「本当のぶっ飛び方教えます」

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 ここ、山之内高校では様々な問題が持ち上がり、教師一同頭を痛めていた。
 それも、たった二人の生徒にしてやられているのだ。
 一人は、白石直人という男子生徒だ。家は無類の大金持ち。彼の性格はひん曲がっており、手の打ちようが無いほどだ。他の一般的な生徒とは違った思考をするのだ。
 もう一人は、前畑桜という女子生徒。彼女はなんとか道理というのを心得ているものの、その適用の仕方を根本的に間違えているので性質が悪い。肝心の意味を悟っていないのだから結果はボロボロである。
 この二人の勝手な行動に振り回され、校長は登校拒否。生徒指導担当主任は胃をこわして入院。二人の新任女性教師は泣き暮らす毎日。問題児二人を抱える担任教師は毎日頭痛に悩まされる。まさに、学校崩壊である。また、ふたりに悪気が無いというのがこれまた困ったことなのだ。

第一話

 中間テスト一日目 教室で AM8:20
「いやー、一晩漬け込んだけどやっぱりむりかぁ・・・・ 教科書見ても何がなんだか・・・」
 一人の男子生徒が自分の勉強不足を嘆いている。
そこへ、一人のメガネをかけて髪をオールバックにした生徒がやってきて、彼の肩をポンポンと叩く。
「山田。どうやら・・・つけが回ってきたようだな。だから先生方も普段からの予習復習をかかさないようにとおっしゃっているのだが・・・ こうなってしまっては遅すぎるようだな。無念だろうが、華と散るがいい。」
 全く慰めになっていない言葉をかけるのが、問題児の一人、白石直人である。
「けっ。いいってことよ。今回は残念だったが、期末では挽回して見せるぞ!」
 まだ、中間テストも終わって無いのに、あきらめの早い男である。
「ふむ、その前向きな姿勢は評価に値するな。」
 そういって直人は、一枚の一万円札を差し出す。
「これでうまいものでも食って元気をだすんだな。どの道、今回はいくらがんばってもたいした点数のアップは望めん。鉛筆でも転がすんだな。せめてもの情けと思うがいい。今度からは早めに手を打っておいたほうがいいぞ。」
え? いいのか? す、すまねぇな・・・へへ。」
 と言いつつ、山田はズボンのポケットに札を押し込む。いいのかそれで?
山田はくるっと向き直り真顔になって、直人に話し掛ける。まるで、何事も無かったようだ。
「ところで直人。お前はどうなんだよ? お前だってそんなに勉強してないはずだろうが。結構遊んでいたろ?」
 直人は髪をかきあげながら、
「わたしだってテスト前ぐらいは勉強する。一週間前ぐらいからだな。一日三時間、みっちりとな。」
「あ、あんまり威張れることじゃないとおもうが・・・ まぁ、俺よか十分にしてるのは事実だな。でもよぉ、今回のテスト範囲広かっただろ? どこを勉強してきたんだよ? 俺、どこを勉強したらいいか全くわかんなかったぜ。」
 その問いに、直人はニヤッと笑って答える。
「ふふ・・・ その点、私は抜かりは無い。事前に各先生方の所をまわって、テストに出るところをチェックしてしているからな。」
「おっ、やるなぁ・・・・ でもさ、そんなに詳しいことは教えてくれないだろう?」
「ふっ、いくら口の堅い教師でも、口を割らせる方法はいくらでもあるさ。ちなみに、数学の三木先生はお酒が好きらしいのでな、先生宅に日本酒を親の名前を使って、日本酒を一本送っておいた。翌日には要点をたくさん教えてくれたぞ。君もお金に余裕があったら試してみると良い。ああ、そうそう。間違っても金は送らんほうが身のためだぞ。品物にしておけ。品物なら問題にならんからな。それに、自分の名前よりかは親の名前のほうが、あちらとしてももらいやすいと思われるな。まあ、この方法を使う場合は親とアポをとっておくのは必須条件だがな。」
「な、なるほど。おまえって狡猾だな。」
「はは、事前策を講じたと言ってほしいな。とにかく、いかに要点を絞って勉強するかがテストでは重要だぞ。今の時代、試験範囲すべてを復習するのは愚の骨頂だよ。いかに無駄なく勉強して高得点を得るか・・・ まぁ、わたしにとってテストは一種のゲームのようなものと感じているがね。」
 な・・・・なんという生徒だろうか・・・ ここまで狡猾にテスト勉強を運ぶものがいようとは・・・・・・ しかし、彼らも彼らだが、数学の教師は酒によってぺらぺらと試験の内容をしゃべったという。教師の風上どころか風下にも置けぬ輩よ・・・

 少しして、
「遅刻やー!」
 廊下の方から声と足音(走っているようだ、そりゃもう全開で)が聞こえてくる。
バンッ!

