はじめに

兵庫県では、阪神・淡路大震災を一つのきっかけとして、子どもたちの心の成長や心の教育の在り方について様々な角度から議論し、子どもたちの生きる力を育むために、全国に先駆けて様々な取組や教育実践を重ねてきた。

しかし、近年自分だけの狭い世界から出ようとしなかったり、自分勝手な思いで行動したりする子どもが増え、命に関わる事件等を引き起こす子どもまで現れている。その背景として、規範意識の低下や社会性の不足等も指摘されている。これらの問題を解決するためにも、子どもたちに「命の大切さ」を実感させることが求められる。そして、子どもたちが自分の中でうごめく不定形の強い力に気づき、それを自分で統制し、うまくつき合っていけるよう支援していくことが必要となる。

子どもたちは、世の中(我々の世界)で生きていく力と同時に、自らの独自固有の内面世界(我の世界)を大切にし、内的な充実感のある生を生きていく力を身につけなければならないのである。そのためには、自らの心を揺り動かすものとの出会いを大切にし、折にふれ自分自身を振り返り、自分自身と対話することにより、自分の人生を自分の責任で生きていくことができる力を育てていくことが必要なのである。大事なのはその「我の世界」において、自分が存在しているという意識を持つことであり、生きていることの素晴らしさや喜びを感じることである。子ども自身の中にそれが実感として湧き起こり、心の底から大事だと思える、そういう世界がまず土台になくてはならない。つまり、発達段階に応じて、「命の大切さ」を概念としてではなく実感として深く心に刻み込むことが、未来を担う子どもたちに生きる力を培うことにつながるのである。

そこで、我々は、子どもたちに「命の大切さ」を実感させるための具体的な方策について検討を重ね、子どもたちに生きる喜びを実感させ、自他の命を大切にすることができる教育プログラムを作成した。第T部理論編には子どもたちに「命の大切さ」を実感させる教育を推進していくための基盤となる考え方を、第U部実践編には「命の大切さ」を実感させる教育を実践していく上でのモデルとなる教育プログラムモデル及び授業用指導案、そして子どもたちに命の大切さを実感させる教育におけるもう一つの基盤となる教員研修を示している。

心の教育の一層の充実に向けて、この「命の大切さ」を実感させる教育プログラムが、子どもたちの実態や発達段階、また学校の実情に応じて、教育活動の中のあらゆる機会をとらえて活用されることを願うものである。


 平成18年3月7日
「命の大切さ」を実感させる教育プログラム構想委員会
委員長  梶田 叡一