒も10秒呼吸法はしないが、机に伏せたり、目を開けてはいるが、邪魔はせずに静かに協力してくれていた。終了後は、ホッとした雰囲気が広がり、その後の連絡も集中して聞けていた。これが呼吸法を実施しない日は私語が多くこちらの連絡も十分にできないことが多いのでその差異は明らかである。約2か月間、週に2〜3回継続して行った。実施中には、教師側からリラックスできるような教示を生徒に与える方法があったのだが、催眠術を連想させることから、1部生徒のあいだで抵抗を示す者がいたので特に言葉かけはしなかった。全体的に閉眼、無言で過ごした。
かなり深くリラックスできている生徒がいる一方で、眠くなり、頭がボーッとして次の時間に支障がでるという意見もあった。このため、しっかり消去動作を行う必要性を感じている。短時間でリラックスできる利点はあるものの、一部の生徒には抵抗感が強く出る場合も考えられる。その場合は適切な対処が必要である。授業時やテストなど緊張感を伴う静寂とは違う温かい雰囲気の静寂は、生徒にとっても貴重な時間であったように思う。
2 ストレスマネジメント教育・臨床動作法の実施
脳性マヒの子の肢体不自由を改善するための動作訓練である臨床動作法が、障害者(児)のためだけでなく神経症者・精神病者の心理治療や児童・生徒の教育・指導、とくに、学校ストレスの軽減に役立つことが確かめらた。
私は、富永ら(1998)による、ストレスマネジメント教育の実践を知る機会を得た。そして、11月より翌年3月まで兵庫教育大のストレスマネジメント教育臨床教育研究会と連携し、3年の進路決定の時期と受験のストレスの軽減を目的とした取り組みを継続して、生徒のストレス反応の変化を観察した。
@ ストレスマネジメント(臨床動作法)授業前後のSTAICテストの結果
表2 STAICの合計得点の平均数値とその変化
・臨床動作法(肩の上げ下げ)
実施クラス(人数) | 授業実施前 (A) | 授業実施後 (B) | 変化(B)-(A) |
3年生1クラス(34名) | 30.6 | 25.2 | −5.4** |
**は統計的に意味のある変化である(**:p<0.01)
A 生徒の感想
男 とても気が楽になる。体の疲れがとれる。 女 肩が痛いので、ああ疲れているんだなあと思う。やったあとすっきりするので気持ちがよい。 男 肩が痛い。でも、すっとする。 女 肩がこっているときにすると、肩の力が抜けて気持ちがいい。 |
B 考察
状態不安の得点結果は、授業実施後は平均得点が下がり統計的にも(t検定による)有意に減少しており、この観点からは生徒の不安を下げる好ましい効果があったと考えられる。
臨床動作法(肩の上げ下げ)は、緊張感を伴うので力を抜いたあとその緊張感が、爽快感に変わっていく心地よさを体験すると、継続への意欲づけにつながるのだと思われる。また、自分の肉体的な疲労状況を認知することができるので、ストレスに対する対処行動(コーピング)にもなり、ストレスからくる問題の予防法としても有効であろう。その効果は実施後3日間から1週間持続するので、1週間に1〜2回実施することがよいと思われる。
3 継続状況について
@ アンケート調査
表3 家庭における実施状況
3年生〔1クラス(34名)〕
・ストレスマネジメントをどのくらいの頻度でトレーニングしたか
週1回程度 | 週2、3回 | 毎日 | 全くしていない |
50% | 10% | 6.7% | 33.3% |
A 考察
約70%の生徒が、家庭においても実施していることがわかった。どんな時にしたかについては、勉強中の気分転換やテスト前、受験の面接試験の前など、自分自身が強いストレスを感じているときに行った生徒がいた。これは、ストレスというものに対する認知力の高まりを意味し、そのストレスに対する積極的なコーピング(対処)が行えていることの証であるといえる。
4 人間関係体験、自己開発・自己発見のための体験授業
ストレスマネジメント教育を、朝の短学活で継続しながら、9月から月に1回、構成的グループ・エンカウンターのエキササイズを実施した。次は、そのうちの代表的な2例についての分析と考察である。
@ エキササイズ・「地蔵倒し」と「ブラインドウォーク(目隠し歩き)」
ア 感想例
