学校長式辞

第28回卒業証書授与式 学校長式辞

 雨水を過ぎ、澄んだ空気の中に光の柔らかさを感じる頃となりました。この早春の佳き日に、育友会長様、同窓会長様、中学校長様をはじめ、多くのご来賓、保護者の皆様のご臨席を賜り、兵庫県立北摂三田高等学校第28回卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生ならびに教職員一同、この上ない喜びとするところでございます。ご臨席を賜りましたご来賓の皆様に、高い席からではございますが、心より感謝申し上げます。また、この日を待ち望んでおられた保護者の皆様には、教職員を代表いたしまして、忠信よりお祝い申し上げます。誠におめでとうございます。

 さて、第28回卒業生諸君、卒業おめでとうございます。前菅村校長先生に入学許可を受けた諸君は、今、本校を卒業し、9,554名の卒業生のひとりとしてそれぞれの道へ歩み出そうとしています。


 北摂三田高等学校は、本年度創立30周年を祝うことができました。30年前の昭和61年4月、当時「北摂ニュータウン」と呼ばれた真新しいまちに開校したのが本校です。卒業生諸君は、さらに大規模となったニュータウン「神戸三田国際公園都市」と、その周辺地域、また非常に豊かな農業生産を誇る丹波篠山地域で育ち、ここ北摂三田高校で3年間の学びをともにしました。このようなニュータウンという計画的なまちづくりの考え方は100年ほど前、英国で発祥したものですが、諸君の育ったこの地域のようにニュータウンが機能的で美しく発展し、かつ周辺地域も豊かな農業生産を継続し、両立しているのは世界的にも珍しいことなのです。今後諸君は日本の様々な都市や地域へ、また将来は世界へ移り住む人もいることと思いますが、是非諸君のルーツを育んでくれたこの地域の素晴らしさを誇りとし、今後も大切に思ってくれることを願います。

 卒業にあたり諸君に、今後もさらに磨いてほしい力が2つあります。 ひとつは、世代間コミュニケーション力です。私自身が米国の高校生に授業をする中で感じた点、彼の地の高校生が日本の高校生より優れていると感じた点は、多様な人種や民族が同じクラスにいる中で育まれた国際コミュニケーション力ではなく、世代間コミュニケーション力でした。これは、日本語と英語の間にある言語表現の差が主な原因ではなく、高校生に与えられる機会の多少と努力の差が大きいように思います。グローバル化が進展する社会の中で、外国語学習の大切さが強調され、国際コミュニケーション力が強調される時代ではありますが、私としては、世代間コミュニケーション力こそが諸君がこれからより求められる力と信じています。

 今ひとつは、多様さを受け入れる寛容性であり適応力です。先にお話ししたように、諸君が育った環境は世界に誇ることができる素晴らしい環境です。しかし世界に目を向けると、民族・政治・宗教などの違いを発端に、国家間やひとつの国家の中で紛争が絶えません。また、世界で最も豊かな国と言われる米国では、3億人の国民の上位400人の富が下位1億5千万人の富に匹敵すると言われるような想像しがたい格差社会に突入しようとしています。そして、このような格差は紛争やテロを生む土壌になると言われています。こんな不安定な世界であるからこそ、日本人としての寛容性や適応力をこれからも磨いてほしいのです。もともと日本人は、寛容性や適応力に富み、ともに働く協働性に富むと言われますが、北摂三田の生徒は高校生活の中で特に協働性に優れているのではないでしょうか。しかし、今のところ諸君のこの力は校内外の恵まれた環境の中で発揮されているものです。今日から船出をしていくより外の世界の中で、諸君の持つ協働性が生きるよう、寛容性と適応力をさらに磨いてほしいと思います。自分自身と、加えて周囲をも変える力に、きっとなってくれると信じます。

 さて、そろそろ諸君を陽光の中へ送り出す時が近づいてきました。私から諸君への要求は、ずいぶんレベルの高いものではありますが、逆にこの3年間で本校が諸君に授けることができた力は、これから70年近い諸君の人生を考えると不十分なものかも知れません。ただ最後に言っておきたいのは、諸君が道に迷って立ち止まってしまった時に、私と北摂三田高等学校教職員は陰ながら見守り、諸君の側で常に応援し続けていることを忘れないでいてください。

第28回卒業生の未来に幸多かれと祈りつつ、式辞とします。

平成28年3月1日

兵庫県立北摂三田高等学校長  竹中 敏浩