1 教育プログラムモデル

命の大切さを実感させる教育には、生老病死等いくつかの入り口がある。その中から、生きる喜びを実感させる「誕生」と「成長」の観点、限りある命を実感させる「老、病、死」の観点、コミュニケーションや仮想現実との関わりを学ぶ「理解し合う心に支えられた命」の観点、命をおびやかす様々なものから自他の命を守る「尊い命を守るために」の観点からテーマを設定した。そのテーマごとに、発達段階に応じたねらいを明確にし、実際の活動や学習・体験内容を整理し、教育プログラムモデルを作成した。
子どもたちの実態や学校の実情に対応できる教育プログラムモデルにするために、指導のポイントや事前の準備、学習・体験、事後の振り返りまでの流れを明示するとともに、教員や子どもたちの実際の活動を体系的に整理した。また、それぞれのねらいを達成するために、「感動の体験」「感性を育む」「想像力の育成」の3点を指導のポイントとし、具体的な目標として「子どもたちの予想される心の動き」を示した。事前の準備については、テーマに関連した資料や情報を収集することや、子どもたちの状況を一人ひとり把握すること等の「先生の準備」、テーマに関して予備的な知識を持つこと等の「子どもたちの準備」、「教育課程上の位置づけ」、「家庭・地域との連携」の各項目について、どのような活動が必要となるかを整理した。
「学習・体験」については、命の大切さの実感につながると考えられる内容例を列挙しているので、子どもたちの状況やその学校での指導計画に配慮して組み合わせたり選択するなどして、具体的な計画をたてることができる。事後の振り返りについては、子どもたちに自分の心の動きを振り返らせたり、命の大切さの実感をどのように日常生活での実践へとつなげるか、それらを家庭との連携の観点から示した。また、予想される子どもたちの心の動きを子どもたちの言葉で表現し、ねらいどおりの指導ができたかなどを教員の振り返りの指標とすることにより、次の学習・体験へと発展していくよう工夫した。

(1)生きる喜びの実体験
子どもたちに命の大切さを心から感じさせるためには、今生きていることそれ自体が素晴らしいことであり喜びであると感じさせることを大切にしなければならない。生きる喜びの体験は、子どもたちが夢や希望を持って前向きに人生を生きていく力を培う礎となる。
次頁の表は、子どもたちが様々な体験をする中で実感する生きる喜びを縦に配列し、発達段階において想定される具体的な体験をした時に、子どもたちの生きる喜びの表れであるいきいきとした子どもたち自身の言葉を横に並べて、体系的に整理したものである。子どもたちが実感する生きる喜びには、自己肯定感、自己有用感、成就感・達成感、連帯感、自然や生命への畏敬の念、人を愛する喜び・人に愛される喜び、五感で感じる喜び、芸術に対する感動などがあり、そうした生きる喜びの実感を発達段階ごとに子どもたち自身の言葉の形で表現した。教育プログラムモデルにおいては、「子どもたちの予想される心の動き」に示し、振り返りの指標とした。
なお、個々の子どもたちの状況によっては、その体験がふさわしくない場合もある。子どもたち一人ひとりをよく把握し、適切な体験となるよう留意する必要がある。

(2)教育プログラムモデルと発達段階
子どもたちの命についての認識は個人差が非常に大きいので、命の大切さを実感させる教育を行う際には、子どもたち個々の発達段階を配慮し、体験させていくことが必要となる。そこで、子どもたちの発達の様子を5つの段階に分け、教育プログラムモデルを整理した。
小学校低学年段階では、身近な生活の中で命あるものの存在に気づかせ、自然や人々とふれあうことで、自分が生きていることの素晴らしさや喜びを実感させることが大切である。死への理解が不十分なこの時期に死の現実をつきつけることは、子どもにとってつらい体験となる可能性もあるので、生きていることの喜びを実感させることを中心に構成し、老いや病にふれる体験や死をはじめとした悲しみにふれる体験は少なくなるよう配慮する。

小学校中学年段階では、自分の成長を生きている喜びとして実感させるとともに、喜びや悲しみにふれる体験から自他の命の尊さを実感させる。老いにふれる体験や悲しみにふれる体験を少しずつ組み入れていくことにより、命には限りがあることを感じとらせ、命あるものすべてを大切にする心を育てる。
小学校高学年段階、中学校段階、高等学校段階では、人の命だけでなく、生きとし生けるものの生命の尊厳に気づかせ、互いに支え合って生き、生かされていることに感謝の念を持たせる。成長が進むにつれ、命の誕生から死に至るまでの過程を理解できるようになるので、老いや病にふれる体験や死をはじめとした悲しみにふれる体験をとおして、命をかけがえないもの、他と代えることができないものとして理解し行動できるようにさせる。
そのため、喜びの体験と悲しみにふれる体験をバランスよく配置するとともに、子ども自身が社会の中での自己の確かな存在価値を知り、自分が生かされていることや自分が社会に貢献する喜びや達成感をとおして社会とのつながりを実感できるようにすることが必要となる。

(3)教育プログラムモデル例
教育プログラムモデルでは、命の大切さを実感するための入り口となる生老病死、愛情、喜び等から次の5つのテーマを設定した。

教育プログラムモデル(1) 誕生の喜びと感動
様々な生命の誕生にふれるとともに、自分の命が自分を取り巻く多くの人々の愛情に支えられて生かされていることの実感を持つ。また、生命の誕生の過程について学ぶこと等をとおして、生命の尊厳を体感し、過去から未来へとつながる命を感じ、自分の命のみならず、他者や小さな命を慈しみ大切にしようとする心情や態度を培う。

教育プログラムモデル(2) 成長の支援への感謝
自分の成長を振り返り、成長を実感することで自分が存在することへの喜びを感じるとともに、赤ちゃんを見守る母親等の姿や保育体験学習をとおして、自分の成長を支えてくれた周りの人たちへの感謝の気持ちを持つ。
親世代や高齢者とのふれあいをとおして、将来の自分に思いをはせ、過去から未来へとつながる命を感じる。さらには、地域や社会への貢献をとおして、社会の一員としての自分を感じ、人に支えられて成長してきたことを自覚し、人を支えることの喜びを感じる。

教育プログラムモデル(3) 限りある命の尊さ
身近な人との関わりをとおして、老いや病にふれる体験や、死の悲しみにふれる体験などから、命の有限性や死の普遍性・絶対性に気づき、自他の命のかけがえのなさに思いをはせる。さらに、死の悲しみや苦しみに向き合う人々の思いに接し、人とのつながりを感じ、強く生きようとする心について考える。

教育プログラムモデル(4) 理解し合う心に支えられた命
家族や親しい人たちとのコミュニケーションやスキンシップを基本にして、心の通い合う適切なコミュニケーションの手段を学ぶ。また、仮想現実と現実の区別をはっきり認識し、社会の中でのマナーや望ましい人間関係についても考える。

教育プログラムモデル(5) 尊い命を守るために
人による命をおびやかす行為に対しては未然に防ぐ対策を、また自然災害に対しては、その被害を最小限にくいとめる知恵を学ぶ。そして、命をおびやかす様々な行為に対して、毅然と立ち向かい、克服していこうとする態度を養う。さらに、このことをとおして、子どもたちと大人が共にかけがえのない命を実感し、自他の命を守っていこうとする姿勢を持つ。