 教室のドアが開け放たれ、一人の女性が転がり込んでくる。
女は周りを見渡すと、一息ついて安堵したようだ。
「はぁー。先生はまだか。助かったわー。」
 そして、すたすたと席に着く。どうやら、白石の横が自分の席らしい。現在の時刻はAM08:31である。
「どうした、桜? 寝坊か?」
「おほほ。自慢じゃーあらへんけど、バリバリの寝坊や!」
 確かに、自慢できる話ではない。彼女がもう一人の問題児、前畑桜である。
「ほう、テスト勉強か?」
「あったりまえやろ。夜中の四時までみっちりとな。」
「なるほど。一夜漬けか・・・」
「何とでも言え。うちは一夜漬けが最も効率がいい勉強法なんや。今までだって、それでやってきとーからな。」
 ふん、と胸をはる前畑桜。
そこに、山田がよって来る。
「なにー、前畑も一夜漬けか? 俺もだ。仲間じゃねーか。まぁ、一緒に落ちぶれていこうぜ。」
「なに抜かしとんや? あんたとうちの勉強法が一緒やったら、釣合いが取れへんわ。大体、今までのテストでうちが五教科400点台で、あんたが300点台。えらい差やな。同じ一夜漬けでも効率ってもんが違うからやろなぁ。」
 い、一夜漬けで四百点台? ・・・大したものである。
「大体、山田! あんた何時間勉強したんや?」
「・・・えーと、九時から始めて十二時、ま、ざっと三時間ぐらかな。」
「あほかぁ! 三時間やて? ざっとっていうほどの時間か!? それは、一週間ぐらいまえから勉強するやつらの話じゃ! ったく、それでは点取れんわ。よう聴きや、うちは学校帰って4時から七時、とんで八時から十二時、とんで一時から四時まで。そう合計、十時間体勢の勉強やっとんやで! 一夜漬けってんのはこれが普通や!」
「じゅ、じゅーじかんも勉強だと・・・」
 山田は、ショックを受けたようで少し後ず去る。
「ふふふ、驚いたか。」
「なんて、無駄な時間を費やしているんだ? それだけ夜起きてるとは・・・お肌にもよくない、体にも悪い。前畑っ! 貴様、自分を殺す気かっ!?」
 山田は声を荒げてわなわなとしながら叫ぶ。どうやら、違った意味で衝撃を受けたらしい。しかし、男の言うセリフではないと思うが・・・
「あんたって・・・アホやな。」
 桜は率直な意見を述べる。
「なっ・・・アホだと? 俺はお前のことを心配して・・」
 桜は、目を細めて窓の外を眺める。
「・・・そりゃうれしいことやけどな、そういうことよりもテストは大事なんや。テストっていうんはハッキリ言って、教師との勝負やで。これに負けたら、ずっと「頭が悪い」とゆー烙印を押されるんや。周りを見ぃや、教師の頭がええ子とわるい子への圧倒的態度の違い。ほとんど人種差別に等しいもんがあるで。無論、差別はいかん。でも、結局こういった平等という権利は勝ち取らないかんねん。つまり、テストっちゅうんは、教師と生徒の学校での権力争いなんや!」
 ガッツポーズで決める桜。直人といい、桜といい・・・ この二人はなんでこんな考えを持つようになったのだろうか? 教師が頭を痛めるわけも良くわかる。
「は、はぁ、なるほど。そういう見方も・・・ムリすれば出来なくはないな・・・」
「でしょ?」
「ええ、まぁ・・・・・・」
 圧倒されている山田に代わって直人が口をはさむ。
「ふむ・・・ しかし、桜。君はいつも好戦的だな。何故、平和裏に物事を解決できんのだ? 君が育ったのがアフガンやチェコ、サラエボだとか言うのであればムリも無い話だが。ここ日本では戦争は無いのだよ、今のところはね。」
「うちが育ったんは大阪やからな。はっきりってあそこは毎日が戦争なんやで。」
「ほう。しかし、大阪で戦争といえるような大きな抗争は近年なかったはずだが?」
「ちゃうわい。毎日の生活がサバイバルやと言いたいんや。気が強いひとばっかりおるからな。こっちが引くということはイコール負け、そうゆう生活状態やったんや。」
 どんな生活を送っていたのだ桜よ?
「・・理解に苦しむ発言だが・・・ つまり、君にとってはアフガンで生活してるようなものだったと?」
「あのなぁ・・・ なんもアフガンまでとはいっとらん。ただ、大変やった、それだけや。」
「そうか。苦労したようだな。良かったら、いずれ君の昔の話でも聞きたいものだ。なにかの参考になるやもしれん。」
「そ、そう? ならへんと思うねんけど・・・まあ、ええけどなー。」
労わっているようで労わっていない。それが、白石直人である。さらに、ちゃきちゃきの関西弁をまくし立てながら、諸刃の性格を持つもの、それが、前畑桜である。

