平成20年度 兵庫県高等学校教育研究会情報部会研究発表大会 報告

概 要

日 時

平成21年3月2日(月)
13:30〜16:30

場 所

兵庫県立のじぎく会館
大会議室(2F)

資 料

講演会資料、ディスカッション資料はグループウェアで公開します。
その他の関連資料もグループウェアで公開します。

内 容

講演

【演  題】
 教科「情報」のパースペクティブ
  〜新学習指導要領を踏まえて〜

【講  師】
 滋賀大学教育学部教授 
  松原 伸一 氏




【内  容】

パースペクティブ

 教科「情報」のパースペクティブ〜新学習指導要領を踏まえて〜というタイトルで話をしたいと思います。 パースペクティブとは展望という言葉で考えるとわかりやすいと思います。
 今回、いろいろと内容を考えてきました。兵庫県ではここ数年間で3回目の講演です。過去の講演と内容がなるべくかさならないようにします。
 まず問題提起をした方がわかりやすいと思います。 なぜ、教科情報は必要か? という問いかけからしたいと思います。 なぜというのは物事を深く考え、言葉できちっと表していく (言語力育成)ということが大事です (言語活動の充実というのが文部科学省の指導要領の目玉の一つとなっています)。

教科情報はなぜ必要か

 時間があれば合宿でもして議論したいところですが、 今回はそうもいきません。 「なぜ理科離れがおこるのか」「なぜお友達組織が多いのか」 同じような「なぜ」という問題はあるけれども、 すべてひとつの要因であると考えます。 教科情報でどう取り上げていきましょうか。 先ほどの「なぜ教科情報は必要か」これで考えてみましょう。 いろいろ理由は言えますよね。 もし、どんな理由があったとしても、 その理由に対して、さらに なぜ、「2単位にとどまっているのか」、 「高校だけの設置にとどまっているのはなぜか?」 という話になるのではないでしょうか。
 理由をあれこれあげるけど、結果、理由を解決できていないですね。 問題は、解決することが大事なのです。 理由がわかって安心。やれやれ、うれしいということはあるけど、 問題は解決しないと意味がないと思います。 このことは、問題解決に大きくかかわってくるということに 念頭を置いてもらえるとありがたいです。

デジタル環境が及ぼす時代の変化

 さて、デジタル環境が及ぼす時代の特徴を象徴的に挙げてみると、皆さん感じられることかもしれませんが 今の時代は即断を迫られる時代です。会社、大学や日常的な社会活動の中でも すぐに答えを求められる。「どうしますか?」「どうされますか?」スピードが重視されます。 時間がかかるよりはかからないで早く出したほうが価値がある。そのことを否定するわけではないが、 これがいろいろな問題を引き起こしているのです。
 同じように、割り込みを頻繁に受ける時代といえます。こうしていてもメールが来る、 電話がかかる、FAXがくるということで気になって気になってしょうがない (小中高等学校でも携帯電話持ち込みが問題になっていますね)。
 メールや携帯が気になる。 来てるかどうかわからないがとりあえず来てるか見てみる。 大学でも、携帯にメールが来ると、授業中でも出て行く人がいる。 最初はわからなかった。トイレかなと思った? なぜ出ていくの?と聞いたら、メールがあるという。 緊急のメールかもしれないという。 私は言う。大事なメールかもしれないから、見てもいいという。緊急な連絡かもしれない。 だけど、見に出るなら一言、言って出ていってほしい。 そうでないと、残された授業が形成ができない。 ということを話したことがあります。 ケータイ(軽態)のモラルの問題です。
 こういうことが原因となって、十分思考することができない時代となっています。 早く決断を迫られ、時間をかけて考えることができなくなっているのです。

