みなみんの教え 〜偏差値20アップする魔法の習慣〜 
                                     (作なおみん
)        
毎週木曜更新

自分ひとりしかいないAと思うと

紗保里は喉の奥からこみあげてくる苦いものをこらえ、CDプレイヤーのスイッチを押した。「Tears In Heaven」厳かなピアノ伴奏の後、クワイアーボーイズの天使のような歌声が流れ始める。紗保里は裏声で一緒に歌い始めた。「自分一人しかいない。どうにでもなれ。」と声を大きくしていく。
 今日の放課後も、なかなか始まらないコーラスの練習に、一人また一人とクラスから出て行ってしまった。紗保里は意を決して指揮担当の東一矢(ひがし かずや)に指揮をしてくれと頼んだが「俺やだよ。」と断られ、ピアノ伴奏の牧かなえ(まき かなえ)にキーボードを頼んだが「弾いても歌わないもん。」と言われた。紗保里は「もう知らない」と思ったが、昨日のみなみんの教えを思い出し、「『自分一人しかいない』んだった。人に頼ったらだめだよね。」と、一人で歌の練習を始めることにしたのだ。
 一回目を歌い終わったが、一緒に歌いだすものは誰もいなかった。紗保里はそれぞれの友達としゃべっているクラスメートを絶望的な気持ちで眺めたが、ため息を一つつくと、もう一度CDをかけて歌いだした。
 歌の途中で、「ちょっと、みんなも歌いなさいよ。」という声が聞こえた。文化委員の飯田綾だ。「お前が歌えよ。文化委員。」「だいたい、賛美歌なんて辛気臭いんだよ。そんな高い声出ないし。」「出場辞退すればいいじゃん。」口々に不満の声が上がる。紗保里はいよいよだめだと思ったが、「自分一人しかいない」と思って、歌い続けた。歌い終われば泣くだろうなと思いながら。
 その時、窓際の一番後ろの席で頬杖をついて外を見ていた深山志音が独り言のようにつぶやいた。「その曲、賛美歌じゃないぜ。もとの曲は、ロック史に残るギターの神様エリック・クラプトンの曲。」「え?そうなの?」深山ファンの女子が食いつく。「クラプトンの4歳の息子が自宅アパートから転落死した。その死を悼んで作ったんだ。原曲はこれ。」と言って携帯のYOU TUBEで曲をかけた。みんなは深山の周りにわらわらと集まって来て、エリック・クラプトンのTears In Heavenに聞き耳を立てた。「ちょと、聞こえないからそのCD消して。」と言われた紗保里は、こみ上げてきた涙もすっかり引っ込んで、慌ててCDを消し、耳を済ませた。

 Would you hold my hand if I saw you in heaven? Would you help me stand if I saw you in heaven? I'll find my way through night and day because I know I just can't stay here in heaven

 エリック・クラプトンのだみ声は、深い悲しみ、後悔、懺悔、そして少しの救済を感じさせ、聞くものの心を深くえぐった。「泣きそう。」「なんか感動。」「歌詞の意味がよくわかった。」

「そこからだよ、みなみん。みんな真剣にコーラスの練習をし始めて、パート分けもしたし、コーラス部のソプラノの子のソロも入れたし。感動のコーラスになると思うよ。優勝しちゃうかもよ。」

「出遅れてるから優勝は難しいみん。でも、みなみんの教えは効果があったみん?」
「効果があったかなぁ?みんながまとまったのは深山君のおかげだし。」「さぼりちゃんはきっかけを作ったみん。みなみんの教えはさぼりちゃん個人を成長させる教えだから、さぼりちゃんが一生懸命コーラスに取組んで、成長すればそれが効果だみん。それに、この教えには続きがあるみん。昨日さぼりちゃんは『自分一人しかいない』は寂しくて厳しい感じって言ってたけど、逆だみん。『自分一人しかいない』と思って頑張った時、周りの人の心を動かして、それぞれが自立した本当の仲間ができるみん。勉強も、部活も、仕事も同じで、自分一人しかいないと責任を持って全力を尽くすと、本当の仲間ができて一人じゃなくなり、満足できる結果が得られるみん。」

第9回