【目隠し歩きについて】 男 はじめは怖かったけれど後のほうになると怖くなくなって、その人を信用できるようになった。 男 階段の近くに来た感じがしたら、とても心配になった。終わった後、目を開けたらホッとした。 女 とても 怖かった。いつも歩いている歩幅と今回の目隠し歩きの歩幅は違うと自分で思いました。(目隠し歩きの歩幅のほうが小さい) 女 はじめはすごく怖くて、ころんだらどうしようと思っていた。でも、だんだんと大丈夫だと思えてきた。後で考えると楽しかったなーと思います。 ・身をまかすことができたかなど 男 相手を気づかうことは良くできたと思う。ただ、人に身をまかすのは抵抗があった、はじめは大丈夫だと思っているのに、いま一つ信用できな かった。友だちに身をまかせきれない自分が腹立たしかった。 女 目を閉じていると相手が見えないので少し不安だったけれど、人と触れていると何だか安心感があっていい気分でした。 |
イ エゴグラム(NP尺度)テスト結果について
表3 エゴグラム(NP尺度)テスト合計得点の平均数値とその変化
このエゴグラムテストは、関西カウンセリングセンターで使用しているもので、NPの変化を調べるもので、思いやりの一側面を測るものである。これをもとに思いやりをはかる質問紙を作成した。(代表的な質問:他人の世話をすることは好きですか。)
実施クラス(人数) | 授業実施前 (A) | 授業実施後 (B) | 変化(B)-(A) |
3年生1クラス(34名) | 38.1 | 41 | 1.9** |
**は統計的に意味のある変化である(**:p<0.01)
「地蔵倒し」と「ブラインドウォーク(目隠し歩き)」を実施後、平均得点が上がった。統計的にも(正規性がなかったのでウィルコクソン符号付順位和検定による)有意に増加しており、この構成的グループ・エンカウンターのエキササイズの効果があることが検証できた。
「地蔵倒し」と「ブラインドウォーク(目隠し歩き)」は、危険を伴うので安全にたいする十分な配慮が必要である。少しでも不安を感じたり、恐怖感で眼を開けてしまう自分に気づく経験をさせたかったので今回は、目隠しをせずに眼を閉じた状態で歩かせた。目隠しをするかしないかは指導者側のねらいにもよるだろう。中学生の男子の場合は、度胸試しのように振る舞うことがあるので注意や配慮が必要である。
A
エキササイズ・人間関係作り−ソシアルシルエット−
ア 質問と解答例
1
シルエットに書き込まれたメッセージを読んで、どのような感情が起こりましたか。その感情を言葉で表してみましょう。 (感想例) 男 読んで面白かったり 嬉しかったり、最高な気分です。 男 クラスの人たちは、とてもいい人達だと思う。 女 何か感動があり、卒業式ムード。 女 うれしかった。みんないい人だなあと思った。 2
シルエットに書き込まれたメッセージの中で、あなたはどのような内容のものがうれしかったでしょうか。うれしかったメッセージをいくつか書いてみましょう。
書く順番は、こだわらなくても結構です。 3
シルエットに書き込まれたメッセージを読んで、「他の人からみると、自分はこんなところがあったのか」という、新しい発見があったと思いま
す。どのような発見があったのか書いてみましょう。 4
シルエットにメッセージを書いてくれた学級の人たちに、今、返事を返すとしたらどのようなメッセージを送りますか。書いてみましょう。
|
イ 考察
ソシアルシルエットは、自分のシルエット作りから始まって、メッセージ記入まで時間がかかるので、できれば2時間つづきで授業したい。1時間でシルエットを作り、2時間目でメッセージを記入させる。メッセージ記入に関しては、授業の1週間前から友だちの良いところ探しをさせ、動機づけをしたのち記入させるほうが、クラス全員に記入できる。授業中から、温かい雰囲気が教室のなかに漂い、授業終了前の振り返りの時には、生徒の満足そうな笑顔が印象的だった。
2)授業実施期間中のストレス反応尺度の変化
11月より翌年3月まで兵庫教育大のストレスマネジメント教育臨床教育研究会と連携し、3年の進路決定の時期と受験のストレスの軽減を目的とした取り組みを継続して、生徒のストレス反応の変化を観察した。(編集上2月迄の結果である)ストレス反応尺度は、岡安ら(1992)による20項目からなる質問に兵庫教育大のストレスマネジメント教育臨床教育研究会が、身体反応4項目をつけたした合計24項目からなる質問紙を使用した。
1 ストレス反応の月ごとの変化の結果
表4 ストレス反応の月ごとのクラス平均得点の変化
実施クラス(人数) | 月 | 11月 | 12月 | 1月 |
