卒業式

<日時>

2018年2月28日(木)

<告辞>

 校庭の木々の芽にも、確かな春の息吹が感じられる今日、この佳き日に、多数のご来賓の方々、並びに保護者の皆様のご臨席を賜り、兵庫県立伊川谷高等学校、第41回卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生はもとより、在校生、職員にとりましても、大きな喜びでございます。
 本日、ご臨席を賜りました皆様方には、平素より本校教育活動に深いご理解と温かいご支援をいただき、さらには、巣立ちゆく卒業生の門出に華を添えていただきましたこと、心よりお礼申し上げます。

 ただ今、卒業証書を授与しました、235名の皆さん、卒業おめでとうございます。本校の教育課程を修了し、めでたく卒業の日を迎えることができましたことは、一人一人が、3年間、たゆまぬ努力を積み重ねてきた結果であります。その努力に対し、心から賛辞を送ります。
 また同時に、昼夜を問わず、深い愛情を持って育ててくれたご家族への“感謝”を忘れないでください。ご自身のことは後回し、ほかの何より皆さんのことを優先してくださった“おかげさま”で、皆さんは、今日、創立43年の伝統を誇る県立伊川谷高等学校卒業という、誠に喜ばしい日を迎えることができました。
 十数年前、この世に、神秘に包まれた崇高な「命」を授けてくださり、今日を迎えるまで育ててくれたことは、「あたりまえ」のことではありません。これこそ、最大の幸せであり、“有り難い”ことなのです。人生の大きな節目にあたり、ご家族の方々に、「ありがとう」の気持ちを、ぜひ、伝えてください。

 さて、晴れの日を迎えられた皆さんの胸中には、3年間の学校生活のさまざまな場面が、それぞれの思いをもって、蘇っていることだと思います。
 合格発表の日のこと、初めて袖を通した制服、新しい友達・先生との出会い、静寂の「朝読」に始まる一日、高等教育の授業にテスト、切磋琢磨し、互いに高め合った部活動や生徒会活動、春の遠足、盛り上がった球技大会、クラスが一体となった文化祭、ナイターまで滑った北海道修学旅行、つらくとも必死に足を前に運んだマラソン大会、少し照れながらも誇らしく、伝統のフォークダンスで締めくくった体育大会、そして、不安な気持ちをもちつつ、真剣に自分自身と向き合った進路・・・まだまだ、実に多くのことを経験されてこられました。
 クラスメイト、部活動の仲間をはじめ、さまざまな出会い・人間関係があったことでしょう。ともに語り、笑い、はしゃぎ、時には涙し、また時には意見が合わず口論したこともあったでしょう。
 しかし、皆さん、これらの経験と、出会った友達は、生涯の「財産」です。「袖触れ合うも他生の縁」という言葉があります。人と通りすがり、袖が触れ合っただけであっても、それは、その人と、産まれる前、前世から何かの「ご縁」があったのだということを意味しています。
 現在、地球上に約70億の人が暮らす中、同じ時代に、同じ国で、兵庫県の伊川谷高等学校で出会ったことは、決して偶然ではなく、深い「ご縁」で結ばれているということなのです。この「ご縁」、これからも、どうか大切にしていってください。
 皆さんの「母校」となる本校は、皆さんが20歳代半ばに創立「50周年」を、70歳代半ばには「100周年」を迎えます。必ずや皆で元気に集い、後輩たちに力を与えてください。

 100周年を迎える頃、世の中は、どのように変わっているでしょうか。
 先日、大きく報道されましたが、JAXA「宇宙航空研究開発機構」が、平成26年、2014年に「太陽系の誕生」と「生命誕生」の秘密に迫るミッションを持たせて打ち上げた、小惑星探査機「はやぶさ2」が、地球から約3億キロ離れた小惑星「リュウグウ」へ、2月22日の朝、約4年をかけ、無事、着陸に成功しました。
 さらに、他の星での生活を実現すべく、調査・研究も始まっています。酸素を生み出す微生物を大量に増殖させ、わずかな太陽の光でも育つ「植物」を生み出せば、不毛の惑星「火星」に、新たな世界を生み出せると、我が国の大手広告代理店が主導し、すでに計画をスタートさせているのです。
 また、平成18年、西暦2006年に、初めて作製に成功したiPS細胞を使った再生医療の目覚ましい発展が、あきらめかけていた多くの患者の人達に希望の光を与えています。
 加えて、バイオテクノロジー(生物工学)の急速な進歩が、生命の設計図である遺伝情報の書き換えを可能にし、昨年11月、中国において、遺伝子編集した双子の女の子「ルル」と「ナナ」を誕生させ、「デザイナー・ベビー」への倫理上の問題が議論されています。
 これまで想像すらできなかったことが、次々と現実に起こっている現在、イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、世界35ヵ国、400万部を突破している、そのベストセラー著書「ホモ・デウス」の中で、AI(人工知能)やバイオテクノロジー(生物工学)の急速な進化など、人類が、歴史上初めて、これまで「神」だけに許された領域に踏み込み、自らを「神」へとアップグレードしている、そして、「老化」と「死」のプロセスが理解できれば、それを操作できると考えられており、少なくとも一部の人たちは死なずに、「神」のように永遠に生き続ける時が来る、とまで述べているのです。