答え探し

 そうすると、答えは一つです。答え探しをしないと仕方がないのです。 自分でじっくり考えたりすることがいろんな意味でゆるされない。 結果、インターネット上で答え探しをする。 あったらよかった。なかったら、「先生答えがありません」と言うのです。 本当は自分の頭で考えてほしいのですが。
 こういうことを繰り返していくうちに、 実は問題解決ということは、自分から答えを考え出すものではなく、 探し出すことと間違えてしまわないでしょうか。 だれかが考えた答えを探し出していないか。このあたりを心配します。
 結局、議論を避ける時代。 議論をすると時間がかかる。 自分の思ったとおりすすまない。 議論しない人が好まれる(KYといわれないために)。 「お友達」が増えてしまっている。 適材適所、個人的なものででお友達はいいが、 社会の中でのお友達組織は問題があると思います。 教科情報もしっかり考えないといけません。 本当は問題解決をさせていないのではないでしょうか。 自らの頭で考えて答えを出すようにしなければならないのです。

問題解決

 問題解決は教科情報の中心的な存在です。 問題の種類は「解を一意に決定できる問題」、 「できない問題」があります。 多くの教科は前者を多く扱います。 教科情報は、それだけでなく、後者の問題も積極的に扱うのです。 大事なのは意思決定、合意形成です。答えはいくつもある。 いくつもある答えの中から意思決定を行うのです。 実は社会生活の中では一番大事なことなのです。 多くの教科は、その辺を扱ってこなかったのですが、 教科情報はそこを積極的に扱います。
 次に解の種類についてですが、「厳密解」、「満足解」があります。 他の教科は厳密解を扱います。試験問題を作るのもそのほうが作りやすいからです。 教科情報では満足解も扱います。この辺が他の教科と違うところではないでしょうか。

学習指導要領の改定にむけて

 ここまでは問題提起などでしたが、ここから、本題に入っていきます。 学習指導要領の改定にむけてですが、見通しはまだ立っていません。 中学校までは学習指導要領及びその解説まで出ています。 仮にH21年度に告示されたとすれば、 H25年度に実施できるかなというところです。 問題点として小中段階のカリキュラムとの接続の問題があります。 もう一つは教科書の作成問題があります。 教科書は解説が出てから編集に4年かかります。 つまり、H25年度はぎりぎりということになります。

科目構成

 ここで、具体的に話していきます。 改定案では科目構成は2科目構成です。 情報の科学社会と情報です。 皆さんは1科目選択になると、どちらを選択しますか? 皆さんで情報の共有を図りましょう。 「社会と情報」を選ぶかたは? … 非常に多いですね。 では「情報の科学」を選ぶかたは? … あまりいませんね。 決めていないというかたは? … 何人かいますね。
 このことは科目の設定をした最初から予想していました。 心配なのは、ますます「社会と情報」に集まってくるのではということを心配しています。 情報Aのときもそうでした。もともと75%くらいを予想していましたが、だんだん偏ってきて、 ふたを開けたら90%程度にまで増えました。それを減らすのに大変だったという経緯があります。 今回はどうなるのでしょうか?
 なぜこのような科目構成になったか? 情報教育の3つの観点、 情報活用の実践力情報の科学的な理解情報社会に参画する態度の 3つのそれぞれに対したものを考えました。 まず、科目名は最初「情報と科学」と「情報と社会」でした。 情報科学は英語にするとInformation & Scienceとなります。 理科と重なるので問題があるということで情報科学となりました。
 情報と社会は社会と情報というように順番が変わりました。 なぜ、情報と社会がいれかわったか?正式な回答はありませんでしたが 社会面が強調された、社会という内容をより充実させたいという気持ちが あったからではないでしょうか。
 また、科目の順番が入れ替わりました。 社会と情報が先にきて、情報の科学が2番目になりました。 これらの点が新学習指導要領で変わった点のわかりやすいところです。