2月 |
3年生1クラス(34名) | 平均得点 | 17.6 | 18.4 | 17.9 | 12.1 |
2 考察
表4からみても明らかのように、2月になって、ストレス反応が、急激に下がってきている。ところが11月から2月にかけては3年生は、進路決定の時期で、比較的ストレスの高まる時期だと思われる。なぜなら2月は私立高校入試、公立高校の推薦入試、またそれらの合格発表の時期で、結果によって自分の進路が変わってくる山場である。この時期に急激に下がる要因は、細かな分析が必要ではあるが、9月から継続してきたストレスマネジメント教育とグループ・ワークの成果であると推測される。生徒の感想のなかにもあったように、ストレスの高まる場面で、ストレスを自己コントロールしようとする試み(コーピング)をする生徒が増えてきていることからもストレス反応の減少に効果があったと思われる。
6 まとめ
学校ストレスにさらされる中学生の問題行動に対する予防的・開発的な体験授業は、単発で行うだけではその効果は一過性のもので、根本的な予防策にはなりえないと思われる。やはり、継続的かつ計画的な取り組みが必要である。
ストレスは早期に解消するのが一番の予防策であるが、現代の中学生の日常では、友人関係、親、先生、部活、受験、塾など彼らに関わる人間や社会生活そのものが、いつストレス源になってもおかしくない状態である。しかも、解消しようにもゆったりとくつろぐ時間すらもないのである。その点ストレスマネジメント教育は、短時間で身体をリラックスさせストレスを身体から抜き去ることができる。しかも、ストレスに対する自己コントロールを効果的に行える。
学校不適応感を抱く生徒への指導の方策として坂野ら(1993)は、学校現場でストレスとなる刺激場面を自分自身でコントロールすることができるというコントロール感を持つようにすることが必要だと指摘している。心理的ストレスの軽減要因としてコーピング(対処)をとらえるならストレス状況において適切なコーピングの仕方を身につけさればストレスの軽減がはかれるものと思われる。
今回のストレスマネジメント教育を通して生徒は、自分自身のストレスというものを実感し、それをリラックスすることで解消しようと試みていることから、自己コントロールの意識が出てきたと思われる。
さらに、構成的グループ・エンカウンターのエキササイズを体験することで自己理解が深まり、それによる他者理解や思いやりの深まりも取り組みの継続の中から生まれてきている。学校生活においてその基本は学級にある。学級担任として居心地のよい、居場所ある学級づくりは必須条件である。エキササイズを導入後は、急速に学級内に親和的雰囲気が広がり人間関係も広がりを見せた。
この二種類の心の教育の体験授業の試みの相乗効果が、ストレスの高まる時期にストレスを緩和する結果となったと思われる。今後は、これらの試みが年間計画に位置づけられ、計画的、継続的、組織的に行うことで、中学生の問題行動の予防に効果があると考えられる。
参考文献
・青野 勇 (1996) 國分康孝編 エンカウンターで学級が変わる
中学校編 図書文化社
・坂野雄二他 (1993) 児童生徒の心理的ストレスと学校不適応の指導に関する研究 早稲田大学 研究助成論文集 第29号 bQ
65-74
・岡林春雄 (1997) 心理教育 Psychedcationn 金子書房
・岡安孝弘他 (1992) 中学生用ストレス反応尺度の作成の試み 早稲田大学人間科学研究 第5巻 第1号
・國分康孝 (1992) 構成的グループエンカウンター 誠信書房
・嶋田洋徳 (1995) 小学生のストレス 指導と評価 41、11、12-16
・竹中晃二 (1997) 子供ためのストレスマネジメント教育 北大路書房
・富永良喜・山中 寛 (1998)
授業に活かせる教師のための「ストレス・マネジメント教育」
・中井克義 (1997) 國分康孝編 エンカウンターで学級が変わるpart2
中学校編 図書文化社
・藤原忠雄 (1997) リラクセイション
岡山学校教育相談研究記録「森」第20号
・藤井義久 (1997)
現代の学校現場が抱える諸問題 教育心理学研究、45 228-237.
・三浦正江他(1996)
中学生における心理ストレスの継時的変化 教育心理学研究、44
368-378.
・南 敦浩 (1998) 小学生の学校ストレスに及ぼす臨床動作法の効果
兵庫教育大学院修士論文