感性を豊かにする体験学習の大切さ
英知大学教授 高木 慶子


1 子どもは大人社会の結晶
子どもはすでに大人が作り上げてきている社会に生まれてくるのである。受け皿としての大人が変わらない限り子どもは変わることができない。誰が誰に教えているのかを知るべきである。例えば日常生活の中で、飼っていた金魚の死を子どもたちが大人と共にどのように体験するか、これも一つの環境となる。子どもは大人社会の結晶であり、環境から子どもは学んでいく。家族に高齢者や病気の人がいなくても、お見舞いに行ったり通夜や葬式に連れて行く機会をつくることが必要だ。

2 大人の感性を磨く
命の有限性が分からないと、命の大切さは分からない。命は大切にしないと限界があるもので、その時その時を大切に生きる。こうした命に対する感性を大人が磨いていかなければならない。そして生きているということは本当にありがたいことなのだと、子どもに機会あるごとに大人が伝えていくことが大事である。
感性は自分で鍛えなければ豊かにならない。毎日の生活の中には感性を磨く機会はたくさんある。一つの映画を観ることをとおしても感性を磨くことはできるし、人を観察する能力を養うことで感性を育てることもできる。

3 教員研修の重要性
子どもの周りにいる親や教員等の大人が、豊かな感性を持っていれば子どもに伝わるものである。しかしどんなに豊かな感性や知識も、それをどう伝えるかという教育方法が大事で、相手に分かるように伝えることが求められる。そして分からない時には人から学ぼうとする感性が必要である。
豊かな人間性を持った教員こそが、子どもの人間性を育むことができる。教員がゆとりを持って子どもに接し、信頼関係を結ぶことで、子どもへの関わりは違ってくる。教員と子どもがお互いに愛しみ合って過ごせるようになるにはどうすればいいか、心豊かに生きるとはどういうことかを考える研修が必須である。

4 「子どもの死生観についての発達段階に関する意識調査」結果より
「兵庫・生と死を考える会」の調査では、子どもの死生観つまり死の絶対性と死の普遍性が何歳で分かるのかを調べたが、今の日本の子どもは7歳で90%、9歳で100%は分かる。7歳でも死の教育はできることが分かった。そして11歳〜12歳で15〜20%近くの子どもが死んでも生き返れると思っている。またそんな子はテレビやゲームの暴力シーンを好むとかお墓や通夜、葬式に行った経験がない、祖父母と暮らしていない等、特徴的なものが見えてきた。こうした結果を子どもの問題を防ぐという観点で生かしたい。

5 豊かな体験学習に様々な工夫を
命の教育はすべての教科でできるということを、すべての先生が理解していろんなアイディアを出して取り組む必要がある。一つの観点として「命の循環」にふれることを提案したい。鶏の卵の孵化といった命の誕生の体験と、栽培した野菜や飼育した鶏等の動植物を食するという体験をとおして、私たちが生かされているのは他の動植物の命をいただいて食べているからだということを考えさせたい。命の尊さはきれい事だけでは伝わらないということを忘れてはならない。
他にも子どもを亡くした親や、親を亡くして悲しい思いをした人の生の声を聴く体験、産婦人科を訪問して生まれたばかりの赤ちゃんと嬉しそうな母親と接する体験、絵本や童話を用いての授業等、豊かな体験学習は命の大切さについて多くのことを伝えてくれる。
「命の大切さ」を実感させる教育でアクセントを置くべきなのは「命」と「実感」である。実感は心が動く「感動」が糸口となる。実感することで初めて自分のものとなるのである。