科目数の減少

 問題は現行3つあった科目が2つになった点です。 当初はさまざまなものを考えていました。5科目案もありました。 情報教育の3つの柱があったので、情報活用の実践力で1科目、情報の科学的な理解では2科目、 情報社会に参画する態度で2科目の構成を考えたこともありました。 しかし、結局2科目になりました。
 4単位にする要望を出しました。必履修の単位をどうするかという問題になります。 しかし、数学でさえ2単位なのに、情報を4単位にすることはできないということです。
 他の教科でもそうなので科目数の減少は、やむを得ないことです。 情報の科学的な理解、情報社会に参画する態度はいずれも大事です。 これらは発展的に現行の内容を深く進めることが必要です。 情報活用の実践力は独立して考えることはできません。 科学的な理解の中、社会に参画する態度の中にも両方に共通して関係しています。 両方の観点に結びついており、それぞれに対応させる必要があるのです。 つまり、情報活用の実践力は横糸、 情報の科学的な理解、情報社会に参画する態度は縦糸として 結びついていると考えました。
 情報A、情報B、情報Cを設定するときのことを思い出すと、 学習指導要領解説にもきちんと書いてありますが、 情報Aはどういう人に受けてもらうか、想定が書いてあります。 情報Aは初心者向き。初めて習う、地ならしです。 そういう人を対象としていると書いてありました。 つまり、言い方を変えると作った段階から地ならしができた時点で 消滅する運命であったといえます。
 大事なことは、活用の実践力はなくなったわけでなく、 横糸として、それぞれの観点に共通に関連することとして置かれているのです。

教科の目標

 結論を言えば、教科の目標はほとんど変わっていません。 文言の調整程度です。 問題は目標を達成するために、科目の構成を大幅に変更しました。 私の認識からいえば現行の情報A、情報B、情報Cは何も悪くないのです。 問題はその趣旨が生かされなかった所にあります。 これを反省しなければなりません。
 学校によってはパソコンの前に座って、 時間を費やすということもあったと聞いている。 学習指導要領の中に書かれているポイントを十分に説明できなかった。 浸透しなかった。反映できなかった。 このような反省が今回の科目構成の中に生かされています。

社会と情報

 社会と情報は情報Cが元になっています。 情報Cと違うところは情報のデジタル化が目標から消滅したところです。 目標から無くなったからといって、やらないわけではありません。 指導要領の中には各所に出てきます。重要性を下げたということです。 情報Cはデジタル化の部分が情報Bよりも大きく、 教科書を見ていると情報Bよりも詳しくなっていました。 これはもともとの趣旨と違います。 改定で情報Bは情報Bらしく、情報Cをより情報Cらしくした。 情報Cらしくしたら社会と情報になったということです。
 内容では他に(2)では,コミュニケーション手段、 (3)では情報社会の課題、情報モラル、 (4)では、情報システムと人間、などが目玉となっています。 この中で、私たちが想定していなかったのは情報モラルです。 このことは賛否両論あると思います。 このように明示的に書くとわかりやすいが、支障もあります。
 どういうことかというと、 現行の学習指導要領の中での情報モラルの取り扱いは 科目の内容の中にとどめていません。 教科の科目を整理しながら書いて、 その後に情報モラルは「すべての科目に」ということで書かれている。 情報モラルは科目をこえ、教科もこえ、他の教科も含めてというイメージがある。ほんとはそれも美しいのかなと思う。
 ただ、時代が変わってきました。 情報モラルは形としてあらわさなければ、 文字としてあらわさなければという 雰囲気があるのです。 結果として情報モラルという言葉が出てきています。 これは社会と情報でも情報の科学でも同じことです。 情報モラルという言葉が出てきます。 ただ、こうすると、情報モラルは(3)以外で 関係ないのかということになると困ります。 そうではなく、情報モラルを体系的に学ぶのは(3)、それ以外の部分でも 情報モラルは関係するし、指導しなければならない。 そういう趣旨で考えなければなりません。

理解させる、習得させる、考えさせる

 「理解させる」内容をいくつかあげてみますが、 パソコンの実習ばかりやってたのではこれらを理解できません。 現行の指導要領でも○○を理解させるというのは各所に出てきます。 しかし、どちらかというと軽視されています。 導入時期だからしょうがないのですが、 今回は内容をきちっと、学力ということが前提となるので これはすごく大事になります。 特に見てほしいのは学習指導要領で「理解させる」と 書いてあるところは相当たくさんあります。 理解させるというのは知識を問います。 きちっと教えなければならなりません。 パソコンの前に座っているだけでは身に付きません。 ちゃんとした授業をしないといけません。
 学力の向上もさることながら、 今回の教科情報は 理解させるというところをより明確にしました。 したがって、現行では情報Aでは1/2以上、 情報B,Cでは1/3以上という実習の時間の規定を設けていましたが、 今回は無くなる予定です。 実習を軽んじるといけないが、 理科でも実験は大事だが、時間に規定はありません。 実習を重視しすぎるために パソコンの前に座っていたということになります。 実習は目標を達成するための手段で、時間で縛ることはしません。
 習得させる内容もあります。 これはまさに実習をしながら、習得させるものです。 学習指導要領の中で 理解させる内容と習得させる内容を色でもつけて 区別するとわかりやすいです。
 考えさせる内容も大事です。 したがって、今回の学習指導要領では、理解させる、習得させる、考えさせる、 ここの言葉の一つ一つ、意味を強調させていただきたい。

