人権教育基本方針

                             平成10年3月9日
                             兵庫県教育委員会

 今世紀、人類は、二度にわたる世界大戦の惨禍を経験し、平和が如何にかけがえのな
いものであるかを学んだ。
 その反省から「世界人権宣言」が生まれて半世紀。この間も各地で紛争が相次いだ現
実から、われわれは、平和と人権の不可分な関係を改めて思い知らされ、人権の尊重が
平和の基礎であるという共通認識をもちつつある。来るべき21世紀を「人権の世紀」
とするために、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利
とについて平等である」との人類普遍の原理は、ますます重要になるにちがいない。
 兵庫県教育委員会においては、日本国憲法や教育基本法の精神に則り、基本的人権を
尊重する教育として、同和教育・地域改善対策としての教育を推進してきた。その結果、
この教育の二大課題である「教育上の較差の解消」と「部落差別意識の払拭」は、県民
あげての努力によって、今日一定の成果を上げるに至っている。
 しかし、差別意識の潜在化傾向も見られるなど、部落差別は社会になお根深く存在し
ていることも事実であり、さまざまな差別や偏見とともに、県民の自己実現と共生を阻
む要因となっている。さらに国際化、情報化、科学技術の進展、環境問題への関心の高
まり、高齢化・少子化など社会の急激な変化に伴って、人権にかかわる新たな問題が生
じてきている。
 これらの課題の解決に当たっては、個別的な対応だけではなく、同和問題が人権問題
の重要な柱であると捉えつつ、人権という共通の価値に立脚し、また、生命の尊厳やボ
ランティア精神の尊さ、他者を思いやる心の大切さなど震災から学んだ教訓を生かし、
「人権という普遍的文化」を構築することを目標に、すべての人の基本的人権を尊重し
ていくための人権教育を推進する必要がある。
 そのため、人権教育を次の1〜4の内容によって構成し、課題が残存するかぎり継続
して取り組まなければならない同和問題をはじめ、女性、子ども、障害のある人、外国
人などの人権にかかわる今日的な課題の解決に向け、相互の関連を図りながら総合的に
推進するものとする。

  1 すべての人に対して、とりわけ差別や偏見などによって十分に学ぶことができな
  い人に対して学習機会の提供に努め、自己実現を支援する。(人権としての教育)
  ・ 自ら学ぶ力の育成
    学ぶことから疎外された人が、学びに出会い、その素晴らしさを知ることによ
   って、自ら学ぶ力を身につけることを支援する。
  ・ 自己についての肯定的な認識の形成
    自尊感情の形成を促すとともに、自分と社会についての確かな認識を培い、ア
   イデンティティを確立することを支援する。
 2 生命の尊厳や人権の概念と価値についての認識を培い、すべての人の人権が尊重
  される社会を築いていこうとする意欲や態度の育成を図る。(人権についての教育)
  ・ 人権意識の高揚
    生命の尊厳を基盤として、憲法、人権の歴史、平和と人権にかかわる問題、国
   際的な人権思潮などについての認識を培い、人権意識を育てる。
  ・ 差別解消への態度の形成
    差別や偏見の不当性とその解消を目指す人々の生き方の学習などを通して、人
   権問題に積極的に取り組もうとする意欲や態度を培う。
 3 人権尊重の理念に基づいて、人と人とが豊かに共生していくために必要な資質や
  技能の育成を図る。(人権を尊重した生き方のための資質や技能を育成する教育)
  ・ 自立向上の精神の育成
    自立心を育てるとともに、個性や能力を伸ばすことの素晴らしさに気づかせ、
   仲間のなかで自分を高めていこうとする態度を育てる。
  ・ 思いやりの心の育成
    さまざまな個性をもつ人々との出会いと交流を通して、自他の違いを認め合う
   態度や豊かな人間関係を築くための資質、技能を身につけさせる。
 4 教育指導や学習の環境が、学習者の人権を尊重したものとなるよう、「児童の権
  利に関する条約」等の趣旨も踏まえ、その充実に努める。(学習者の人権を大切に
  した教育)
  ・ 一人一人を大切にした教育指導
    学習者の興味や関心などに応じて、自主的、主体的な学習を促す教育指導に努
   める。
  ・ 学習環境と条件の充実
    学習者の個性と能力を伸長させるため、学習環境と条件の充実に努める。

 人権教育の推進に当たっては、各教育委員会及び教育機関は、教育の主体性、中立性
を堅持しつつ、それぞれの実態に応じて、創意に富んだ人権教育を展開することが大切
である。また、人権教育がこころ豊かな社会の実現を目指す建設的な営みであるという
認識に立って、人権問題や人権教育に関する適切な情報の提供に努め、県民の間に人権
教育の重要性についての理解を広めることが必要である。
 学校教育においては、「生きる力」を育むという観点から、人権教育を児童生徒の発
達段階に応じて、あらゆる教育活動に位置づけるとともに、総合的な学習の機会なども
活用し、開かれた学校づくりへの展望に立って、家庭・地域社会などと連携して推進す
る。
 社会教育においては、人権教育を生涯学習体系に明確に位置づけるとともに、県民の
人権についての学習や人権尊重の家庭づくり・まちづくりへの意欲を喚起し、一人一人
のニーズに応じた学習機会の拡充を図る。
 また、教職員をはじめとする指導者の人権教育の推進にかかわる資質能力の向上を図
るため、研修の改善、充実に努める。