 皆さん、世界は広く、変わり続け、人類の進歩・発展は私たちの想像をはるかに超えています。
 これだけ急速に変化・発展し続ける世の中、私たちに、これまで以上に求められることは何でしょう・・・それは、一人一人が、しっかり自分を見つめながら、自らの人格向上に努力し続け、「人として」正しい「判断力」を伴った、他者への「思いやり」を持った人になることなのです。
 AI(人工知能)やバイオテクノロジー(生物工学)の進化などにより、理想的な素晴らしい社会「ユートピア」を創るのも、最悪の社会、「ディストピア」を創るのも、すべて、他の誰でもない、私たち人間なのです。
 私は、自らの人格を向上させる原点、それは・・・皆さんが、幼少のころから、ご家族からいただいた「教え」の中にこそあるのだと、確信しています・・・「ありがとう」「ごめんなさい」「おはよう」「おやすみなさい」「約束したよ」「時間どおりにね」「うそはダメ、正直にね」「偉そうにしないこと」「目を見て話そうね」「兄弟、仲良くね」「お父さん・お母さん・おじいちゃん・おばあちゃん、家族みんな、あなたが宝だよ」「友達と仲良くね」「人には優しくね」「将来、何になりたい・・・夢を大切にね」「すべての命を大切にね」などなど、これらは、皆さんが、「人として」生きる上で、最も大切なことなのです。
 そして、もう一点、皆さんが産まれながらに持っている「エンジェル・スマイル:天使の微笑み」、最高の「笑顔」。産まれた時から、皆さんの「笑顔」が、お父さん・お母さん、ご家族、周囲の皆さんを幸せにしてきたのです。「笑顔」に人が集い、「幸福」が集まるのです。

 これから、いろいろな壁、逆境に出合うこともあるでしょう。アメリカ、ペンシルベニア大学の心理学教授で、アメリカにおいて、「天才賞」とも称される「マッカーサー賞」を受賞された、アンジェラ・リー・ダックワース氏が、さまざまな職業で成功を収めている人たちの共通点を研究し、人生で成功するために必要な「究極の能力」を明らかにしています。その「究極の能力」とは、「知能」や「学歴」、「外見」や「身体的能力」の差ではありません。これこそが「グリット(GRIT)」、「やり抜く力」だと結論づけています。長い時間、継続的に粘り強く努力する力、グリットこそが、さまざまな道において、成功に求められる力なのです。
 コツコツと続けた勉強、つらくともやり抜いた部活動、昨日、皆勤賞を受けられた22名の驚く粘り、これらは、見事な「グリット」なのです。
 「運命」という言葉があります。これは、どこかで誰かに最初から決められているものではありません。「命」の「運び方」こそが「運命」なのです。「命」の「運び方」は、皆さんにかかっています。
 「志」を高く、それぞれ進む分野で、「笑顔」を忘れず、「グリット:やり抜く力」で、幸運にもいただけた「命」の炎を燃やし続けてください。
 必ずや、幸多き「命」が運ばれ、真に心豊かな人生が待っています。そして、人生の目的・・・「自らの『魂』を磨き、『心』を高め、獲得した力で、世のため人のために役立つ人となる」・・・この目的に向かい、突き進んでいってください。

 保護者の皆様方、本日は、誠におめでとうございます。高等学校の3年間は、成長・変化の激しい時期であり、お子様の健やかな成長を願って支えてこられた皆様には、さぞや、ご苦労も多かったことと拝察いたします。それだけに、今日の佳き日を迎え、立派に成長されたお子様の姿に、感慨もひとしおのことと存じます。
 職員一同、心よりお慶び申し上げますとともに、今日まで本校にお寄せいただきました深いご理解と多大なるご支援・ご協力に、改めて感謝申し上げます。
 また、ご多用の中、ご臨席を賜りましたご来賓の皆様には、重ねてお礼を申し上げ、今後とも、本校の教育にお力添えを賜りますようお願い申し上げます。
 地域の皆様におかれましても、温かく本校生を見守っていただき、誠にありがとうございました。今後、卒業生が、社会のさまざまな分野で活躍することで、地域に恩返しできるものと信じています。

 さあ、卒業生の皆さん、いよいよ出発の時です。自らを信じ、胸を張り、正々堂々と、正面突破で進んでいってください。伊川谷高等学校は、永遠に、皆さんを見守り、応援し続けます。
 それでは、希望に満ちた出発の日にあたり、この学び舎を巣立ちゆく卒業生の皆さんの、前途に幸多からんことを、心から祈念し、「式辞」といたします。

平成31年2月28日

兵庫県立伊川谷高等学校校長 川崎 芳徳

 

<卒業式の様子>