情報の科学

 情報の科学は、もともと積み上げ方式で、 科学T、科学Uとして考えていたときから、 支配的な考え方として、 産業界、経済界、卒業した人を受け入れる ところなどから強いニーズがあったということがあります。 ところが、現行の教科書をみて、がっかりしたという話もあった。 これだけしかしていないの?ということであった。 もう少しきちっと情報の科学を教えてほしい。 という願いがあった。 そいうことにこたえるためにも 情報Bという形ではなく、 科学という名前を表に出して、わかりやすく内容を構成したほうがいいのではないか。 そういう背景がありました。
 見ていただいたらわかると思いますが情報Bとあまり変わっていません。 情報の科学としては、構成上はあまり変わっていないが、内容は深まったということです。 そのように考えてもらうとわかりやすいです。 内容の中でもコンピュータの仕組みから、 情報ネットワークの仕組みに中心が移行しています。
 理解させる内容は今まで以上に豊富に用意されています。 社会と情報と同じく、実習だけでは駄目である。 しっかり授業していかなければなりません。 社会と情報と同じく、理解させる、習得させる、考えさせる。 情報の科学も3つの視点で色分けしていくとよくわかります。

展望

 ここからは、パースペクティブ、展望について考えます。 情報の免許が取得できる大学は312校もあります。 学部は467学部あります。 同じ大学でも複数の学部で取れます。 言いたいことは学部の多様性です。 このようなことは他の教科にはありません。 工学部、教育学部、理学部、経済学部…ほとんどすべての分野の学部で取得できるのです。
 他の教科に比べても学校数、学部数共に圧倒的に多い。 最初に「教科情報は必要か」といいましたが、 設置されている科目数や単位数を考慮に入れても 免許を取れる数は大変多い。つまり、 関心はものすごく高いということになります。 では、問題はどこにあるのでしょうか。
 教員職員免許法の趣旨は、 教科「情報」の免許取得は、 文理融合の多岐にわたる学問分野において 取得可能で他の教科を圧倒している。 つまり、私が申し上げたいのは 文理融合ということです。 学際領域ということなんですが、 教員免許を考え出して、現行で実施されているわけですが、 その段階ですでに教科情報は 学際的内容だということを認めているわけです。 だから、文学部の人も、経済学部の学生も免許を取れたということです。 現行の教員免許法で教科「情報」が学際的な教科として位置づけを証明するものです。 問題は、実際には担当する教員の多くは理系出身者であるということ。 乱暴な言い方かもしれないが、教育職員免許法の趣旨をあまり生かせていないと思います。
 つまり、文理融合の情報学教育を進めていきたいということです。 話の最初になぜという話をしました。 問題解決をしなきゃいけない。 その問題解決は一意に決定できる解ではない。 厳密解ではない。満足解である。それを解かなければならない。 そのためには 理系だけの知識では解けない。 文系の知識もいる。 文理融合の土壌の中にこそ問題解決ができる。 そのような時代に入ってきた。 教科情報というのは、それを思考すると非常にわかりやすい。 文理融合の情報学をベースに、 新しい情報科教育というのが 新しい指導要領でも提案したということになります。

