学校長式辞

第29回卒業証書授与式 学校長式辞

 雨水を過ぎ、陽の光に力強さを感じる頃となりました。弥生三月の佳き日に、参議院議員様、育友会長様、同窓会長様、中学校長様、学校評議員様をはじめ、多くのご来賓、保護者の皆様のご臨席を賜り、兵庫県立北摂三田高等学校第29回卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生ならびに教職員一同、この上ない喜びとするところでございます。ご臨席を賜りましたご来賓の皆様に、高い席からではございますが、心より感謝申し上げます。また、この日を待ち望んでおられた保護者の皆様には、教職員を代表いたしまして、忠信よりお祝い申し上げます。誠におめでとうございます。

 さて、卒業生諸君、今日の門出を心からお祝いします。諸君は今、本校を卒業し、9,830名の卒業生のひとりとしてそれぞれの道へ歩み出そうとしています。本校としては、昭和61年4月、校名の由来ともなった当時の「北摂ニュータウン」のちの「神戸三田国際公園都市」に開校した学校が僅か30 有余年で10,000人になろうとする有為の人材を輩出することができたという感慨でもあります。

 思えば、卒業生諸君が生まれたのは、21世紀を目前にし、日本で商業ブロードバンドサービスが開始された頃でした。こののち、日本と世界はインターネット社会へと、また経済、文化などのグローバル化という方向へと大きく舵を切ることとなります。まさに諸君はディジタルネイティブ、生まれたときから周囲の社会はグローバルに向かう状況だったわけです。

 ところが、3年前、入学間もないオリエンテーション合宿で私が感心させられたのは、ネット社会への適応性ではありませんでした。全体を考えた規律正しさ、協力しながら働く協働性、喜びを分かち合う共感性。これらは、北摂三田の学校生活の中でさらにまとまり学校文化となっているようにも思います。私はこんな諸君の特質の高さこそ、これからのグローバル社会に求められるものと考えています。本校は昨年度よりHokusan GLCと名付けたグローバル人材育成のプログラムを開始しました。学校全体で国際性を高め、自らのキャリアを築く取り組みを行うものです。諸君は、姉妹校St. Columba’s Catholic Collegeとの交流を中心としながら国際理解の幅を広げていきました。また、修学旅行でのキャリア研修をはじめ、さまざま体験的なキャリア教育に取り組み、世界を意識しながら自らのキャリアアンカーを築く取り組みを行ってきました。また人間科学類型を中心に課題研究を進め、知識を統合、活用する学力の育成に取り組んできました。大学などが行う発表会に参加し、自らの考えを表現する学習は二九回生が本格的に取り組み始めたことです。地域住民の方々の参加を募り、まちづくりのイベントを自ら企画したことにはさらに驚かされました。このような活動の中で、諸君の協働性、共感性はいかんなく発揮されているように思います。

 一方、諸君の生きてきた18年間は、新潟中越地震や東日本大震災、熊本地震など、自然災害の多い時期でもありました。また、アメリカ同時多発テロをはじめとして、国家間のみならず、宗教やイデオロギーの対立が増した時代でもあります。資本主義の成熟は人々に豊かさをもたらすのではなく、格差と貧困をもたらしているとも言われます。しかし諸君は皆、本校の建学の精神のごとく高い「志」を持ち、個としては人間性の高さを目指し、社会貢献への意欲を持っています。諸君の将来の活躍のステージはこんな混沌とした実社会にあります。問題はいずれも非常に複雑ですが、本校で培った協働性、共感性を生かしながら、着実に少しずつ解法を見つけ出していくことを期待します。

 しかしながら、諸君自身のことで大いに考えてもらいたいことがあります。それは、他者の多様性に対しては非常に寛容であるのに、自らの好不調や予想外の結果、言うなれば、自己の多様性には不寛容であるように感じます。高い目標設定と自己規制は向上を促しますが、頑なすぎる基準は自己否定につながることもあります。また時には、異なる自分への発展を止めることにもなります。他者の多様性に寛容であると共に、自己の多様性にも寛容で、自らの予想しない結果や反応を楽しみつつ、これから自らの発展を引き出して欲しいと思います。

 さて、そろそろ諸君を陽光の中へ送り出す時が近づいてきました。この後、諸君は、一人一人がそれぞれの道を歩いて行くこととなります。諸君が苦しくなった時に忘れて欲しくないのは、ここに居る私と北摂三田高等学校教職員は、これからは陰ながらではありますが、諸君の側でこれからも常に応援し続けていることです。

第29回卒業生の未来に幸多かれと祈りつつ、式辞とします。


平成29年3月1日                        
兵庫県立北摂三田高等学校長
竹中 敏浩