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 空には雲一つなく、青髪の少女はふんふんと鼻歌を歌いながら道無き道を歩いていた。聞こえてくるのは鳥の声と、木々が風に
そよぐ音だけである。あと、少女の鼻歌。
 少女はヒマだったので、仕事も無いことだしと散歩に出かけたのだ。適当に気分で歩いていたらいつのまにか道になっていない
場所を歩いているのだが当の本人は鼻歌を歌うのと空の美しさにいっぱいいっぱいで気が付いていない。
 そうして家からどれだけ歩いただろうか。少女の前にせせらぎとともに、一つの小さな小川が見えてきた。
 日の光がきらきらと透明な水に反射して目に刺さる。少女は空を見上げた。空には燦々と太陽が思い切りその光を大地へと注ぎ
込んでいる。
「・・・・暑・・・・・」
 小さく呟いて少女は額の汗を拭った。太陽は頂点まで上り詰めていて、外温も少女が家を出発したときと比べて結構上がってい
た。
「・・・・・・・♪」
 じーっと小川を見つめて、にやりと少女は笑みを浮かべると、少女は自らが履いていた靴を脱ぎ捨てて小川へと飛び込んだ。

 

 少女が一歩歩く度に、水の跳ねる音がせせらぎに混じって響く。川を流れる魚や、上流から流れてきた木の落し物が足を避け
て下流へと流れていく。
 足から伝わる水の冷たさに少女が喜悦の笑みでいっぱいになった。気分がよくなって、ぬるぬるする苔もお構いなしに、まる
でもっと盛大に音を立てるよう少女は川を歩き回った。
 鼻歌をふんふん鳴らしながら、草の陰やら石の下やらあちらこちらを見て回る。
 方向転換をした次の瞬間、空が目の中に入った。
 ばしゃん。
 苔の多いところを注意もせずに歩き回って少女は物の見事に生えた苔で転んでしまったのだ。
 頭から水をかぶったのと、思い切り打ち付けたお尻の痛みに一瞬顔をしかめて目をしぱしぱさせたが、それすらも何か面白く
なったのか少女はくすくす声をあげて笑い出した。
 正直傍から見ていたら怪しい以外の何者でもなかったが、少女以外周り人はいなかったので特に少女は気にしなかった。
 びしょ濡れになったのをこれ幸いといわんばかりに、ごろりと川底に転がって、今度は体全体で水の冷たさを感じ始めた。太
陽の熱に火照った体が、水の冷たさにひんやりと身体の奥から冷えていく。新たに感じた水の冷たさに少女は今日何度目か判ら
ない満面の笑みをこぼした。
 けれど、このままごろごろここで転がっていても仕方が無いのでもそもそ起き上がる。四つんばいの低い姿勢で川の下流を見
つめてみる。視点の変えた川の様子は立っていた時と違ってまた違う表情を表した。
 顔だけを小動物のように色々な方向に向けていると、少し先の下流で何かがきらりと光った。
「?」
 魚かと思い目を凝らしてみたが、魚にしては大きすぎる。
 じゃあ何か物かと思い更に目を凝らしてみる。が、どうやら違うらしい。
 もぞもぞ動いているので、生き物であるのは間違いないらしい。
「♪」
 面白そうなのでよつんばいのままその物体に接近していく。逃げられないようにそぅっとなるべく物音を立てないように。
―――――といっても水の跳ねる音はどうしても響いてしまうのだが。
「ていっ!!」
 思い切り近くまで接近して、その物体がこちらを振り向く瞬間と同時にそれに飛びついた。
「びちびちびちびち!!!!!」
「へ?」
 むぎゅ、と何かをつかむ感触。ついでに思い切り容赦なく顔に降りかかった水しぶき。
 空いたほうの手で顔にかかった水しぶきを拭い、思わず瞑ってしまった目を開いてみるとそこには――――

 

「・・・・・魚?」
 しかも妙にビーックサイズ。しかも妙に光って青色。
「びちびちびちびちびち!!!!」
 あ、なんか抗議しているっぽいですな。異様にびちびちしている。つーか、外見魚のクセにと思ったが押しとどめる。
「じゃあ・・・・何よ?」
「びちびち!」
 あ、ショック受けてるみたい。バックに暗いもん背負ってる。ちょっと笑えるかも。
「・・・・・一緒に来る?」
 なんとなく面白いのでなんとなくそう言ってみる。言葉が通じているのかは際どいどころだけれども。
「ぴちぴちぴちぴち♪」
 イキよくぴちぴちし始めた。どうやら喜んでいるみたいで、肯定の表現として受け止めた。
「じゃあ行こっか♪」
「ぴちぴち♪」
ということでこの謎な、魚の外見しているくせに魚と言うと怒ってびちびちする物体との共同生活が始まった。
―――――――――END
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