情報学教育

 委員会の中でも 情報科教育というのを情報学教育と置き換えている。 情報教育は情報学を教えているということを胸を張っていえる ようにしたい。 数学教育は数学を教えている。 理科教育は理科を教えている。 情報教育は情報学を教えているでしょうか? 教えていないというイメージが強いのです。 情報教育はパソコンの使い方を教えていないでしょうか?
 パソコンの使い方は、数学や算数でいうと九九である。 いつまでも九九を教えているということになる。 これじゃいけないと思います。 なぜそうなっているか。 ソフトがバージョンアップするからです。 すぐ陳腐化してしまうことで いつまでたっても、操作の仕方になって、先のところに行かない。 だから、情報教育は幼稚園から大学院まで同じことをやっていると言われてしまうのです。 それではいけないと思います。 情報教育は情報をちゃんと教えているといえなくてはならない。 理解させる。という項目を挙げましたがこれが情報学となっているのです。
 あと、大切なのはメディア教育と情報安全教育です。 切り離すのではなくこれらは、情報学に入れるべきだと考えています。 メディア教育とは、メディアにかかわる一連の教育です。 メディアとは何か。表現手段としてのメディア、 通信手段としてのメディア、記録手段としてのメディア。 メディアと一言で言っても、たくさんあり。一つ一つ特徴があります。 これらはひとつの教科の中できちっと整理された形で学ばなければなりません。 これがメディア学です。
 情報安全教育は。 情報モラルに関係するものです。 情報モラルは道徳であるが、 最近、情報モラルに著作権が入ってしまっています。 著作権は規則で、ごちゃ混ぜになっています。 情報モラルは改築が繰り返されており、 相当大事なものが出来ているが、 本来の理念からは変わってきています。 安全もそう。危険回避、「こういうことをすると相手の心を傷つけてしまう」。 「こういう風にすると詐欺にあう」などです。 これらもモラルではありません。 危険回避です。 というように、これまでは情報モラルという名前で、 あれもこれもいっぱいやってきましたが、 今回、整理しようということになりました。 文部科学省はこれらを情報モラル等という呼び方で 拡大解釈した表現をしています。 交通安全教育を考えるとわかりやすいと思います。
 次の問題は 小中高の一貫した教育というところです。 「情報の本質を理解する」 「情報の活用を実践する」 「情報の内容を吟味する」 この3つの視点がわかりやすいと思います。
 たとえば、「情報の本質を理解する」とは、 メディアとは何か、情報とは何か、 データと情報がどう違うか、 物と情報はどう違うかなどです。 情報というのは実体がなくコピーで伝播していく。 物はコピーでなく、秩序あるものが移動していく。 このようなことから著作権の問題や 情報の共有の問題などいろいろな話が展開できます。
 「情報の活用を実践する」とは、 先ほどの話で言う「習得する」ということです。 「情報の内容を吟味する」というのは、学習指導要領でいうところの 「考える」ということにあたります。
 そういったことから、今回の学習指導要領は、 情報科教育は これまでの反省を踏まえて 情報学教育という視点で構成していると考えてもらえるとありがたい。
そういうことから、文理融合による問題解決ということで、 自然科学系、人文科学系、社会科学系、芸術系、 それぞれが得意とする分野があるけれども、 それぞれを上手に使って、ベースにしないと今の問題は解けない。 それを実践するのは教科情報である。 他の教科にないところをするので、非常に大切である。 そのためには、教科情報がパソコンの使い方を教えているという 考え方を脱皮しないと説得力がないのです。

高大接続

 教科情報の重要性をどう位置づけていくか?というのは 高大接続の問題も大きいのです。 情報が大切なのはわかるけど、 大学入試がある。進学がある。 この部分をどうにかしなくてはならない。 文部科学省も今後、積極的に進めているところです。
 大学側はできるだけ早めに学生をとりたい。 そのためにAO、推薦などをすすめる。 これがレベル低下につながっている。 入試方法が問われる。 本当に来てほしい人が来ていない。 学んだはずのことを学んでいない。 そういう問題があります。 これがクリアされなければなりません。 そのためには、センター試験をやめる。 高校3年間で試験を行う。そうしたらいいのではないでしょうか 高大接続テストや海外の例も参考に考えていく必要が あるのではないでしょうか。
 「情報」をセンター試験に入れたらという話もあったが、 もう無理だと思います。日程的にも大変です。 センター試験の問題は未実施の科目があります。 情報は必修科目なのにセンター試験に課さないのは問題です。 しかし、他にも必修の科目でも実施していない科目があります。 保健や芸術。いわゆる実技系です。 つまり、情報は実技系だと思われているのです。 先ほどの実習の時間の規定の問題が原因であると思われます。
 高大接続テストも新聞で話題になっています。 先のことを見越して考えていかなければならない。 新しい認定試験が必要になると思われます。 条件としては、「高校と大学で連携して実施する」 「必修科目の全てを課す」「高校に在籍中、適宜、受験可能とする」 「国家資格とする」「認定された科目は、将来にわたり有効とする」 「高等学校卒業程度認定試験とは別とする」。 こういったことがクリアされてくると 教科情報の将来も明るくなるのではないでしょうか。
 そのために、学会を作りました 文部科学省の全面的協力の下、作りました。 家庭科も理科も国語科もあるが、 情報教育の学会だけがありませんでした。 関連する学会はありましたが、情報科の教育を考える学会はなかったのです。 この学会は、学術的に何が重要か、どうすればいいのかということを議論していく場で、 そのための研究機関です。