 AM8:40ごろ

「む? しまった。私としたことが・・・」
 直人が何かを必死に探している。が、見つからないようだ。
「どうしたんや?」
「うむ・・・ どうやら、鉛筆を忘れてしまったようでな。いつもの筆入れしか持ってきていない。鉛筆は別のに入れておいたのだがな・・・ いまごろ、机の上で主も無くさみしく思っていることだろう。」
 桜は三本ほど筆箱から鉛筆を取り出し、
「それぐらいやったらうちが貸したるけど・・・」
「おお、かたじけない。」
 といって、直人は鉛筆を手にとるが、ふと何かを考えて、携帯電話を取り出す。
「あと十分か、間に合うな。桜、気持ちだけありがたく頂こう。鉛筆はうちから届けてもらうことにする。」
 携帯電話の番号をプッシュする直人。桜は時計を見て
「ちょっと、後、十分も無いで・・・どうやって届けてもらうんや?」
「なに、方法はある。・・・・・ああ、私だ。鉛筆を忘れてしまってな。至急届けてほしい。削ったもの五本程度でいい。場所は、学校西館、三階の右から三番目の教室だ。リミットは0849だ。間に合うか? ・・・そうか、よし頼む。」
「どうなんや?」
「ああ、問題ない。」
 直人はふっと笑って席に着く。桜は怪訝な顔で見守る。

そして、8時47分頃。

きぃぃいいいん・・・
 教室中に爆音が鳴り響く、その主はこっちに向かってきているようだ。
「来たか・・・」
 すると、直人は窓際に向かう。
どうも、上空から音が近ずいてくるようだ。
 ォワァアアアア!
「うわっ!」
「きゃー」
「な、なんなんだー?」
 教室全体が騒然とした騒ぎに包まれる。
爆音とともに教室の横に現れたのは、なんと戦闘機であった。
 直人が、からからっと窓を開けると、ますますの爆音が教室を襲う。
「直人様。お持ちしました。」

 戦闘機のスピーカーから男の声が発せられる。
すると、紐が教室の中に打ち込まれ、そこを小さい箱が滑車にぶら下がって直人の手にわたされる。筆箱である。
「助かった。ご苦労。」
「では、これにて。テストをがんばり下さい。」
「うむ。ありがとう。」
 そして、またまた爆音をなびかせながら、戦闘機は去っていった。
直人は、何食わぬ顔で席に戻る。
 周りの生徒は何が起こったのか分からず、呆然としている。
「な、なんや? さっきのは?」
 桜がおずおずと聞いてくる。
「見ての通り、スーパーハリアーだよ。垂直離陸ができるVOLT機だ。普通の飛行機では止まれまい。我が家ではあれを三機ほど所有している。」
「そりゃまた・・・ あんた戦争起こすきか? というより、あんなもん市街地で飛ばしたらえらい迷惑やろうが!」
 直人はしばし時計を凝視して・・・
「問題ない。我々の計算上ではあるが、十五分以内のフライトであれば、目撃者を少なくできる。さらに、一時間以内であれば、防衛庁に所在を突き止められることは無い。今回のフライトスケジュールを推測する限り、十五分以内に家に帰っていることだろう。全く、問題はない。まぁ、地域住民はしばしの轟音によってビックリしたかもしれんが、後で、地域住民に粗品でも送っておけば問題にはなるまい。」
「そ、そーゆーもんかねー?」
「そううゆうものだ。」
 淡々と語る直人に、周囲の人々は別に気にすることも無く、テスト勉強に励んでいる。こんなことは毎日ざらに起こる出来事なのだ。いちいち騒いでたら体が持たない。
 キーンコーンカーンコーン・・・
即座に、教師が現れる。
「ええい、全員着席!」
 ベルと同時に試験官が教室に入ってくる。あまりのタイミングの良さに、クラス中がズッこける。
「なんなんや、このタイミングは! もしかして外で待ってたんか?」
 いち早く立ち直った桜が、教師にまくし立てる。
「いや、職員室からここまでへの到達時間を計算してみただけだ。道中、一度も止まることなくたどり着けた。どうやらピッタリだったようだな。」
「無駄に頭を使うやっちゃな。」
 まったくだ。
しかし、高柳としては変わった考えをしていた。
(むう・・・ 見事な計算能力だ。だてに数学の教師はやっていないということか。三木先生もなかなかの教師であるが・・・ この男もまた、切れ者ということになるな。注意しておかねば・・・・・・)
 一体、どこをどう注意するのかさっぱりだが・・・
「さー、テストを始めるぞ。」



