「命の使い方」について共に考える
聖路加国際病院理事長 日野原 重明


1 豊かな感性を育む「人との出会い」
子どもの感性や想像力は、一部は遺伝子や生まれながらの素質が影響するが、環境の因子の影響が大きい。環境の因子は子どもが小さい時ほど強く作用する。子どもの時の「人との出会い」は豊かな感性を育む。
大人が「今の子どもは・・・」と言うのは間違っている。どの子どもも可能性を秘めた存在である。スポイルしているのは大人の方で、スポイルしないようにしていけば子どもは必ず伸びていく。大人は子どもにとっての重要な環境であるということを自覚しなければならない。

2 感性を育む人的環境をつくる
兵庫県の素晴らしい自然環境が今日ある私の感性のもとを育んでくれたが、人間の環境も子どもたちの教育には不可欠なものである。自分より年下の子どもたちとの環境、自分より年上の人との環境、2、3世代離れた老人との環境において様々な関係を持つことによって将来子どもが大きく伸びていくかどうかが決まってくる。例えば戦争や貧しい日本の状態を体験した老人が子どもたちと接することで、一人っ子では体験できないような環境を伝えることができる。そうして老人の話を聞くことによって子どもの中に他者を配慮するような感性や愛情が育まれるのである。どういう人間関係を子どもたちのためにつくるかということが非常に大切である。

3 子どもと共に考える
今、子どもを育てている親の世代は子どもと十分にふれあう時間をもてないほど忙しい。しかし、老人世代は自分の時間を自分らしくどのようにでも使うことができる。時間を子どもに提供するということが非常に大切である。忙しく働いている親も子どもと密なコンタクトをとり、子どもとしっかり向かい合う努力をする必要がある。子どもが「これ何?」とたずねたら、「ちょっと待って。百科事典で調べよう。」と親と子どもがお互いに問題解決をしようとする。その姿勢こそが教育である。結果ではなく同じ方向に向かって行くことこそが教育である。
子どもたちへの教育は教員がひたすら「教え込む」よりも、子どもたち自身が様々な生身の体験を積み重ねる中から命のかけがえのなさを感じ取ることができるよう「手を貸す」スタンスを取ることが大切である。

4 命を大切に使っているモデルとの出会い
小学校に行って授業をすることがよくあるのだが、その時「命というものは目に見えない。目に見えないものだけれど、君たちが使える時間こそが君たちの命なんだよ。若くして死んでも本当に自分らしくその時間を使っていたら、その人は長生きしているんだよ。」と「命の使い方」について話をする。命を大切にするということは、ただ病気をせずに長生きするということではなく、どう自分らしく命を使うかなのだということを伝える。『星の王子様』の中に「本当に大切なものは目には見えない」という一節があるが、目には見えない命の大切さを実感させるには、目に見える形でのモデル、つまり命を大切に使っているモデルを見せることも大事である。いつの世も、人は人から学ぶのである。