まとめ

 デジタル環境を生き抜くリテラシーが必要。 これを教科情報が担っていくということです。 教科情報が担う重要な役割はなにか。 教科情報の指導では、実習は大切だが、 スキルだけの指導にはしない。 学習する内容を言語活動に結び付けて確実に指導する必要がある。 学習指導要領の中にある理解させるというところを明確にし、 評価をしていくことを考えていく必要がある。
 結局、問題解決は 文理融合の境界領域で考えなければならない。 情報社会をどうやって生き抜いていくのか。 合意形成という考え方が表面化しました。 それを情報システムを使ってやっていくということです。
 学際的な領域すなわち、文理融合の情報学をベースにした 「情報学教育」が必須である。 教科「情報」は、問題解決を学習する上で 理論的、実践的、方法論的、・・・において 総合的にかつ効果的に、学ぶことができる唯一の教科と言えるのです。 今日は、教科情報の特異性を強調しながら 学習指導要領の改訂に合わせて、 話をしていきました。




ディスカッション

【 テーマ 】教科「情報」における座学と実習の扱い

実践発表をもとに、教科「情報」の現状の問題点などを共有するとともに、 意見交換を行っていく。

【実践発表T】(県立太子高等学校教諭 木村 恭子)
  1. 課題点
    • 情報モラルについて

    •  授業で学び、クイズやテストをしても理解できているけれど、実際にはネットや本の内容をそのまま書き写し作文の宿題として出している現状
       ブログでの個人情報の公開、音楽のダウンロードなど、自分だけは大丈夫と思っている状況
    • プレゼンテーション

    • 総合学科での発表の必要性
      聞き手を動かす・印象に残る発表作品制作
  2. 今回の活動目的
    • 自ら計画的な制作活動ができるようにすること
    • 次年度以降の活動に向けての意識を高めること
  3. 授業ながれ
    • 夏休み前・・・情報モラルについて 基本事項の学習
    • 夏休みの宿題・・・「CM研究」

    • 印象に残るCMとその理由、印象に残らないCMの工夫点
    • 9月以降・・・制作課題の説明とねらい

    • 太子高校生が気になるCMの発表
      CM制作の視点について
      企画書の作成について
      パワーポイントの操作の追加説明
      音楽の録音方法の説明
      作品完成
      発表
      作品にかかわる権利・法律
  4. 実際の作品

  5. 生徒相互評価により決定した代表作品(2作品)の紹介
  6. 活動の振り返り

    • 自分たちの作品が採用されるために何度も見直し、リハーサルを大切にしている姿があった。
    • 毎週テーマがあり、それに向けて準備をしていかなければ制作ができないということが、それぞれの役割を責任を持って行うことにつながった。
    • 制作中に著作権や肖像権について1グループの活動を常に全体に投げかけ、違反があれば使用を制限することで意識が高まった。
    • 情報モラル等、理解していることを実際の行動につなげるように、もっと丁寧に取り上げなければいけなかった。