第二話

 とある日 四時間目

「えー、というわけでだ、この時間は自習となった。現時刻を持って、このクラスは私の管轄下に置かれる。それぞれ勉強をするも良し。寝るも良し。遊び呆けるもこれまた良しだ。」
 直人の発言に皆が「イエーイ」と喜び叫ぶ。普段は迷惑をかけられてる生徒も、こういうときは「直人がいてよかった」と思うのだ。直人の思想は、何か課題を与えられていないときは、すべての行動はそれぞれの良心に任されているというものだからだ。だから、遊び呆ける者がいても全く気にしないのだ。
 しばらくみんなは好き勝手なことをしていたが、十分ぐらい経つと、やることが無くなってしーんと静まり返る。
「なあ、なんか面白い遊びないかな。」
坂本が友人に問い掛ける。
「マージャンでもすっか?」
「お前持ってきてんのかよ?」
「カードマージャンだけどな。」
「でも、賭けないとおもしろくないだろ。バイトの金も底をついてるしな・・・ 俺らに賭けるものなんてないだろうが。」
 学生とは思えない会話である。将来が思いやられる。
ふと直人が立ち上がって・・・
「面白いものがある。しばし待て。」
と言って、どこかに消えていった。
 二、三分して直人が大きなボード状の箱を抱えて戻ってきた。
「な、なんだよそれ?」
「うむ。ボードゲームの一種で、人生ゲームというやつだ。」
「おおっ!」
 クラス中の生徒がわらわらと集まってくる。
「おい、直人。こんなものどこに置いてたんだよ。ロッカーには入らないと思うが・・・」
 直人は、ふんっと鼻をならし、ちっちっちと指を振りながら答える。
「ロッカーではすぐバレる。この学校のわたしの管轄下で最も機密性の高い施設の生徒会室に隠しておいた。元はといえば、生徒会のメンバーが暇なときに皆で使おうと用意したものなのだが、今まで残念ながら使う機会がなくてな。これをおいていることすら、私も忘れていたのだが、たった今、思い出したのだ。」
 こんなものを堂々と持ち込むとは・・・ こんなもので遊んでいる生徒を教師が見たら、さぞかしビックリすることだろう。
「なぁ。これって何人まで遊べるんだ?」
 坂本が直人に問い掛ける。直人は説明書を片手に読みながら、
「これによると、八人が限度らしい。駒も、八個しかない。無理やり駒を増やして人数を増やすことも可能だが、それをすると今度はお金が足りなくなってしまう可能性が出て来るからな。やめといたほうがいいだろ。」
 そして、直人は周りを見渡し、ぼそっと言う。
「では・・・これに、参加したい者は挙手したまえ。」
「はーい!」
 人々がすっと静かに手を上げる中、一人の怒号が響き渡る。彼女は、いすに立って、自分が手を上げていることをアピールしようとしたようだが、それよりも叫んだほうが手っ取り早いと感じたらしい。言うまでもないが、前畑桜である。
「桜・・・ 私は、挙手。つまり、手を上げてくれと言っただけだが? なにも、声まで出せとは言った覚えはないが・・・」
 そうだそうだとクラスのみんながわめきたてる。が、桜は胸をはって言い放った。
「いーや。うちには、ほんとに参加したいんやったらあらゆる行動を取れ、とも聞こえたんやけど。まちがっとるか?」
 あまりに、正当な事らしく言うもんだから、さすがの直人もたじっとなる。
「・・・君。おそらくその声は、自分勝手な解釈なのではないかね?」
「どっちでもええ! とにかくうちは参加したいねん!」
「むう・・・」
 あまりに、バッサリと切り上げられた為、直人は言うことがなくなってしまった。そして、これ以上こっちが反論してもメリットは無いと判断し、話を進ませる。


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