「―――――じゃ、行ってくるね〜あお」 「きゅ」 いってらっしゃいと言っているようにあおがぴちぴちとバケツの中で跳ねるのを見てからラーシ スはふんふんといつもの如く鼻歌を歌いながらギルドで紹介された仕事へと赴いていった。
残されたあおはぺちと一度水を跳ねた。こうやってラーシスが仕事に出かけてしまうと案外暇 なものである。騒ぐ相手もいなければ、やることもないからだ。 ぺちぺちと尻尾を振って、暇そうに水を跳ねさせる。 一応危ないかもしれないから外には出るなといわれているので、あおは律儀にそれを守って いた。いや、守っていたというよりかはただ単に、例え暇であっても外に出るのは面倒くさいの で家に留まっているだけなのだが。 それに第一あおは本来外で一匹気ままに暮らしていた。適当に水に流れ、適当に風に流れ そんな日々の繰り返し。 だから今更危ないといわれたところで昔と大して変わらないのだ。 適当に危ないことに直面しつつ適当にのほほんしていて、そして適当に――――していたと ころでラーシスに出会ったのだ。 人間を見るのは初めてではなかったが、まじまじとこちらを見つめる蒼紫の瞳が面白いので ラーシスの誘いを受けて、付いてきたのだ。 だから、その気になればいつでもここから出て行くことも出来る。別に付いて来ただけであっ てそれ以上の契約も約束も何もしていないのだから。そういう権利はあおにあった。 けれどそれをしないのは、ラーシスが案外に気に入っているからである。 八つ当たりをされたりもしてむかつくことも多々あるが、楽しいことはそれはそれで事実であ るのを知っていたのであおはここに留まっている。 ぺちぺちと水を跳ねさせる。飛び散った水の飛沫があたりを濡らしているが、そこらへんは 頭を働かせてラーシスがタオルをひいていっていたので全てタオルに吸い込まれていた。あお がバケツから外に出るときもこれで体をこすりつけて水分をある程度飛ばすようの用途もあっ た。 どうせラーシスが仕事に出てしまえば2、3日は大抵帰ってこないので、あおは自分の飼い 主が帰ってくるのを待つために眠ることにした。 静かな部屋に再び喧騒が訪れるときまで――――。
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