【実践発表U】(県立八鹿高等学校教諭 木村 拓磨)
  1. 座学と実習の取り扱い

    • 座学

    • 独自教材(Stepup Note)で実施。
    • 実習

    • 授業時間の2/3〜3/4を当てている。
      word/excel/powerpoint/webpage制作等
  2. Stepup Note

    • レベル

    • テキスト(「情報A」日本文教出版)
      初級システムアドミニストレーター試験 (平成21年春季以降はITパスポート試験)
    • 方法

    • Stepup Note(独自教材)の活用
      最初の10〜15分で勝負
      150〜200程度の小論文を作成し次週提出
    • 内容

      • ネット関連の諸問題
      • PC関連の最新ニュース
      • 数値の扱い(情報単位・進数等)
      • PCの基礎知識(ハード・ソフト等)
  3. 本校における座学と実習の課題

    • PCが苦手な生徒への対応
    • 集中して実習している生徒に細かなアドバイスが届いているか
    • 知識の羅列になっていないか
  4. 今後の課題
    • 氾濫するトラブルへの対応

    • 学校全体の問題として
    • 社会に役立つ知識の蓄積

    • 知らないことをそのままにしない
    • 授業を通じて

    • いかに命の大切さを理解させるか。
【全体討議】司  会  県立豊岡高等学校教諭 坂井 貴行
講  評  滋賀大学教育学部教授 松原 伸一 氏
  1. 情報モラルについて
    • 学習指導要領改定案

    • 内容全体を通じて知的財産や個人情報の保護などの情報モラルの育成を図ること。
      科目の内容の部分にも明記された。
    • 学習指導要領解説(小、中)

    • 情報モラルとは情報社会で適正な活動を行うためのもとになる考え方と態度である。
      具体的には他者への影響を考え、人権、知的財産権など、自他の権利を尊重し、情報社会での行動に責任を持つこと。
      危険回避など情報を正しく安全に利用できること。
      コンピュータなど情報機器を使用による健康とのかかわりを理解すること。

  2. 各校での取り組み例
    • 県立舞子高等学校教諭 小川 敬介

    • 1学期はコミュニケーションとモラル。特に携帯電話に関する内容を取り扱う。
      実習としてコンピュータ上でメール、チャット、掲示板を利用して問題点を理解する。
      座学として同期、非同期型コミュニケーション、ネットいじめ、なりすましなどを取り上げる。
      3学期は著作権について取り扱う。
      実習としてウェブで著作権について調べ、生徒自ら他の生徒にわかりやすく教える(パワーポイントを利用)形態をとっている。 座学として知的財産権に関する講義を(生徒発表を補う形で)行う。
    • 県立加古川北高等学校教諭 白井 美弥子

    • 座学を15分、実習を残り時間で行う。
      各コマの座学と実習はリンクされていない。
      座学は情報モラルを中心に行う。
    • 県立伊丹西高等学校教諭 舟瀬 純子

    • 携帯電話によるトラブルが多いので、携帯電話の取り扱いをよく行う。
      教科書の携帯電話の取扱いを中心に授業し、ワードやウェブを利用してまとめさせる。
      座学と実習を組み合わせている。

  3. グループでの話し合い

  4. 情報モラルへの取組、座学と実習の扱いについて話し合いをし、情報を共有する。

  5. 講評(滋賀大学教育学部教授  松原 伸一 氏)

    • 情報モラルどう扱うか
      • 自分で作ることの大切さ

      • 著作権で例を挙げると、この問題は物を作る時に出てくる。 より良いものを作るために、人の作ったものを利用するは簡単。しかし、本当にいいものを作るためには 素材を自分で作ることが大切である。どこまで自分で作れるか挑戦することが大切である。問題解決と同じ で人が作ったものを探してくるのは簡単だが、自ら作ることが重要。
      • 許諾を得ることの大切さ

      • 著作権というものがるということを認識させる。 著作権を得るためには許諾を得る。それを徹底させる。 ○○場合は、無断で使えますよということより、 どのような場合でも許諾を得る。許諾が得られれば利用できる。ということを徹底させることが重要。
    • 情報安全教育

    • 情報をいかに安全に使う。人の権利を侵害しない。 人の心を傷つけてはいけない。そのことをしっかり考えなければならない。
    • 情報人権教育

    • さらに進めて情報人権教育につながっていく。 情報安全教育から情報人権教育へ。究極はそこにたどり着くのではないでしょうか。